123 熱を持たない夜
「くる...しい。」
「当たり前だ!媚薬の効果じゃない。完全に状態異常になってるじゃないか」
ラベンダーは激しい発汗と目の焦点が合わず、その場に崩れる。
俺はあわててそれを抱き止めようとそばに駆け寄るが、
「ま...って、触るの..無理」
息すら苦しそうになっている。
鑑定に警報アラートがついていて、脈拍過多と発熱、皮膚刺激強と状態異常とどんどん新しい項目が追加されていく。
これは解毒魔術では解析が間に合わない。
俺は、そばにいって触れることも苦しがられて、どうしたものか思案する。
一つわかるのは、貞操の危機以前に、これはラベンダーの命の危機だ。やばすぎる。
そうだ!
俺は右手から慣れない杖を出した。
ラベンダーが作ったアドリアドの杖だ。
ヒール効果しかないが使えるだろうか?
まだ魔法はラベンダーから習っている最中で、上手ではないし、効果もごくわずかな効果しか出せない
「アドリアド、頼む。ラベンダーから苦しみが取れるか??」
試しに杖を振るが何も起こらない。
そうこうしている間に、完全に床に倒れ、ラベンダーは真っ青になっている。
「おい!しっかりしろ!」
俺が思わず抱きあげると、皮膚刺激が痛いらしく痛いと叫び始める。
「アドリアド!脈を元に戻してくれ!!」
俺は必死で杖を振る。
どうしたらいいのかわからない。
だが、効いたのか?
がくっと突然崩れて、はあはあ息をしていたものが徐々に落ち着いていく。
「く、くるしかった...」
「いや、どう見てもまだ苦しいだろう」
脈が落ち着いたことで、全力疾走マラソン状態は落ち着いたように見えるが、身体中は熱くなったままだ。
俺は氷の精霊を組み込んだ魔法陣を作り、痛がる彼女を無理やり抱き上げその上に乗せる。
「体の熱をゆっくり平熱まで落とせ」
鑑定のステータスを見ながら、ゆっくり体温を下げ始める。
この後は皮膚刺激か...
「とんでもない効果ばかりつけてくれる」
警報アラートは落ちたが、魔法陣の上になった彼女は汗だくで、ぐったりして、熱のために顔も体も触るだけで熱い。
「やっぱり...カエルの体重の分量からわたしの...体重を計算した量は失敗...だったわ」
「息絶え絶えにいうことじゃないだろう」
「脳に..なにかは...困るから...幻覚はいれなかったの....」
「幻覚があって、心拍数を上げて熱を少しあげて、刺激を作れば媚薬か...安直だが吊り橋効果みたいなものか」
「そう...これは...想定外」
「だろうな。あとは皮膚刺激を落とせばいいが。」
「痛いから...触ったら...許さない」
「もう、それ最初のコンセプトから外れすぎだろう」
ぐったりする姿を見ると、媚薬を飲もうとまたまた追い詰めさせてしまったのは自分だと再び心が痛くなる。
「次は...カエルと..一緒の量...にする」
「は?何言ってる?今自分の置かれてる状態わかってるか?」
この状態で、もう次の宣言をしている段階で、何を言っていると目を見開く。
今、アドリアドの杖が間に合わなかったら死ぬところだったとわかっているのか?
こいつは一度きちんと話を詰めないとダメだな
俺はため息をつく。
「だって...ぜったい...ルシアンは助けて...くれる...でしょ」
それを言われて、絶句する。
確かに命を投げうっても俺はラベンダーを助けると思う。
だが、そんな信頼が無茶をさせるのか?
これでは依存だ。
「助けるけどダメだ。こんなの身が持たない。お前に何かあったら耐えられない。やめてくれ」
「ふふ...しってる」
一切わがままをいわなかったラベンダーは、俺に対してだけは小悪魔のように翻弄してくる。
周りには相変わらず、穏やかで、一歩下がるし、すぐ隠れようとするのに。
俺にだけか...
嬉しいが、こんなことを続けられたら心臓に悪すぎる
「急激に熱を下げるわけにはいかないから、ゆっくり下げるぞ。あとは皮膚刺激だが、痛すぎるということは量が多すぎるんだ。これから解毒魔法を使えるように解析するから少し待っててくれ」
俺は、使った材料を聞きながら、解析をしていく。
なんというか、媚薬の材料を聞いたら食中毒を起こしそうなものばかりで、よくこんなものを考えたなという材料ばかりだ。
「だから自分に試せなくて...今回初です」
それから1時間ぐらいして、まだ熱は高いがそれでも落ちているのを確認する。
やっと会話は戻ってきたが、目が発熱で潤んでいる。
「夫婦関係のことは、ラベンダーの問題じゃない。俺がラベンダーの心を守れなかった。結局何もできない上に一年前のことが起きてしまって、平然と何もなかったようにできないんだ。
お前には、これからはもう幸せな環境が待っている。両親も城のものも敵じゃない。それなのに俺はなんのペナルティもなく、きみとさらに未来に進んでいいのか迷っている」
そう告白すると、ぼーっとした顔でラベンダーはしばらく無言だった。
そんなことないと言って欲しいのか?
じゃあ別れましょうと言われたいのか?
