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天才魔術師団長は天才魔女姫を壊せない  作者: かんあずき


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13 王子の暴走、護衛の怒り

「クリスお兄様、どうして……? なんで私を……?」


私が兄クリスと最後にまともに話したのは、いつだっただろう。

普段から私は“闇に紛れるように”生きていたから、同じ場にいても会話らしい会話はほとんどなかった。

それこそ、二人きりなんて、小さな子どもの頃以来かもしれない。


迂闊だった。

震えが止まらない。

子供の頃と、大きくなった今では環境もお互い全てが違うのだ。

侍女の乱れた服装も、今になってすべて腑に落ちてしまった。


「ラベンダー様、一度深呼吸を。ゆっくり吸って、吐いて……」


ルシアンの低い声に合わせて呼吸を整える。

震えは少しだけ収まったものの、心の動揺はどうにもならない。


「これからは私が護衛します。すぐに王と王妃に許可を取りますので……まずはヴァネッサ様のところに避難しましょう。ここには侍女も護衛もいません。危険です」


コクリと頷く。

けれど、ルシアンの服を掴んだ指はどうしても離れなかった。


「ごめんなさい……分かってるの。母にも叱られてしまうわね。頭では分かってるんだけど、震えが……ごめんなさい」


「謝ることではありません。ラベンダー様は悪くない。ゆっくりで大丈夫です」


優しい声が胸に染みて、余計に涙が出そうになる。


「クリスお兄様は……いえ、兄二人は、あなたに沢山迷惑をかけていたのね。私まで、あなたに迷惑をかけて……揃いも揃って……」


ヴァネッサに会えば怒られるのは分かっていた。

護衛をつけないのは、“自分の身は自分で守れるから”。

母からすれば、一人で修行に出るようになった時点で、弱者は魔女として不適格なのだ。


それに——

あの母が、ライバル夫人の息子に娘が負けかけたと知ったら、間違いなく烈火の如く怒る。


本来なら、こんなもの倒せたはずだった。

身内でなければ。

兄でなければ。

最初の一撃を手加減なんてしなければ。


——恐怖で、腰が抜けてしまわなければ。


(ああ……穴があったら入りたいって、こういうことなのね)


「自分を責めない。あなたのことで迷惑をかけられた使用人や騎士や魔術師はいませんよ。」


「そんなことないわ。あなたは退職したいという意志だったのに、王命で、私の教育や結婚まで押し付けられて、挙句に今回兄妹のトラブルまで巻き込んでしまって...」


「流石に、王子二人の護衛は外してもらいました。ただ、あの方には護衛ではなく監視が必要だということも、今回のことでよくわかりました。まさか王城でも悪さをはたらかすとは...

今日みたいなことが外で起こる可能性を考えてあなたに魔術も教えるべきだと言っていたのにーー私の見通しの甘さです」


ルシアンはやれやれと眉を顰め、深いため息をついた。

ルシアンからしても、クリスの行動は想定外だったらしい。


「お兄様の部屋から、侍女が出てきたの。洋服が乱れてて、でも、無理矢理かどうかはわからない。私とルシアン様の婚約話を彼女から聞いたと話していたから...」


「そもそも、侍女だったのかどうかを調べなくてはいけませんが...ラベンダー様、もしよければ昨日のお礼に、私が今度は、少しほっとするようなお茶を振る舞いたいのですがいかがでしょう?」


あまりに私が沈み込んでしまっているし、手も離さないからだろう。

少し雰囲気を変えるように、今までにない優しい声でルシアンが話しかけてきた。


「ただ...私の部屋は、それこそ護衛はおりませんし、この部屋と同様に、二人きりとなってしまいます。ただ、王と王妃公認ですからもう噂になっても割り切ってしまえばよくありませんか?」


ルシアンは、少し砕けたように、腹を括ったような様子に変わる。

私は少し迷ったが、すでに昨日も今日も、母の陰謀でこの部屋に二人きり。噂はすでに出回っている。


しかも今日に至っては、ルシアンの服にしがみついて離せないのは自分であって、ルシアンではない。


「すいません。もう少し気持ちが落ち着くのに時間がかかりそうです。母にも、出来事については伝えなければいけないし。お茶をご馳走になってもいいですか?」


私はルシアンの部屋に移動することを了承した。

少なくとも、この部屋に一人でいたらまたクリスがなにか仕掛けに来るかもしれない。

ここの部屋に私が一人でいることはすでに侍女経由で知られているのだろうし。


ルシアンは微笑んだ。

「では、もう一度私にしがみついていただけますか?部屋までご案内します」


私は、言われたとおり恐々とルシアンの体にしがみつく。

体にふわっと歪みが来た瞬間、ルシアンが私をぎゅっと抱き上げる。


だが、私はルシアンの目が、まるで獲物を捕らえたかのような冷酷な光を放っていることに気づいてはいなかった。

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