27 猫の魔を呼ぶ姫の決断
母のことをしらべるために使い魔を召喚したいと思ったものの...どうやれば迷惑がかからないだろうか?
私は使い魔を召喚するための杖を持って考える。
ここで私の代役をつくらないといけないーー
これから父が事あるごとにわたしを呼び出すかもしれない。
契約する以上は、魔なら私のフリを徹底的にして動いてくれる。
だけど、使い魔は魔なのだ。
ルシアンの新たな迷惑にならなければいいんだけど。
なにせ、迷惑かけすぎてるものね
「魔女は“魔”を扱えるけど、魔とはいわゆる悪魔のことだしなあ。宿舎や王城に魔がいても許されるのかしら?
私はこれまで魔を使ったことがないのよね」
母は使い魔をいくつか持っていた。
連絡する時に使ってきた連絡蚊も、使い魔の一種だ。
だからーー許されるわよね。きっと。
いつまでも綺麗な元姫では生きてはいけない。
考えるだけでは何も解決しない。
動かなければならないことが山ほどある。
「今回は背に腹は代えられない。使い魔に協力を求めるなら……何を対価にできるかしら」
母は自分の宝石もドレスも全部空間バッグに詰めて、王城から逃げていった。
私はまともなドレス一枚なく、姫らしい身なりからはほど遠い。
(姫を長くやりすぎたわね。もっと森にいる時にがめつく稼げばよかった)
そうすれば宝石などを対価にできたかもしれない
「使い魔にするなら……猫がいいかしら。ネズミや鳥は駆除されるかもしれないし。」
そっと杖を揺らす。
魔獣の瘴気で枯れた枝から作られた、魔を呼ぶ杖。
「これを使うともう後戻りできない気がする」
でも……戻る必要なんてある?
綺麗な姫でいる必要も、もうない。
父も兄も、魔を召喚してないのにドロドロに黒い。
いっそ、綺麗、汚い以前に、私が消えれば皆が救われる気さえする。
いや……ダメ。
まだ知らないことが多すぎる。
今はその時じゃない。
「猫の使い魔──召喚するわ。魔の時を超え、この世界・この場所へ。我が魔の元に従え」
魔法言語を紡ぐと、空間に黒い裂け目が生まれ、鋭い瞳が光った。
「対価は?」
「あなたが欲しいものは私にあるの?」
「ふむ……命、魔力、その体、記憶、声……いろいろあるわね」
ろくでもない。
魔力も記憶も声も取られたら魔女として終わる。
残るは命しかない。
「使い魔の対価の“命”って、どれくらい取るの?」
「手紙を送る程度なら一分。お前の代わりに一日動くなら……一ヶ月で一年の命かな」
「……一年頼んだら十二年命が縮むってことね」
使い魔の長期雇用なんて非現実的だ。
短時間の見張りや、行きたくない場所への代理くらいが限界。
これでは何年命があっても足りない。
「はぁ……使い魔の雇用って、難しいわね……ああそうだ。試しに、私の髪とかどう?魔力しっかり詰まってるわよ」
私の髪の毛は、父に似た金髪だった。
母は黒。魔を扱うようになると、次第に心の黒い部分が増えてきて、髪も目も心もどんどん黒くなるらしい。
それなら、もう短く切ってしまったらいいんじゃないだろうか?そしてそれは対価にならないかしら?
「あら?純粋無垢な魔力ね。でも、髪に含まれるものなんてごくわずかだからなぁ。せいぜい一時間だわ」
一時間か...ルシアン様に、一時間でここから出ていって市井で働く話ができるだろうか?
「わかったわ。一時間でここに戻ってくるからーー私のフリをしていてくれる?私は..あなたの猫の体を借りるわ」
その瞬間交渉が成立した。
私の頭は瞬時に刈られ、地肌が見えるほど短髪に...そして短い髪も金から黒に変わる。
私は、シルバー長毛の猫にかわり、壁を通り抜け、ルシアンの執務室のある方向に歩いていった。