だがそのどちらでもなかった
「多分、わたしがいないルシアンは幸せじゃなくて、困ったさんです」
ラベンダーが呟くように言う。
だが、それには同意する。俺は幸せにはなれない。俺の幸せは彼女のそばにいて、こうやってドキドキハラハラさせられることだ。
「で、わたしはきっとルシアンがいないと死んじゃいます。だって小さい時からそうだったし、ずっと心が壊れても、魔力がなくても、最後にはルシアンが助けてくれるんです。」
「そ、それは...」
今のこの状態がまさにそれだ。
もし、別の男にコレをやったら?
いや考えたくもないが、やることも許されないけど、やられた相手が助けられるとは思えない。
過去を振り返った時もそうだ。
魔力がゼロだったところから、半分魔力を与え魔女として復活だけはさせた。
心が壊れても、彼女が死ぬことがないようにそばにはいた。
一年前の事件は俺がその時のみ離れてしまったために起きたのだ。俺がずっとついていたら起きなかった、
魔女修行の護衛をしていた時は、俺がいなければ絶対死んでいた場面も多々あった。
たしかに、ラベンダーは、俺がいないと死ぬかもしれない。
「多分そういう関係なんですよ。ルシアンが良かれと思って私から離れたら、わたしは助けてくれる人がいなくなる。森に篭るのか、きっと今日みたいに大失敗して終わるしかなくなります。
ルシアンもわたしがいないと、孤立して、心を閉ざしたルシアンになるから私以外は幸せにできません。」
ふふっと笑っていた。
「わたしはルシアンに必要だとやっと思えるようになったんです。そしてわたしもルシアンが必要で、既成事実さえ作れば離れないと思ったのに困ったな」
運命の相手っているんですよねぇ...と呟きながら
「一緒に幸せになりたいだけなのに、ルシアンは難攻不落ですね」
と笑う。
俺はしばらく黙って解析作業を続けた。
成分の分解をするための魔法陣を新たにラベンダーの上にのせると、ゲテモノの材料がボコボコ浮かび上がってくる。
「うっ...この薬のせいで一夜を超えることは避けたいな。こんなゲテモノでその気になったら、俺のプライドがズタズタにされそうだ」
「幻覚作用が、その辺りをうまくオブラートに隠してくれたんでしょうね。入れなければゲテモノのジュースですから」
「お前...よく飲んだな」
「ルシアンを手に入れるためなら毒だって飲みますよ」
「本当に飲まれたら、俺の心が持たないからやめてくれ」
解毒が完了して、俺はやっとため息をついた。
後は熱が残るが、かなり落ちている。
ラベンダーは汗でぐっしょり服は濡れて、髪もぐしゃぐしゃになり、空は夜が終わり、明るくなり始めた。
「夜明けですね...ふう、失敗。」
ラベンダーはフラフラ立ち上がってよろけている。
「熱が高すぎました。全部材料から見直して作り直してみようかな。薬でここまでの失敗は久しぶりすぎます。」
「まだ、熱があるから今日は仕事は休め」
「ですね。力が入らないや。肌の刺激がずっと強すぎて、針に刺されている感じだったからですね。」
シャワー浴びてきますと言いながら色気のかけらもなく、トボトボ部屋から出ていこうとするラベンダーに、俺は思わず吹き出した。
「たしかに君といると俺は幸せだな。想像の上をいく」
俺がくっくっくと肩で笑う姿をじとっと睨む。
「ええ、もっと幸せになれるようにあなたの誠実な性格と心に付け込めるように精進します」
そう言うラベンダーの悪びれない姿にホッとする。
もっとわがままを言う彼女をみたいとずっと思っていた。
「ラベンダー、おいで」
俺は手招きする。
「嫌です。予定外に汗臭いし、今日は疲れました。」
「まあそう言わず...」
俺は先ほどの会話の中で決めていた。
将来も彼女と歩む。
俺は彼女以外とは幸せになれない自信がある。
いや、彼女となら幸せになれる。
そして、こんな規格外で、寂しがり屋で、傷つきやすく、すぐ隠れてしまうような彼女を、いつもそばにいて助けられるのは自分だけだと。
完全ではないが、それでも俺以上に助けられる男はいないと思えたのだ。
ぎゅっとラベンダーを抱きしめると汗ですっかり湿ってしまった服の冷たさを感じる。
俺は彼女の背中に腕を回す。
「だから、わざとやってますよね。シャワー浴びるんですから、今日は終わりです」
ラベンダーは、これから起こることに予想もしていない。 それを思うとおかしくて笑いそうになった。
俺は彼女の髪に顔を埋めそのまま、熱いキスを始める。
流石に様子がおかしいと感じたラベンダーは慌て始める
「ルシアン、あの、本当に汗臭いしフラフラだし、デイジーさんの下着はヨレヨレだし。今日はダメです。なんで今ですか?絶対ダメです」
「今日は俺も休みを取るから。お互い欲求をぶつけ合ってもゆっくり時間はありそうだな。ああ、あの下着をみてもやっと何もなかったような顔をしなくて済むのか。それは良かった」
俺は彼女の耳元で囁きながら、笑い、そのままゆっくり抱きしめ直す。
「や、やっぱり、下着見て興奮したんじゃないですか!」
「当たり前だろう。かわいくて大好きな妻なんだから」
俺は、当たり前のように答えると、ラベンダーはあわあわと慌て始めた。あんなに押せ押せだったのに、受け入れられた後のことは考えてないのが彼女らしい。
俺はそのまま唇を重ね、深く彼女と沈んでいった。
ーーーその後は、ラベンダーは姫なのでそれなりに大変だったが...お互いの想いを共有しながら時は更けていった。




