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【完結】天才魔術師団長は天才魔女姫を守れない  作者: かんあずき
第三章

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109 魔女の理と、人の理

「おい猫!お前絶対あのデイジーという店主と友達だろう!しかも類友だ!」

「あら、女の過去を探るものじゃないわ。でも...そうね。久しぶりに今夜はデイジーのところで飲み明かすから、夜は帰ってこないわ。どうぞお二人で楽しい夜を過ごしてちょうだい」


俺の返事に、否定もしない。くそっ!

この使い魔は、ヴァネッサが最初の主人だと言ってたのに。

なんで知り合いなんだ??


使い魔を睨むが、楽しそうに尻尾をピンと立て、ラベンダーの膝に飛び乗る。

ラベンダーも明らかにお店を出てから表情もいいし、何を言ってもそのまま買った服を着せてもらい、髪もデイジーが編み上げてくれたので今まで見たことがない女性らしい雰囲気に仕上がっている。


まあ...いいか。

こうやっていつもうまくこの猫に丸め込まれている気がするが。


ラベンダーは他の魔女のと交流の機会を得たわけだし、猫にしても隠していたわけでもなさそうだ。

それに...こんなおしゃれを楽しませてやりたかったんだし。結局俺が楽しんでしまったが...


「ラベンダー...その、よく似合うよ」

不思議と自然に言葉にできた。

本当に似合っているんだから当然だが、無理に褒めようと意識しなくても言葉にできるのだから、やはり俺は彼女と相性が良いのだろう。


ラベンダーはキョトンとしているが返事は「そうね」ではなかった。

「ありがとう」

ラベンダーはニコニコして返事をして、膝に来た使い魔を撫でる。


夫の隣に立って邪魔にならない色を選んでいた。

それなのに、夫に褒められたなんて感覚はなさそうだ。

近所の知ってるおっさんが「今日もかわいいね」という感覚で褒められたのと同じように答える。


それでも、なんでも「そうね」と頷くよりはいいい。

再び沈黙が落ちて走り続ける。


魔石自動車は、思ったようにスピードは出ない。途中でサンドウィッチを買ったり、飲み物を買ったり、運転を休んで、せいぜい一日数百キロだ。


だけど、無理にもう急ぐ必要もないんだよな。

どうせ俺は魔術師団は辞めるんだし、有給休暇も大量に余っている。

ラベンダーがいつ戻るのか、もう壊れてしまったものは戻らないのかそれもわからない。


「ラベンダー、俺が退職の引き継ぎが終わったら、こうやっていろんな街を見ないか?この国にはまだまだ魔女が隠れているのかもしれない。そして、一番過ごしやすい都市で暮らしてみてもいいかもな」


ラベンダーは困ったように俺を見た。

そうねという回数は急激に減っているが、その分会話のキャッチボールも減っている。

俺の会話への回答がない。いや、出来ないのだとわかる。

返答したくてもできないジレンマが伝わりそっと手を握った。


「俺の話を聞くだけでいい。無理に答えなくていいんだ」

そう伝えると、ラベンダーはその手をじっとみてやっと頷く。


生きていくのに精一杯ーーもし、今の彼女を表現するとしたらそんな言葉が相応しいのだろう。


「そうね」と何も考えずに答える時に比べ、なんとか言葉を紡ぎ出そうとするときは口が空に向けて何度か動き、ワンテンポ遅れる。

なんとか無難な返答で相手を傷つけないようにとしていることがわかる。

回復しようと彼女がもがいているように見えた。

いっそ壊れた方が本人は楽なのかもしれない。

もう、息をすることも、眠ることも、食べることも、放棄できるならするのではないかという危うさと隣り合わせだ。


王都から離れれば離れるほど、これ以上彼女に攻撃をするものに出会わないことを祈り続けるしかなかった。


◇◇◇


それから数日


「んもーーー!こっちは、夜すっごい気を遣って存在を消してるわけよ。デイジーの気合の入れて作った下着を見て、あんたはなんもかんじないわけ?」

「気合の入った下着は俺には見せず、ラベンダーが自分で着替えているから問題は皆無だ」


猫が、毎晩

「これから朝までは戻ってこないから安心なさい」

「デイジーに媚薬をもらってきてあげましょうか?」

というあからさまな言葉をかけてくる。

無視だ。

ラベンダーも、キョトンとしている。

「そうね」と言わないだけ大進歩だ。



「夫婦として問題大有り!ラベンダーの回復待ってて、このままだったらどうする気なの?」

「どうもしない。子供を作るための結婚ではなく、相手を愛しく共にいたいと思っての結婚なんだから、問題はない」

「そんなこと言ってたら、後継が必要な魔女の世界でもラベンダーは爪弾きにされて、指名手配されちゃうわよ!」

「その時には、俺も一緒に連行してもらう。魔女ではないが、魔女の魔力をもらったんだから同じような扱いにしてもらわないと困る」

「魔女の理にそんなもの通用するもんですか!」

「一度その魔女の集まりで訴えたいものだ。男を種馬のように扱うが、せめて自分に子供がいるのかどうかぐらい知る権利はあると思う。ラスカル殿をみてみろ。魔女とか関係なく、娘と孫の存在を知って嬉しそうじゃないか。それに、自分との間に子供を成した女性が思い出せず苦悩しているだろう」

そういうと、使い魔の動きが止まる。

「それなら、アレクみたいに何がなんでも魔女を奥さんにしようと頑張ればよかったのよ。

魔女が子種をもらって、そのまま去るのは魔女の知恵よ。

歴史的にどれだけ魔女が世界中で迫害されてきたか、どれだけ今も差別を受けているか、ヴァネッサやラベンダーをみてわかるでしょ。それがわかっているから存在を隠すのよ。言いたいなら、魔女じゃなくて魔女を拒否する世界と戦いなさいよ。せめて、ラベンダーをこんなふうにした奴らに大声で怒りなさいよ。」


使い魔の怒りの声に、ガタガタラベンダーが震え始める。

俺と使い魔はハッとして

「ごめん。喧嘩してたんじゃないのよ」

「この世界や魔女の理が問題で、ラベンダーは何も悪くないという話だ。」


ラベンダーは、ぎゅっと使い魔の猫を抱きしめる。


「実家の挨拶が終わって、俺が仕事を辞めて二人で過ごすようになったら結婚生活を始めるよ。猫、その時はお前も一緒に暮らそう。毎日、笑って楽しく飲んで食べて眠って..幸せにすごそう。俺たちに子供ができたら、猫、お前は魔女の子守りを手伝ってやってくれ。」


「そうね。私、ルシアンとラベンダーの子供は絶対美形で、すごい魔女だと思うの。そうしたら、ベビー服をデイジーに頼みましょう。それまでは彼女にもこの街にいてもらわなきゃね」


「ああ...」


ラベンダーはまだ震えている。

人の怒鳴り声は苦手なようだ。

可哀想なことをしてしまったと使い魔と俺は目を合わせる。

運転する俺の代わりに、使い魔の猫が冷たくなったラベンダーの手を舐め続けていた

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