18 隠された姫、ついに声を上げる
そこで、私が一歩前、ルシアン様が数歩後ろを歩く形に変更された。
──人前を歩くなんて、本当に久しぶりだ。
廊下ですれ違う人全員に
「ごきげんよう」
と笑顔を作って声をかけてみるものの、返ってくる反応は決まって“変なものを見る目”。
というか……誰も、私をラベンダーだと認識していない。
「あの...きっと私はみんなに認識されてないですよね」
認識どころか、むしろ、みんな揃って私の“後ろ”を見て青ざめ、距離を取っていく。
……ルシアン様。
そんなに威圧放出しないでいただけませんか……。
(つらい……お母様、どうしてお部屋は端っこにあるのですか……)
母の部屋は遠すぎる。
「思ったのだが、別に君が挨拶しなくてもいいのではないか? 本来、みんなが君に頭を下げるべき立場だろう」
ルシアンが淡々と言う。
「立場はそうなんですが、顔を出すのも久しぶりですし、みんなも誰なのかわからないですよね。」
わたしも苦笑いするしかない
「申し訳ないが私も姫を社交の場でほとんど見たことがない。黒いモヤで隠している姿なら何度か……以前を知っているからわかるのだが...」
「父や王妃やお兄様たちが主役ですもの。私は、空気に溶け込むのが仕事でしたから」
背筋を真っ直ぐ伸ばし、王族としての微笑みを保ちながら歩く。想像以上に……姿を現すのは疲れる。
ルシアン様はわたしの様子を見かねて話しかけてくれるけれど、私の体はカチカチで、優雅な歩行の裏側では足が震えていた。
「お母様いるかしら?」
母の部屋までいくと、護衛が入り口を守っている。
ドアをノックすると、侍女が対応する。
「ラベンダー様、申し訳ありませんが、本日は平等の日です」
平等の日??
わたしはルシアンを見る。
王と王妃の二人の逢瀬だと小声で囁かれる。
なるほど、それが平等の日ね。
「火急の要件だ。王も一緒なら尚のこといい。面会させて欲しい」
ルシアンが侍女に詰め寄る。
「ルシアン様も、ご存知のはず。平等の日はご夫婦が平等に過ごすもので、お子であっても邪魔できません」
侍女がキッとした目で睨みつけるが、そんなものがルシアンに聞くはずがない。
「そうか。それなら待ち時間もなく邪魔するが??服を着る時間ぐらいはくれてやる。すぐ準備させろ。」
侍女の話をスルーし、地獄のような響く声をあげると、ルシアンはドアをガンガン叩きはじめた。
「ル、ルシアン様!」
もはやわたしの護衛ではない。
私が彼の従者である。
侍女は怯えて涙目になり、慌ててヴァネッサを呼びにいく。
入口の護衛は、どうしたら良いのかと固まっている。
魔術師団長の方が、護衛兵よりと上だ。
手を出しにくいらしい。
そして、わたしの顔は...誰?という感じ。
私も思わずルシアンの服の袖を引っ張り、「で、出直しましょうか?」と顔が引き攣る。
「ラベンダー様、強気にいきましょう。ヴァネッサ王妃はこんなことで怯まない。ピンチも刺激にできる方だ。安心して邪魔したらいい」
ひぃぃぃぃーーーっ!
その刺激は私が受けることになるんですけど...
そのドアのそばにいる護衛兵も、ルシアンの会話から「ラベンダー様??」と目を見開いている。
「なによーっ!ここまで聞こえてるわよ!」
部屋の中から母ヴァネッサの怒鳴り声がする。
「お母様、もしよければお父様も...お話があるの」
「入り口で悪口いうぐらいなら入ったら」
わたしはその声を聞いて、ルシアンと恐る恐る部屋にはいる。部屋には、久しぶりに見る父と母ヴァネッサが、酒盛りの最中だった。
「なあに?娘さんをわたしにください報告かしら?ねぇ、あなた」
母ヴァネッサが差し出すグラスに、父王がワインを注ぐ。
「お母様、目を覚ましてください。」
わたしは、杖でワインとグラスを葡萄とガラスの原料の石に戻し、母にヒールをかけ酔いを取る。
父とルシアンは、それを見て目を丸くする。
「何すんのよ。人が気持ちよく夫と過ごしてるのに?」
「お母様、すいません。でも伝えなければ...そ、その。」
クリスとのことを思い出すだけで吐き気と震えが復活しそうになる。
「実は、先ほど、クリスお兄様に襲われそうになったんです。ルシアン様に助けてもらい事なきを得ました。」
ヴァネッサの表情が固まり、手が止まる。
「お父様にも、聞いていただきたいです。兄二人のことですが、あのまま放置はできないと考えます。お父様は、平等で争いを避けていると思いますが、それゆえに判断に遅れが出ていると感じています。」
ルシアンがそっと肩に手を置いた。
上手く、伝えられない悔しさで体に震えがくる。
「二人の噂なら知ってるよ。だがどうする?息子は二人しかいない。まさかラベンダー、君がわたしの代わりになりたいとでも?」
久しぶりに見る父は、見た目はクリスに似ていて、口調はリチャードに似ていた。金髪の髪型やや減り、額や目尻に皺が入る。
だが、口調に緊急性を感じない。
「お父様、ルシアン様まで利用してわたしを呼び戻したのはお父様ですよね。私は呼び出しがなければ森に居続けていたと思います。そんなわたしが、王の座を狙うとでも?」
森の中で静かに暮らしていたかったのだ。
王に就いて、いろんな人から視線を浴び続けるなんてしたいわけあるはずがない。
「家族の一員としてお伝えしたいのです。お父様が平等に接した結果、今リチャード兄様は、国の財産を私財のように人に明け渡して利益を得ているし、クリスお兄様は、犯罪行為に手を染めている上に、実の妹の私も危ない目に遭うところだったのです。今、私たち3人に置かれた状況は平等でしょうか?」
わたしは久しぶりに会った父の態度に怒りを感じ、思わず詰め寄るのだった。




