33 森が拾った、無意識の恋
シルフィーを見送った後。
生地に練り込む癒しの花、睡眠薬、痛み止め、体力回復などのベースとなる薬草を、ちょこちょこ採ってはカゴに保管する。
「薬効になる薬草はそれぞれまたとらないとね...ついでに、街のギルドで依頼ももらってこようかしら。お金を作らないといけないしなあ」
心配なのは私の結婚印だ。
普通の人には見えないが、貴族や魔術師と出会って仕舞えば、ルシアンの妻で魔女で元姫のラベンダーだとバレてしまう。
「どちらにしても城下に行って情報を得ないといけないし...お昼はみんな働いてるから出会うことはないわよね...」
プチプチ薬草の芽をちぎっていると、大樹のそばに再びやってくる
もう一度ーー話しかけたら、答えてくれるかしら?
「大樹様、お父様ってここにきたことがあるの?」
額を大樹の幹に押し当てて返答を待つ。
だが、答えは返って来ない。
「お父様がね、私が国外に逃げたらこの森を破壊して妖精たちが二度と生まれないようにするっていうの。お父様は、この森を知ってるのよね。ここで妖精たちが誕生したり、遊び回っているのを知ってて言ったのよね。」
どんな思いでここにきたのだろうか?
妻になるヴァネッサは、恋心をもって森の外に飛び出していったという。
それを父は知っていたのだろうか?
母はその人とどうなったのだろうか?
「恋か...私にはもうそんな機会は来ないわね。一度ぐらい、恋に落ちてみたかったけど、でもそんな機会なくて良かったんだわ。きっと」
でも、ルシアンは違った。
恋をしたのに、その思いは成就せず、好きでもない私と無理やり結婚させられた。
しかも、その好きだった人は私の父の再婚相手なのだ。
昨夜の苦しそうなルシアンの声を思い出すと、胸が苦しくなった。
「私と別れても、その方と成就することはないのよね。でも、何かできないかしら」
使い魔の対価が間に合ううちに自由にしてあげたいが、下手をすると対価を払いすぎて、わたしの命が尽きて、結果自由になるパターンかもしれない。
「大樹様、ルシアン様は私が一人前の魔女になれるようにずっと手助けしてくれていたのですって。私は知らずに、一人で一人前になったつもりでいたの。
だから、お父様の再婚相手の方とは無理かもしれないけど、次こそ彼が幸せになれるようにしたいわ。そのためにも、早くこの結婚契約を解除しないとね。」
私はそっと大樹から離れる。
何も返答がないのは、何も今伝えることがないからなのだ。
私は再び薬草を摘み始めた。
「恋が叶うようなお薬があったら...ダメダメ、犯罪に使われちゃう」
一瞬大儲け!と考えたが、人の心に作用するものは作ってはダメだ。
プチプチ摘み続けるとあれ??
「無意識って怖いわ。こんなに摘んだたみたい。癒しの花もとれたし、あとはクッキーに練り込むだけね」
私はカゴを持ち、急いで家に戻る。
◇◇◇
その時ーー
そんな私の姿をそばで見つめている人がいるなんて、その時は知りもしなかった。
魔女の森は魔女のためにある。
けれど、この森は「魔女を想い、魔女が想う」者にも優しいのだ。
ラベンダーはまだ知らない。
魔女の森だけが、その“無意識の恋”の気配を静かに感じ取っていた。




