100 いい子の代償
ルシアンの心配をよそに、ラベンダーは気が張っているのか、結婚関係以外の代筆物を粛々とこなし、帰ってからひたすらお礼状を書き続ける生活を1週間ーー
今に至る
定時に一旦ラベンダーを自宅に送って、俺ーールシアンは残業。
帰ってくると、毎日机に突っ伏してラベンダーは寝ている。
これが1週間。
「大丈夫なんだろうか?」
その様子をみた俺はつぶやいた。
かなり気が張っているようだ。
初日は、周囲から魔女で役に立たない姫と思われながら必死に働いていると報告を受けた。
だが、帰ってからも泣き言も言わないし、かなり心配していた。
しかも、家から帰ってから、お礼状をひたすら書き続ける。俺からみたら、充分と思う物でも字が気に入らないとなればまた書きかえる。
ちょうど北部の瘴気問題、第二王妃の離婚とクリスの失踪も気になっていたが、第一王妃や宰相と今後離婚に向けて話し合いも難航していた。
第一王妃がリチャードの王位継承放棄になかなか同意しないのだ。王との子供ではないと知りながらよく言うと俺も思う。
ヴァネッサ王妃は今にもエリザベート王妃と取っ組み合いを始めそうなレベルである。
そんな状況で、王も王妃も自分も問題を解決することに囚われて、ラベンダーに意識を向ける時間がもてない。
「宰相のニコラスとエリザベート王妃は相変わらず懇意なんだよな」
「うーん、長く付き合っても、かつてのような燃え上がるものはないようだ。双方ともに自分の息子に、王位を継がせたいという希望が強いだけだな。」
王は渋い顔をした。そして、わざと俺を娘の婿として同じテーブルに立たせる。
「リチャードの廃嫡だけで息子ではない事実は伏せるつもりだ。だがお前たちがそういう態度なら、息子ではない者を王子として扱ったという責任を私が被って退位してもいいが」
と宰相とエリザベート王妃を見つめている。
だが、それを知っているのはもう俺たちだけじゃなくて、娘婿にも知らせているぞというアピールも同時に行うことに、俺を利用するのだ。
「リチャードに本当のことを告げるかどうかはお前たちに任せる。息子として育ててきたつもりだし、これからもそれは変わらない。だが、親として名乗りを上げられる方が、問題はあってもニコラスもエリザベートもリチャードも最終的には幸せだとは思う」
と話すと、宰相のニコラスは下を向く。
「ラベンダーが実子であることを知らなかった期間を戻すことはできない。今、自分は後悔の連続だからな。」
そう、王妃たちがいなくなった部屋で、俺にはつぶやいていた。
ヴァネッサ王妃は、
「調子が戻るまでは出さない」
と王の意思で部屋から出てこない。
いや、王が出さない。
元々離婚する前も囲うところがあったようだが、誰に止められることもなく愛情をかけることができる幸せは分かる。
俺もラベンダーを閉じ込めれるなら理由をつけて他のものに見せたくはない。
「ヴァネッサが、エリザベートに怒りを抱えていて、出したらとんでもないことになるんだ!」
そう言っていたが、それだけじゃ絶対ないだろう。
そんな状態なので、ラベンダーとゆっくり関わらない。
帰ればラベンダーは、そのままお礼状を書くペンを持ったまま机に突っ伏して寝ていて、1週間、朝シャワーを浴びて化粧をしたら、すぐに出勤する状態だ。
会話らしい会話もお互いできないので、悶々としていた。
「おい、せめてしっかり食事はとった方がいい」
俺は元々栄養の入ったバーだけで生活する日々が多かったが、ここ数日、ラベンダーも妖精用のお茶やクッキーを焼くもののあまり食事が取れてないように見えた。
「妖精用のクッキーを一緒に食べているだけでお腹いっぱいになっちゃって」
えへへと笑うが...自分らしく外に出て欲しいだけで、身を削って欲しいわけでも、しっかり働いて欲しいわけでもないのだ。だが朝の慌ただしい時間にそんな話をしてもなかなか改善はしない。
「おい、猫!せめて休憩をしっかり取るように言ってくれ」
俺は眠っているラベンダーをベッドに運びながら、使い魔に呟くと、なぜか俺が抱っこしたラベンダーの上に乗った使い魔がため息をつく。
「だからいい子になるなっていってるんだけど、みんなの仕事を奪うなんて、悪い子になってしまったって言いながら働くんだもの。
今まで人と触れなかったから、悪いというものがどういうものなのかわかってないのよ。ヴァネッサも嫁入りの時は苦労してたけどね。魔女が1箇所に居続けるには、それなりの苦労はあるわよ」
使い魔が、ラベンダーの額に猫の肉球を押し付けると、じわっと黒いモヤがでてくる。
「おい!なにやってる?」
「今日この子がどのくらい人の悪意を受けたかを見ていたのよ。結構ドロドロ。うーん、これは聖女様たちね。聖女が聞いてあきれること...」
使い魔が、クラリスのことも含めて嫌味を飛ばしてくる。
聖女は回復や祝福、そして瘴気を消す力を持っているから、選ばれたエリートだ。
清らかな優しいイメージを騎士団も魔術師団も持っている。
俺も以前はそうだった。
だが、実態は、とてもプライドも高い、女性特有のドロドロした人間関係の中で、クラリスのように強いものが騎士団や魔術師団と接して、更にその中でも出世しそうなものを選んでいる。
クラリスと別れたあと、冷静に見てみたら、なぜ気づかなかったと思ったものだ。
聖女奉仕団の内勤をしていたり、瘴気浄化の時に出てくる聖女の方が、聖女の力が強かったり、分け隔てないものが多かったりするのだ。
「副団長の二人のおかげで、自分が担当している魔術師団でも、ラベンダーにポロポロ声をかけるものもいるようだし、騎士団の方ではかなり若手に人気があると聞くからな。聖女たちにやっかまれたのかもな」
俺は使い魔を見ると、頷いている。
「そこに気づけたならよろしい。ラベンダーは魔力が高いし、魔女の回復能力も高いから多くの人を簡単に治してしまうのよ。更に、人が嫌がるお洗濯や片付け、繕い物までしちゃうでしょ。聖女にとって魔女は自分たちのテリトリーを犯す邪魔者なのよね」
使い魔は前足をぐんと伸ばして、ラベンダーの脇で眠ろうとする。
「おい!洗濯って....なんだ?」
「あらぁー!知らなかったかしら?騎士団のみんなの下着を綺麗に洗ってお洋服を繕ってあげてるのよね。泥汚れもなく、いい香りで、騎士たちは大喜びよ。ふふっ。あなたも下着を洗って貰えばぁ」
使い魔はそういって目を閉じる。
こいつわざと俺を挑発している。
ラベンダーが!若い騎士たちの下着を洗う!!
なんだそれ!
聞いてないぞ!
きいてないっ!




