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天才魔術師団長は天才魔女姫を壊せない  作者: かんあずき


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3 帰還命令と婚約騒動

久しぶりの王城は、帰ってきた王女ラベンダーを見てざわついていた。


(そんな“珍獣”を見るような目はやめてほしいんだけど……)


でも、ざわつく理由はすぐわかった。

今、城中のゴシップNo.1こそ、まさに私が呼び戻された理由だったのだ。



「まずは確認。お母様が誰かを間違えて殺したとか、燃やしたとか、間違えて恋に落ちたとか……そういう話じゃないのね?」


宰相ニコラスの執務室で話を聞き、思わず安堵の息をつく。


しかも今回は珍しく、うち(母と私)が原因の騒動ではないらしい。


ニコラスが差し出した紅茶は、この国名物の“バロウの実”を使った香り高いフルーティーな茶。

ひと口飲むと、つい頬が緩んだ。


「さて……話題の中心人物ですが。国最強の魔術師、ルシアン・クロヴィス殿はご存知ですか?」


ニコラスは、ニコニコと表情よく話す。


「魔術師団長のルシアン……“冷徹無比、容赦なし、王にも頭を下げない。一人で千の兵に匹敵”だっけ?彼が何を?」


「ついに、王子たちの愚行に愛想を尽かして辞表を出したそうで」


「……ああ、なるほどね」


彼の名前はお母様から聞いたことがある。

第一夫人から第三夫人まで、迷惑魔道具や怪しげな薬に手を出すたび叩き斬る人だ。

第三夫人の母に至っては、父との閨のお楽しみに“変な魔法”を使おうとして、魔術師団長が何度もその場に突撃して怒鳴り合っていた。


母とは――

……まあ、毎回本気の喧嘩だったけれど。


「母とだけは相性最悪よね、完全に」


「ですがラベンダー様は、ルシアン様を困らせるようなことはしませんから」


そう言ってニコラスはクッキーをすすめてくれる。

香ばしいナッツの香りが広がった。


「にしても……お兄様たち、何やらかしたのかしらね」


ぼそっと呟き、紅茶をまた一口。

けれど、問題はそこじゃなかった。


「でも、そんなことは私が考えることではないわね。問題はそのあとだわ。なんで彼が兄に愛想をつかしたことと、私の帰還命令に関係があるのかしら?」


肘をソファーの肘置きに置き、私はこめかみを手でぐりぐりと揉んだ。


「それがルシアンが退職届を出しに来た時、もう一人子供がいる!あんなに出来の良い娘の勉強をみる前から未来はないと国を見限ってどうするんだ!と王が言い出しまして...」


私は思わず買って熱い紅茶を飲み損ねる。


ぐふっ!!


この世界は魔力を持つものは多いが、その中でも高い魔力を持っているのは王族、貴族、そしてごくわずかに出現する平民だ。その中でも魔術師団は能力が高い。

兄に愛想を尽かした魔術師に、それと同じぐらい魔力が高い娘を最後の砦にしようとしたのはわかる。

だが、残念ながら魔術の出来はいいわけじゃない。


「ラベンダー様、大丈夫ですか!!」


ニコラスが慌てて心配そうにハンカチを差し出す。

私は思わず口から吹きこぼしそうになった紅茶をハンカチで拭く。


「私が森に行ってからは、お父様もお母様もほとんど私とは接してないし、そもそも王位を継ぐことがないから、お兄様ほどの勉強なんてしてないわよ」


魔女の学びは魔術師とは異なる。

魔女は自身の持っている才能を、自然の力を借りながら操るが、魔術師はその魔術の原理原則を学び自らが作り出す。


「魔術という学びに関しては、二人以上にわたしは出来が悪いと思うわ。」


結果が同じようなものなので、魔術師と魔女は似たもの同士と思われるが、スタート地点から違うのだ。

私は妖精や精霊を召喚したり、利用して形を変えるが、彼らは魔法そのものを生み出してしまう。



「お父様はともかくとして、お母様はそのことをしっているはずなのだけど」


「肝心なのは、その“あと”なんですよ」


ニコラスが眉を八の字にしてこちらをうかがう。


嫌な予感しかしない。


「全部聞くわ。父はなかなか私と話さないし、母はわかっててロクでもないことを仕掛けてくるもの」


覚悟して紅茶を飲み干す。


「……王と王妃は、ルシアン殿にこう言ったそうです。


『ぜひこの国を支えてほしい。そのために――“娘の教育”と“結婚”を考えてほしい』と」


「はあああああああ!?!?」


危うくティーカップを粉砕するとこだった。

震える手で必死に机へ戻す。


「ちょっ……そんな大事な話、手紙に一言も書いてなかったんだけど!?誰が!?誰と!?なんで婚約!?

冗談じゃない!!私は静かに森で暮らしたいだけよ!!」


ニコラスは気の毒そうに何度も頷く。


「第一、私とルシアンって接点ゼロよ!?

せいぜい、母が王城を燃やしかけたときに一緒に消火したくらい!」


更に、頭を振りながら記憶を思い出そうとする。


「ああ!あとは、まだ森に行く前に、ルシアンに母のことで嫌味を言われたことがあったわ。結局、悪いのはこっちだから言い返すことも出来ずにしょんぼりしてたら、むしろ言い過ぎたと謝られたわ。」


手をぱんと叩いた。思い出した。

ほとんど接点はないが、だからといってむやみやたらに人を攻撃する人ではないと感じたのだ。


(いや、でも、恋に落ちる未来は絶対ないわよね……)


「王としては、ラベンダー様が“最後の希望”なのです。

王子たちは魔力が平凡で、ルシアン殿には相手にされなくて……。ですが、あなたはヴァネッサ様の娘。唯一の切り札なのです」


「つまり、“最強の魔術師に娘を押し付ければ、王家は安泰”って?教育も結婚も、王命でまとめて押し付けるなんて……悪質な二重契約じゃない」


私は頭を抱え、再びこめかみをぐりぐり揉む。


「宰相……彼だって、ルシアン様だって絶対避けたいはずよね?なんか、上手い逃げ道ってない?」


私は、ない知恵を総動員して必死に考えた。


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