CrumbleDays〜第3話〜
CrumbleDays〜第3話〜
ミドルフェイズの固定イベントです。
黒須玲央は知らない天井を見上げていた。どこだここはと軽く周囲を見回してみれば、病室のようだった。
「病院……なのか?」
はっとして玲央は自分の手を見る。良かった、人間の腕だ、そうだ、あれは夢に違いなかったんだ……あんな悪夢ある筈が無いんだ。そう思っていると、残酷な現実が声をかけてきた。
「あぁ、良かった。やっと起きたのね」
「……え?」
そこには悪魔が立っていた。
夢の終わり、自分の目の前に立ち塞がった悪魔。
「全く、もう夜の22時よ。もうちょっと早く起きなさいよ」
自分と同じ学校の制服を着ているその悪魔を玲央は知っていた。
クラスは違うけれど、見た事ならある。夜を思わせるような黒髪をなびかせた見た目は綺麗で、凍える程にきつい目つきはクール系に見える。他の一般女子より大きな胸は、それだけで注目を集めた。一部男子からは踏んでいただきたいとの評判の女子が今目の前に居る。
「あんた、私と会った時の事覚えてる?」
しかし玲央にとって、そんな評価はどうでも良いものだった。話した事も無い鈴華より、真花の方が話していて余程楽しかったから好きになったのだ。
「って、どうしたのよ?そんなに怯えて……」
なのに、楽しかった『今まで』を打ち砕く悪魔はそこに在るだけで残酷なまでに『現実』というものを突きつけてきた。
あれは夢じゃなかったんだと。
自分は、自分は…………。
「うわぁぁぁぁぁっ!!!」
「ちょっ!?ちょっと落ち着きなさい」
部屋の外にまで響く絶叫があがった。
彼女と出会った時の事を忘れてなんていない。
自分が狼男になんてなった現実を忘れてなんていない。だが、忘れたかったのは事実だ。
そうして暫く取り乱していると、一番聞きたかった言葉が聞こえて来た。
「大丈夫だ、落ち着きなさい。君は人間なのだから。慌ててはいけないよ」
その言葉に玲央が落ち着きを取り戻す。気がつくと彼の前には落ち着いた雰囲気の白衣の中年男性が立っていた。ネームプレートには永見と書かれている。
「私の名前は永見孝三見て分かると思うが医師をしている。君の名前は黒須玲央君で間違い無いね?」
「はい、間違いありません」
「そうか、良かった。君は助かったんだよ。分かるかい?」
「助かっ……た?」
助かったと言えるのだろうかと玲央は思う。命は助かった事は間違いは無い。だけど、命と引き換えに化け物になってしまった現実が胸を痛く締め付ける。
そんな彼の様子を永見は静かにじっと見つめていた。何を言って欲しいのか、何を言われたくないのか、それを判断する為に。
「永見……先生は俺がどうなったか知っているんですよね?」
「勿論知っているよ。その力の事も知っているし、説明だって出来る」
ならば教えて欲しいと思う反面、聞けばどんどんと深みにハマる気がする。
知らなければ、まだ日常に戻れるのではないか。そんな気さえしてくる。そんな都合の良い話がある筈無いのに。
そんな玲央に永見は一つの真実を告げる。
「ためらっているようだけど、これだけは知っていて欲しいんだ」
何を知れと言うのだろう。自分が狼男になってまで生き延びた事だろうか?
それとも、このままでは遠からず人を襲う獣になるから、その前に殺されろとでも言うのだろうか?
「君はね、その力で一人の女の子を救ったんだよ」
思いもしなかった言葉に、呆気にとられてしまう。確かに真花を救えたのはこの力
のおかげなのかもしれないが、だからと言って化け物になった事が許されるのだろうか?
