21 父王の狂気と魔女姫の反逆
「わたしのことはわかったわ。でも、ルシアン様は...わたしとは関係ないわ。結婚する気もお互いないの。彼をまず退任させて自由に」
わたしがつぶやくように父に話す。
声が掠れて、立っているのがやっとだ。
ルシアンが、慌てたようにわたしに怒鳴る
「ここまで聞かされて、君をここに置いていけるわけないだろう!」
ルシアンを前にわたしは首を振る。
思った以上にみんな腐ってるわ。
ルシアンが退職届を叩きつけたのは正しい選択だ。
「いえ、置いていかないということは...ここに縛り付けられるということよ。あなただって国にとって価値があるから縛り付けようとされてるの。お父様、悪いけどあなたは腐ってるわ。でも、私というあらたな生贄ができたのだから満足よね。関係ないルシアン様は解放して」
「いいよぉ、でもなあ」
ルシアンの性格を見抜いているのだろう。
それが腹立たしいのに、下卑た笑いで父は私を見る。
「ここまで聞かされちゃって出て行ったら、当然ルシアンの家は...どうなるかなあ。どんなにルシアンが、家族との関係がよかろうとよくなかろうと、ルシアンは君が知っての通り優しいんだよね。ああ、権力って素敵だよね」
うっとりするような言い方で父は煽る。
わたしはひゅっと息をのみ、背中に嫌な汗が流れてくる。
ルシアン様の性格だけでなく、実家も利用してくるの?
「でも、ヴァネッサはお役御免で離婚するよ。だって、1週間は7日しかないんだ。毎晩平等にお部屋に行くのに、3日回るのを2クールで、一日休みだったのに4人になると綺麗じゃないよね。やっぱり3人が回しやすい」
わたしは父とはほぼ会話をしない。
だが、やっと会えて話した対話がこれでは酷すぎる。
「二人を...二人を解放して」
わたしは思わず父を怒鳴りつけた。
だが、そこにドアをノックする後がする。
「王、お話中失礼します」
宰相のニコラスだ。
ニコラスは昨日とは違いわたしの方を見て冷たい目を見せる。そして、父の耳元で何やら囁いている。
昨日私たち、普通に雑談をしてお茶とお菓子を食べながら話をしたのに...ニコラスも、私を国の道具として見ているの??
「ニ、ニコラス...」
「ラベンダー様、先ほど第一夫人エリザベート様とその侍女たちに手作りの化粧品を贈られましたね」
「贈ったわ。もちろん、余計なものが入っていないことを、私の手で見せて証明もしたわ!」
「あなた様は魔女です。自分に被害が来ないようにすることは出来るでしょう。王、エリザベート様の肌が、ラベンダー様から渡された化粧品で激しく爛れて!今医師を急いで呼んでおります」
昨日と同じ目で笑っていたはずのニコラスが、
今日は“問題児を見るような目”でわたしを見た。
ああ、もう、ニコラスも味方ではない。
胸の奥がひやりと凍った。
わたしは“魔女だから”疑われるのだ。
魔女だというだけで、危害を加えるものを作り、自分に被害が来ないような操作ができると思われるなんてーー
「すぐラベンダーを捕らえよ」
父が叫ぶ。
「待ちなさい!その爛れが本当に起こっているのか、虚偽なのか、今の話ではわからないわ。ラベンダーは姫よ。」
母ヴァネッサが叫ぶ。
そして、こっそり、母は使い魔を回す。
ルシアンもわたしを守ろうと、室内に入ってきた近衛兵の前に立つ。
母が何がしてくれているのだわーー時間を、時間を稼がないと...
「お父様、今ここで、お父様の本当の思いを聞かされて、更にタイミングよく第一夫人エリザベート様に害があるなんて、ありえません。目の前でその被害を見せてくださらないなら、わたしはここで近衛兵を振り切って逃げます。」
父は眉をひとつ上げ、冷たい視線を向けてくる。
もしわたしは捕まったとしても逃げ切れる自信もある。
「森を害するというなら、森の前で受けて立ちます。
そのときは全兵を相手にしても戦い抜く自信があります。
仮にわたしが倒されても……この国は魔女を失うだけ。
国の損害になるのは、そちらですわ」
大声で言い放つと、室内の空気がびりっと震えた。
父はしばらく無言でわたしを見つめ――
短く命じた。
「……エリザベートを呼べ」




