24 もう姫ではなく俺の妻
ルシアンは、クラリスのことを思い出しながら、執務室に向かって歩く。周りが遠巻きに見ている。
ーーすでに、いろんな話が飛び回っているのか。
それと同時に頭が冷えてくる。
(ラベンダー姫、大丈夫だろうか?)
ヴァネッサ王妃は、王と結婚の誓約解除の術を施し、ラベンダーと話す間もなく王城を出てしまった。荷物なんて、杖ひとつで空間に詰め込み姿をその場で消してしまう。
第三王妃であったし、国民への公布も明日にはされて終わりだという。
王は、まるでヴァネッサやラベンダーの件は片付いたと言わんばかりだ。
更には、ラベンダーと俺が離れられないように、結婚誓約の魔術をその場でさせられてしまう。
もう見る者が見たら、結婚したと分かるわけだーー
執務室で、溜まった仕事を始める。
言い訳でもなんでもなく、ラベンダーにかかりきりにしてしまって、決裁するものも溜まっている。
また、新たに魔獣が出て派遣しないといけない地域も選定が必要だし、彼女の指導と護衛もーーー
もう、ラベンダーは姫じゃなくて俺の妻か...
国内にいるなら王城に居なくても構わない。
クリス王子に襲われそうになることも、王城内の陰謀に巻き込まれるリスクも減るなら、護衛なんて考えなくてもいいのかもしれない。
魔術の指導も、本を渡してわからないところだけ聞くように言えばいいし...
それよりは、実家に顔を出してラベンダーを紹介することになるが、魔女を娶ったと言って嫌な顔をするか、姫を娶ったといって喜ぶかで彼女に伝えておく言葉がかわるかな...
あれ以上傷つく必要もない...
そんなことを考えながら、机の書類にサインを入れていると、ドアを突然蹴破る勢いで入ってくる奴らがいる。
「ルシアンーーって、お前マジで結婚したのか?」
「あーあ、結婚印入れられてるじゃねえか」
副団長のミハエルとグレイが部屋に入ってすぐに叫んだ。
「そんなに目立つか?」
「がっつり王家のラベンダー姫ってわかるぞ」
「そうか。」
「そうかじゃない、なんで離婚したヴァネッサ王妃の娘を押し付けられてるんだよ。しかも、第四夫人を迎えると聞いたんだが...」
「離婚した話までもう流れてるのか、気を遣わなくていい。ヴァネッサの後釜として新たな第三夫人になるのは、間違いなくクラリスだ」
俺は何事もなかったように淡々とサインを入れ続ける。
「どの話から突っ込んでいいんだ?」
ミハエルは、淡々と答える俺に困惑している。
「俺は、魔女の話が聞きたい。ラベンダー姫の顔をもう見たのか?」
グレイはその情報をそのまま他の隊員に流すとばかりに興奮気味だ。
「どの魔術師にも破れない認識阻害で顔を隠してるから、顔に何かあるのかと言われてるよな。目があった途端に石にされるとか」
「そんなことより、そもそもルシアンが望んだ結婚じゃないだろ。なんで退職を願い出てたやつが結婚になるんだよ」
俺はため息をつく。
「正直、どこまでがシークレットな話なのかもう分からん。
俺の退職話が出て、そのために魔女の森にいたラベンダー姫が呼び戻されて、原因となったクリス王子に襲われそうになって、エリザベート王妃からない罪を浴びせられそうになった。」
「はっ?ラベンダー姫が襲われる?兄にか?」
「ああ、そして、それを王に直訴に行ったら俺と結婚しないとならない状況になった...今はそれ以上は詳しくは話せない」
そう端的に話してみたが、やはりラベンダー姫は被害者すぎる。
「ラベンダー姫はクリス王子たちの攻撃から守るために俺の宿舎の部屋に閉じ込めてある。これからどうしようか迷ってるところだ。彼女の自室には、護衛どころか侍女すらいないからな」
「えっ!!」
ミハエルとグレイが顔を見合わせる。
「すまん、俺もう情報過多すぎ...」
「ここまでの話では、ラベンダー姫まともに聞こえるんだが??」
「まともだよ。魔女どころか、性格もクラリスよりも聖女だ。顔もヴァネッサ王妃とタイプが違うだけで悪くない」
ただ、かつて知っていた守りが弱くても天真爛漫に眩しいほどに前に突き進もうとする彼女ではないだけだ。
いや、あの王を前に必死で俺だけでも守ろうとしてくれたのに...
俺は、最低な態度で部屋を出てしまったーー
「つい、苛立ちを彼女にぶつけて出てしまった。ラベンダー...泣いてなければいいが...」
手を止め、そうぼんやりつぶやく俺をみて、ミハエルとグレイは顔を見合わせた。




