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【完結】天才魔術師団長は天才魔女姫を守れない  作者: かんあずき
第三章

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115/124

115 私が生まれなかった世界で

わたしはハッと気づいた。

今までの経過が全て頭にある。

苦しくて辛かったことも。

「ここはどこ?」

目線が低い。顔を上げる。あれ?床?


「なんだ?ヴァネッサの使い魔か?」

「お父様??」

「誰がお父様だ!」


えいっと首根っこを掴まれる。

ぷらんぷらん体が揺れる。

ふぎゃっ!痛いわ!!

なんか前もお父様から同じような目に遭わされた気がする


「ここは??お父様のお部屋よね」


前に転移魔法に失敗して落ちた部屋だ。

そうだ、あの時と状況が似ている。

でもあの時はすぐに私だと気づいてくれたけど...


ええと、多分わたしは生まれなかったから、今までのわたしの居場所がなくなったのかしら?

どうやら人間の体じゃないみたい。

今、私は誰になっているの?


「お父様、わたしは今何になってるんでしょうか」

「だから誰がお父様だ!猫!」

「猫...ほんとだ」


両手をくいっと出してみる。

黒い毛が見える。

力を入れると爪が出たり引っ込んだりする。


「黒猫だわ。これは使い魔ね。わたしなんで消えずに使い魔になってるのかしら?ああそうか。使い魔を作ったのに使役する人が存在しないからだわ!」

「何をわけわからないことを言ってる?」

お父様は怪訝そうな顔で私を睨む。

「ええと、お母様...ヴァネッサ王妃はどこかしら?」


キョロキョロするが、今日はお母様の平等の日ではないのかもしれない。

わたしがいなくなって、きっとわたし以外の子供が産まれてるわね。今度は、お祖父様の子供と間違えられてなければいいのだけど....


「ヴァネッサはいない。お母様って、使い魔の母は作った魔女なのか?初めて見る猫だが」

「いない?おでかけ?」

「いや....魔女のルールに則って、さすがに結婚して20年の時が経ったからな。後継が生まれなかった申請を魔女の協会にしたんだ。」

「後継が....生まれない?」


わたしは身が震えるような時が止まるような感覚に陥る。


「ああ、後継を作らなかったわけではないからペナルティは酷くないことを祈るが...」

「えっ!どうして!どうして??」

「どうしてって。この世には産まれてくれなかったんだ。誕生を楽しみに待ってたさ。でも、死産だった」

「そ、それいつの話?」

「雪月歴965年の1月1日だ。」


わたしの誕生日だ....

わたしは使い魔に頼んだように産まれなかった。

でも、次の子は産まれてない。

お父様とお母様は離れ離れになって悲しんでる。


そんなーー!

声にならない。

私がいなければ、二人は幸せな結婚生活を送っていたんじゃないの?


20年...1年お腹にいたとして、私が産まれていたら前の時の歳と同じごろね。


「あ、あのお父様、お兄様達はどうしたの?私の記憶だと、二人はお父様と血が繋がってなくて、色々問題を起こすから廃嫡しようといってたのだけど....その、二人平等な日々を送っているのかしら。」

「おまえ!なんでそのことを知ってる!!誰から聞いた!」

ふぎゃっ!!

首を絞める勢いで、お父様の顔面の前にわたしは吊るされる。

「お父様!痛いわ!」

「お前!勝手に情報を調べまわって!!どこの国のスパイだ!」

「どこの国でもないわ!お父様から聞いたの!私、お父様とお母様の子供だったの!でも私がいるとみんな困るから!私がいなくなればみんな幸せになれると思って!!」

「は??なんで私とヴァネッサがの間の子供がいたらみんな不幸になるだ!おい、猫!!知っていることを全部話せ」

「わかったわ!話すから離して!痛いわ」


ぷらんぷらん首を掴まれて体が揺れる。

わたしは、涙目でお父様に今まであったことを全て話したのだった



◇◇◇


「ヴァネッサとラスカルが親子??」

「はい。それなのに魔力の遺伝子検査が、私とお祖父様が親子って出てしまって、お父様にとって私は許せない子供になったの」

「たしかに、王子二人のことがあってヴァネッサには悪いが産まれたら他の貴族との子供ではないか調べようと思っていた」

「お父様は王様だから遺伝子を検査するわけにいかないんですって。悪用されたり魔力を知られてしまうから」

「それもあっているが....うぬぬぬ...全く嘘というわけでもなさそうだが、ラスカルはまだ魔術師団長だし、お前がいうルシアンは多分あの若造だと思うが....長になることはないと思うぞ」

