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【完結】天才魔術師団長は天才魔女姫を守れない  作者: かんあずき
第三章

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114 私が消えた日

私ーーラベンダーは暖かい空気と懐かしい土の香りに心が穏やかだと感じていた。なんだか、長い間息ができなかったのに、肺に空気を入れてもらえたような感覚。


こんな日が続けばいいのにーー目を開くと大好きなルシアンがいる。使い魔の猫ちゃんが笑っている。

魔法を使わないで、汗をかいてみんなで笑うの。

ルシアンのお父様とお母様が、一緒に土いじりをしてくれるのよ。

汚れてもいいの。

うまくできなくても怒られないわ。

でも、ルシアンのお父様は、ずっと動くと腰が痛いんですって。

どうしたらいいかな?

でも、時間が薬になるんだっていうの。

だけどすごく心配ーー時間が早く過ぎないかしら?


「姫様は優しいですね。歳を取ったらみんなどこか痛くなるものです。ルシアンがまさか手伝ってくれるとは思わなくてびっくりましたよ」

「ルシアンは優しいのよ。お父様が手伝ってっていったら、遠くからでも手伝ってくれるわ。きっとよ」

私は自分が褒められたみたいな気持ちになって嬉しくてたまらなくなった。

「そう言ってくれる姫様が、お嫁さんでよかった。」


そう言われると、なぜかそれはいけないことだと思う。

「ダメなのよ。きっとダメなの。ルシアンは幸せにならないわ。」

とても悲しくなる。

ポロポロ涙が出てくる。


「ラベンダー、大丈夫よ。みんなあなたが大好きよ」

使い魔が、すり寄る。

どうして私は悲しいのかわからない。

「そうですよ。姫様は頑張りすぎたんだわ。」

ルシアンのお母様も優しい。

私は肩でひっくひっくとしゃっくりがとまらない。

ルシアンのお父様が手を叩いた。


「そ、そうだ!ラベンダー!一つ君にお願いがある。畑の端に小屋があるだろう。あそこからみんなの軍手を持ってきてくれないか。土もふかふかになったし、春になったら咲く花を植えようと思うんだ」

「...っく...わかった..わ。軍手とってくるわ。みんなのね!」

「ああ、助かるよ」


みんなが私を頼りにしてくれる。

助かるって言ってくれる。

うれしい!

とてもうれしい!

私は涙を止めて急いで取りに行く。


畑の横に木で出来た小屋がある。

「ここね!」

小屋からは座っているルシアンのお父様とお母様がみえる。私は手を振って、小屋の扉を開くとちょうどすっぽりお父様とお母様が見えなくなった。


軍手..これかな?

小屋の中にまだ新しい軍手の束が見えた。

それを手に取ろうとした時ーー


「ラベンダー。ここだ!ちょっと出てきてくれるか?」

「へ??」


小屋からすぐそばにある柵にリチャードお兄様がいる。

小声で私を手招きする。

「お兄様!どうしたの?」

私は慌てて駆け寄った。リチャードお兄様も優しいのだ。

困ったことが起こったのかもしれない。


「ちょっとこの柵から外に出てくれないか?」

「お義父様とお義母様にきいてくるわ」

「ダメダメ、迷惑かけちゃいけないよ。ちょっと見てもらいたいものがあるだけなんだ」


リチャードお兄様は急いで私を止める。

お義父様とお義母様に聞いては迷惑になるの??

それは困るわ。

助かるって言って喜んでくれたんだもの


「でも、軍手を持っていかなきゃ」

「それよりも、こっちの方が喜ぶよ、みんな」


リチャードお兄様が手招きをする。

柵はよじ登れないわけではない。

「柵を登るのははしたないわ」

「そんなことないよ。探検みたいですわくわくすること、ラベンダーは好きじゃないのか?」

「わくわくすることは好きよ」


もじもじしながら、お兄様だけだからはしたなくてもいいかなと思う。

「みんなには内緒よ。柵を登るなんて本当ははしたないのよ」


ふふっと楽しくなって、私はリチャードお兄様のところの柵を登りゆっくり降りる。


「降りたわ、お兄様」


その時、ちょうど小屋の扉の死角から外れてお義父様とお義母様、使い魔の叫び声が聞こえた。


「姫様!!」

「姫様!」

「ラベンダー!!ダメっ!」


使い魔が飛んでくる。

「ちっ!バレたか。行くぞ!ラベンダー!!」

床にあるのは...転移用の魔法陣??

あれ?

転移用の魔法陣...それってなんだっけ?


魔法陣、魔法陣....

私の景色が歪み、体が浮く感覚、それに飛び込んできた使い魔...


「え??なに?体がゆがむ」

地面に立っていられないような、耳がツーンとするような気持ち悪い感覚に陥る。


そして、気づけば私は紫の霧の中にいた。



◆◆◆


「お兄様!お兄様!どこ!!」

叫ぶが咳が止まらない。

「ここだよ。ラベンダー!」

リチャードはニコニコしている。

「お兄様は平気な...の?ごほっ、息が、喉が、ひりひり」

口を開くと喉が痛い。目も痛い、息も苦しい。


「僕はクラリスから少しだけ浄化の力を分けてもらったんだ」

「クラリス...クラリス...」

遠く頭にモヤがかかる。

「あんた!聖女と魔力混合したってこと?」

使い魔がギャーっという鳴き声を出して毛を逆立てる。

「そうだよ。クラリス泣いてたよぉ。ラベンダーがいなければルシアンも自分も幸せになれたって」

「私がいなければ幸せに...」

なんだろう、似たような話を前も聞いた気がする。

ルシアンは私がいない方が幸せになれた。

なんでだっけ?

