魔女姫と厄介な手紙
窓の外には、どこまでも続く深い森。
王都から馬で半日ほど離れた場所――“魔女の森”に住む私、ラベンダーは、王家の紋章が押された手紙を見た瞬間、小さく肩を落とした。
「……また、ろくでもない用事よね。きっと」
王城から届くものに、よい知らせなど来たためしがない。
それに今回は、手紙の届け方が最悪だった。
数日間、私の周りを飛び回っていた“空飛ぶ封筒”。
逃げても隠れても追ってきて、とうとう限界を迎えたのか——
「うぅ……か、かゆ……っ。これ、絶対お母様の仕業だわ」
痒みを我慢しながら腕を掻く。
“連絡蚊”という嫌がらせ魔法。
血を吸いながら、手紙を受け取るまで離れないという最悪の使い魔だ。
(……痒み止め、作っておけばよかった)
ちなみに最初は魔法ハト。無視して元の場所に転移。
二度目は手紙が窓を破って飛び込み、火炎魔法で焼却。
そして三度目がこの蚊である。
叩き潰せば、母の声が再生されるしくみらしい。
案の定——
『ラベンダー? 私の連絡を二度も無視するなんて……いい度胸ねぇ?』
あの、どこまで怒っているのか分からない微笑の声。
「……ご機嫌麗しゅうございます、お母様」
ため息をひとつ。
痒みに耐えながら蚊封筒から、本来の封筒を取り出す
だが、その瞬間、思わず目を丸くした。
「……お父様、から?」
母ではなく、父から。
そんなこと、今まで一度もなかった。
父は三人の妻がいる。
そして、それぞれの産まれた子供に興味を示すことはない。
いや、興味がないように“見せている”だけかもしれないが……
ともかく、父が直接手紙をよこす理由など思いつかない。
◇◇◇
この国は、国王だけが一夫多妻制。
お父様は、三人の妻を持つ
妻とは全てを平等に、閨の日数も、なんだったら滞在時間も平等に。
食事も、語らいも、すべてのテーマは平等にーー
他の話を引き出そうものなら、
「王は私にはこんな話をしましてよ」
となるので、話が逸れれば微笑んで聞く以外は自ら口を開かない。
すべての妻と子供に平等に。
よって魔女の修行とほぼ魔女の森で暮らす私とは関わりはほぼない。
ーーー
そんな彼の妻や子供のラインナップを紹介しよう。
まず、第一夫人は名家出身のエリザベート。政略結婚。
息子リチャード(二十歳)は、性格はいいけど顔と頭が壊滅的に悪い。
人が良くても、騙される性格ではどうにもならない。
次期王としてはちょっと悩ましい。
彼に罪はないが厄介なのは、リチャードは第一夫人の息子であるが次男である。
よって、次期国王がリチャードとは言い切れない。
それなのに、人がよく、カモになりやすいため、反対勢力からはいつでも転覆させられかねない困った兄。
常に魔術師団から、騙されないように、変な魔法を浴びないようにと護衛される困ったさんだ。
第二夫人は大富豪の娘セレスティア。これまた政略結婚。
息子クリス(二十一歳)は、顔はいいけど頭と性格が壊滅的に悪い。
顔で政治がまとまるなら、誰も苦労はしない。
そして、なまじ顔が良いのに頭が悪いから、ハニートラップにかかっても気付けない。いや自らハニートラップを踏みに行く困った兄。なんだったらハニートラップにかかったことを自ら自慢する頭の悪さ。
第二夫人の息子だが、長男なので次期国王の可能性はある。反対勢力から、ロクでもないハニーが送られてこないように、ここでも、常に魔術師団から、変な魔法をかけられないように護衛されている。
そして第三夫人――わたしの母ヴァネッサは、“世界三大美人魔女”のひとり。これは父の一目惚れ。
母そのものが、国内では唯一の魔女だった。
その後、子供は唯一の娘である私が産まれ、国内の魔女は二人になった。
とりあえず、次期国王争いに巻き込まれないことだけには感謝。私は母の血を引いた魔女なので、男ではないし、護衛も不要。
以上が父の妻とその子供である。
だが、母とその娘が国内唯一の魔女というのが厄介だった。
それこそ、魔女は周囲のものたちにとって、恐らしいものと思われ、悪魔使いと言われ、とてつもない力を持ち、人を呪うこともできる悪魔の象徴のような扱いだった。
その中で、寵愛を受ける王の妻、つまりわたしの母ヴァネッサは、王に魅了魔法をかけてその座を手にしたのだろうと散々いわれたようだが、本人自体も、かなり個性が強く、周りにも負けず、美しいという物語の悪役令嬢のようなイメージの女性だった。
当時、果敢にも母に挑戦しようとする王妃たちや、貴族たちもいた。
だが、母のヴァネッサを怒らせれば、イタズラ好きな火の妖精も協力して建物を燃やしながら怒る。
彼女に容赦という言葉はない。
「わざわざ、私が魔法で陥落させないといけないほどの女だとでも??こんな不細工な妻ばかりだったら、私に一目惚れするのはあったり前でしょう!」
それを第一と第二の夫人の目の前で、建物まで燃やしながら怒るのだから、当時そばにいた私と兄たちの護衛の魔術師たちと一斉に消火ということも度々、
ーー第一と第二夫人はブリザードのような空気が。母は第三夫人だからって負ける性格ではなく、その反動は気の弱い同じ魔女のわたしが喰らうことになるのだった。
兄に魔術師団がついているのは、次期国王をめぐる争いに関することはもちろんのこと、母とその娘がなんらかの害を与えるのではないかと思われているからだし、わたしは周囲からのいわれない悪口や冷たい視線、無視に晒された。
もちろん、兄に危害を加えるなんてそんなわけがない。
「お母様の魔法を使ってまで、お父様が私に手紙をよこす内容は何なのかしら?」
ラベンダーは首を傾げて手紙を手に取った