「え??どうして?」

「まあいい、とりあえずラスカルとヴァネッサの親子関係を、科学の遺伝子検査と魔力の遺伝子検査に出して見たらいい。あいつは、部屋にいろんな物を置いてるからな。髪とか爪とか材料になるらしくて」

「さすがお母様ね。」


そういう私を複雑そうな顔で見る。


「だが、解せない。確かに誤った魔力検査を信じてしまうのならお前に冷たく接した可能性を否定できない。わたしはヴァネッサを愛しているから、裏切られたと思う可能性はある。だが、誤解は解けたんだろう。どうして、お前のことをわたしが困ると思う?誤解した期間後悔をしてしまっても、そこからはお前を大切にすると思うが...」

お父様は半信半疑でわたしに聞いてくる。


「もし産まれた子が私じゃなかったら、魔力検査で最初からお父様の子だと思ってもらえたかもしれないわ。それに、お兄様たちに、あんなに憎まれることもなかったと思うの」


わたしは、瘴気の中のリチャードお兄様を思い出した。

リチャードはとても優しい兄だった。何か嫌なことを言われたり接された記憶はない。

その兄をそこまで思わせるほど、わたしは兄たちにとって疎まれる存在だったのだ。


「リチャードとクリスは、先日廃嫡どころか逮捕にした。そして、クリスは、他の国の娼館に出入りして、国の情報を横流しして利益を得ていることが分かった。そのため国家機密漏洩罪ですでに処刑を執行した」


一瞬何を言っているのかわからない

ずっと背筋が冷えるようなーー今お父様は何を言ったの?


「国家機密漏洩罪!」

そう目を見開くわたしに、お前の認識は違うのかとお父様は眉を顰める。

「同じことはしたわ!でも、同じことをしていても前のお父様はそんなことはしなかったわ」

私は動揺する。

「どうして?お父様?処刑って...」

「それが原因で今戦争が起こりそうだからだ。王子だからと見逃せることではない。ましてや、わたしの子ではない。

もし、お前が産まれていてクリスやリチャードが処刑までされていないのだとしたら、兄たちにとって本当にお前の存在は悪だったのか?」


お父様は真剣な顔でわたしを見つめる。

わたしはブンブン頭を振る。

悪だったに決まっている。

二人ともわたしの存在を疎み、わたしさえいなければと言ったわ


「悪だったわ。だってわたしはお兄様からそれだけ恨まれていた。クリスお兄様は早くにお父様の子じゃないって気づいていた。でも、わたしはお父様から憎まれてもずっと気にかけてもらっていたから....」


お父様はうーんと腕を組んで考えていた。


「確かにセレスティアの実家の財力が欲しかったのは事実だ。だが、別に結婚を解消して、すぐにわたしの息子ではないということも出来たんだ。だが、それではクリスは誰の子供がわからない不義の子供となってしまう。そして、王の妻と不貞関係にあったものもタダでは済まない。だから、元々王位継承をしないという約束で、わたしの子供のままとしているんだ。そういっても、リチャードとクリスは王位継承を争ってくれたがな。

君がいなくてもクリスは犯罪を犯したし、自分の子供とする以上、クリスとリチャードには同じように関わった。私には子供がいなかったから、子育てもクリスとリチャードどちらかを差別して強く関わった気はない。」


私は呆然とした。

わたしがいなくなって、お父様との関係は良くなるどころか悪くなってしまったの?

しかも...戦争になるような状態ってどうしてそんなことに?