クラリス??クラリス?聖女...


「ラベンダーが忘れても、傷つけられた方は忘れないよ。お城でも魔術師や騎士、聖女達がみんな君のせいで困らされたって聞いたよ。

魔術師も困ってたよ。ルシアンの妻だし姫だから君を邪険にできない。

君さえいなければスムーズなのに、邪魔ばかりしたんだね」


「お兄様...わたし」

息がどんどん苦しくなってくる。

もう立っていられない。


「ラベンダー、耳を貸してはダメ!あなた、魔女なのよ!浄化はできないけど、瘴気を使い魔に変えられるわ。手から杖が出るはずよ。瘴気の杖が出るように祈って!」

「瘴気の...杖??」


息が苦しい。

右手を見ると、黒い木の棒がいつのまにか握られている。

「それよ!それを天に向けて!」

ごほっ、ごほ...


「綿菓子を作るようにくるから回すの。瘴気よ!使い魔のかけらとなれと叫んで!」

「ごほっ、し、しょうきよ。使い魔の...ごほっ!かけらになれ」

苦しくて立っていられない。

すでに、横たわった状態で、私は言われた通り木の棒をクルクル回す。

すると、少し息が楽になり下にあった紫と上にある紫の煙がその棒に引き寄せられるり

大きな綿菓子だったものから徐々に紫色の雨雲が浮き上がるように一つの濃い塊に変わっていく。


「へえ、やっぱり魔女って悪魔の手先なんだな。お前は瘴気を操って悪魔に変えるわけだ。」

リチャードは冷たい目で私を見る。


「悪魔...」

私は手を止める。

再び紫の煙は霧散し始める。


「悪魔みたいなもんだろう。父上からも疎まれて、母親だって小さい時にはお前を修行と追い出して、帰ってからも迷惑がってすぐ森に隠しただろ。お前が表に出てくると迷惑だったんだよ」

「迷惑...」

「おれたちもそうだ。魔女が妹なんて、独り言を言って気持ち悪いし、黒い影に隠れて恥ずかしい。

国のために役にもたたないのに、俺を一丁前に否定して。使用人達だってみんな君の世話はしたがらない」

「あんた!いい加減にしなさいよ!ラベンダーがあなたに何したの!」

「何もしないさ!何もしないくせに王女だってのが許せないじゃないか。それなのに、国のためになる俺は廃嫡される。なんだそれ!おかしいだろう!」

「お兄様...なんの?なんの話??」

「お前がいなければみんな幸せだって話さ!

血のつながったお前さえいなければ、父上に愛されるのは俺だったってことさ。お前もクリスは問題ばかりだからな。

ルシアンもクラリスとお前のせいで別れたんだ。

俺が救ってあげなければクラリスは、聖女達からもお前に取られた可哀想な女として見られ続けたんだぞ。

お前を必要とするものなんていない!お前はここで死ねばいいんだ!!」


ごほっ!

リチャードも咳き込み始める


「いい加減なこと言わないで!ラベンダーの苦しみのかけらもわからず、この子の努力も認めず、否定ばかりして!あんたこそ、聖女としてほとんど力のないクラリスの魔力混合なんてすぐ尽きるわ。

ラベンダー、使い魔を作るの!しっかりして!対価を作るの。大きい瘴気だから...爪とか髪で使い魔を作るのは無理。だから、ルシアンがくるまでなんとか小さい使い魔をたくさん作って凌ぎましょう」

「対価...って?」


私は苦しさから解放されたい気持ちと、優しかったリチャードお兄様が私さえいなければよかったと叫ぶ姿にどうしたらいいのかわからなくなった。


私さえいなければーー


そんな気が私もしていた。

使い魔は対価を払えばいうことを聞いてくれる。

大きな使い魔...でっかい雨雲みたい。


再びひたすら杖を回すと大きな大きな紫の水球が出来上がる。


「ねこ..ちゃん、使い魔を作るの..は?」

「対価は考えたのね。あとはそうね。瘴気よ!使い魔になれといって対価を与えたら形が作られるわ。そうしたら、小さな願い!そうだ!ルシアンに居場所を伝えましょう!」


使い魔が、必死で私の頬を舐める。

しっかりして!

そう叫んでいる。


「ルシアンに伝えたら...ルシアン...迷惑になる」

「ならないわ!ルシアンは探しているわ!」


私は目から涙がこぼれた。

息が苦しい、

これで終わりたい。

でも、優しかったリチャードお兄様を困らせるほど、私は迷惑だったのね。


「しょ...うき...よ!ねこの使い魔に...なれ」


対価はーー


「対価は私の魔力全て...願いは、私の...存在を...生まれてこなかったように...して」


「何言ってるの!!ラベンダー!しっかり!」


契約成立ーー


ぱーっと霧が晴れる。

その日、その世界から、私は...消えた。



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