「リチャードも先日処刑を執行した」

「な!!なんですって!!」

わたしは思わず、ひゅっと息を呑む。

前のめりになりニャニャニャと鳴き声が混ざる。


「リチャードは国家反逆罪だ。関係の良くないキルベロア国に勝手に無償で鉱山をそのまま提供すると約束してしまった。鉱山は我が国の資源であり、もちろん我が国の領土にある。当然私は認める文書に署名はしなかったが、父親である宰相のニコラスを使い、金庫に入った国印を盗んで勝手にサインして押してしまったんだ。ニコラスもバカな男だ。父親として名乗りを上げられなくても、息子のためになるかどうかを考えればよかったのに...」

「リチャードお兄様は、お父様の子供ではないことを知っているの?」

「ヴァネッサが出て行く時に、リチャードにも本当のことを話した。ニコラスと良い親子関係を築いて欲しい気持ちだった。私には欲しくても子供はいない。せっかくいるのに父と子供がそれを名乗れないのはよくないと伝えたんだ。

その上で、わたしは、弟とタリー国の姫との間に産まれた子供を養子にもらいその子を王として育てる話を伝えたんだ。」


そこまでの経過は、私が今まで生きていた経過と似ている。母が出ていったのではなく、戻ってきて、わたしが娘だとわかったのをきっかけに、親子の名乗りを上げたほうがいいと説明したのだ。


「ところがだ。結果的に、リチャードはキルベロアに領地を無償でわけるという訳の分からないことをしてしまった。話をしても、お互い助け合いだとか、こんなに世界の平和を考えて動けるのは自分しかいないとか、訳わからないことばかり言う。相手は、鉱山の土地を手にして、武器を作り、その鉱山の範囲をさらに広げようと領地に侵出しつつある。すでにそこが戦争状態だ。」

「じゃあ、クリスお兄様の情報を漏らしていた国も?」

「そうだ、キルベロアだよ。王子二人それぞれがどちらか将来の王になると思って狙いを絞られたのだろう。わたしも、ヴァネッサといつも一緒だったから、子供の時ほど王子たちと公務以外で関わることもなかったから気づくのに遅れてしまった。」

「関わることもなかったって??平等はどうしたの?」

「平等?なんだそれは??とにかく、お前が産まれないことによってさらに状況は悪化しているようにみえるがな。わたしもなんとか戦争は防いで、王の座を退き責任を取るつもりだ。」

「どうして!どうしてわたしがいないのにお兄様達が処刑されてるの....」


わたしは呆然とする。

わたしはお兄様とはほとんど関わっていない。

なのにどうして??

前と何が違うの?


考えてみよう。

起こったことは同じだわ。

クリスお兄様は他国の経営の娼館に出入りして...


ルシアンが調べて、そのあとは王城に軟禁されたはず!!


リチャードお兄様もだわ!

たしか交渉の場でルシアンが話せなくしたはずよ!


「お父様!ルシアンは??ルシアンがお兄様の護衛をしているわよね。それに、二人の教育係のはずよね」

お父様はますます渋い顔をした。

「何を言ってるんだ?ルシアンに護衛なんてさせられるわけがない。教育係なんていう性格でもないだろう」

「へっ??」


お父様は、わたしのあたふたする会話を見て、ますます渋い顔をする。

「なんか...仮にお前がわたしの娘だとして、そんなにわたしとヴァネッサの娘はどんくさいのか??」

「どんくさい...」

わたしは再び涙目になる。

それをみてため息を深くついた。


「まあいい。ヴァネッサとラスカルが親子かどうかも気になるし、魔術師団の訓練場に行ってみるか。ルシアンとも会えるだろう。わたしにもし娘がいたとしたら、ルシアンを旦那にしようとは思わないがな」


お父様は半信半疑な顔をして、私を抱き上げる。

ふんわり懐かしい香りと、暖かさが伝わり、つい体をすり寄せる。

「なんだ?娘を名乗る使い魔はえらく甘えん坊だな。ヴァネッサについている猫は生意気そのものだが...」


お父様は、私に笑いかけた。その笑顔を見て胸が苦しくなる。

「だって、お父様の香りがするのだもの」

そういうと、目を見開き、ふっと笑われた。

お父様は、そのまま私を抱っこしてお祖父様とルシアンがいる魔術師団の練習場に向かっていった。





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