「君が本当に心まで化け物になっているなら、人を助けたりしないさ。だから間違い無く君は人間なんだよ」
目の前の人は肯定してくれた。狼男になっても、自分は人間なのだと。
自分は一人の女の子を救ったのだと。
永見の言葉のおかげか、気がつくと玲央の目から涙がこぼれていた。
◆◆◆◆◆
「そろそろ良いかしら?」
コンコンとドアをノックする音が聞こえる。鈴華がゆっくりとドアを開けると、そこには一組の男女が立っていた。
「あぁ、君達が来たのかい?」
「はい、永見先生。後は引き継ぎますので、娘さんの待つお家に帰ってあげて下さい」
「ははは、気を使わせてすまないね」
それでは後は頼むと言って永見は帰っていった。病室に新たに現れた男女……蓮紋と祐樹は簡単に自己紹介をすませると、部屋を用意してあるから来るように、と玲央と鈴華に促した。
「さて、黒須君。色々と聞きたい事はあるでしょうけれど、それも含めて説明するから質問があれば後で聞いてちょうだいね」
部屋に着いて各々が席につくと、そう前置きを伝え、蓮紋がゆっくりと話始めた。
「レネゲイド……人類に、そして自然の摂理に反逆するモノ。そう名付けられたウィルスが世界に解き放たれたのは今から約二十年前。中東の某国で活動していた考古学の発掘隊が調査中に未知の遺跡を発見したの」
「レネゲイド……ウィルス?ってのがその時に発見されたんですか?」
「えぇそうよ。ただ、レネゲイドウィルスを含む発掘品を持って帰国しようとしたところ、輸送機が攻撃を受けて墜落。その爆発によって世界中にウィルスが拡散したと見られているわ」
「そのウィルスっていうのはどんなものなんですか?」
「一言で言うと、人類を超人と呼ばれる存在に進化させるモノよ」
「進化って……」
その質問には鈴華が答えた。
「通常ならば死に至る負傷から一瞬で回復したり、常人をはるかに超えた運動能力や知覚能力を発揮出来るようになるわ。更には、様々な超能力を使えるようになったりもするわね」
「俺が狼男になったのも、その超能力の一つなのか?」
「そうだ。それはキュマイラって呼ばれる能力で、動物のような器官が増えたり、筋力が増大するものだ。キュマイラの能力を発症した8歳児が大型の乗用車を片手で軽々と持ち上げたって記録もあるらしいぜ」
玲央の疑問にそう答えるのは祐樹だ。年下相手だからか、口調が若干砕けている。
「……勿論、それらは制御出来ていれば大きな恩恵とも呼べる力よ。でも、世の中には良い人ばかりと言う訳じゃないのは分かるわね」
蓮紋の発言に、確かにと納得する。
人は分不相応な力を持てば、概ね暴走する。
実際、レネゲイドウィルスが拡散されてから世界中で奇怪な事件が多発し、治安が急激に悪化し始めたらしい。
それ以外にも力を制御出来ず、人体発火現象を引き起こして亡くなった例もあるとか。蓮紋は更に言葉を続ける。レネゲイドウィルスの侵食に耐えきれなくなったものの末路の話へと……。
「レネゲイドウィルスの侵食に身体や心が耐えきれなくなった者はね、ジャームと呼ばれる存在になってしまうのよ」
「ジャーム……」
「ジャームっていうのはね、理性や良心を失って、その身を焦がす衝動のままに行動してしまう怪物なのよ」
玲央は言葉を失ってしまう。下手をすれば自分もジャームになってしまうのではないかと。だがそう思った時、永見の先程の言葉が思い出される。
化け物は人間を助けたりしない。
少なくとも真花を救えた時点で自分はまだ人間なんだと再確認した。胸に手をあて蓮紋にもう一度向き合うと、彼女は話を再開しようとした。その時、ふいにドアがノックされる。
「お茶をお持ちしました〜」
気が抜ける調子の言葉を聞いて、祐樹が扉を開けると、そこには金髪碧眼でミディアムヘアのミニスカメイドが居た。
ミニスカメイドは失礼します。と言いながらカートを押して部屋に入ると、とても手馴れた様子で紅茶を淹れていく。お茶請けはクッキーだ。
「ありがとう愛ちゃん……さて、それじゃ話を続けましょうか」
「いや何普通に受け入れてんの!?」
たまらず玲央はツッコミの声を上げる。
実際、先程まで真面目な話をしていた筈だ。だがそろそろ喉が渇いたのも事実だった。だからといってここは病院である。
ミニスカメイドなんて一部のメイド喫茶にしか居ない存在が居ていい場所では無い。
しかし自分以外の全員は、さも当たり前のように受け入れて話を続けようとしていた。たまらずツッコミの声をあげた玲央は一般的には間違ってないと言えよう。
「あぁ、紹介が遅れたわね。この子は愛ちゃん、私の弟よ」
そんな蓮紋の発言に玲央は更にツッコミの声をあげたい衝動に駆られた。
弟と言う事はミニスカメイドは男で間違い無いのだろう。だが何故そんな格好をしているのか、非常に問い詰めたい。
「そいつ、そういう反応見て楽しんでるだけだから。いちいち反応するだけ損よ」
とは鈴華の言葉。実際にミニスカメイドはくすくすと笑っていた。
そんな彼のきゃるんとした自己紹介が終わると説明が本格的に再開される。
曰く超人にしろジャームにしろ外見では判別出来ないのが大半らしい。
レネゲイドウィルスや超人の事を一般社会に公表した場合、疑心暗鬼により社会秩序が崩壊し、魔女狩りじみた行動が世界中で発生する事は想像に難くなかった。
故に、それらの真実は現在も公表される事がないまま、秘密にされているらしい。
「人の力を遥かに超えた怪物、ジャームによる犯罪や破壊行為に対抗するのは今の人類社会にとって、非常に困難な事なの」
蓮紋の言葉に玲央は確かにと納得する。
おそらくはバスの事故を引き起こした男こそがジャームであり、そんな事が出来る存在に現代兵器が通用するとは、簡単には思えなかった。
「更には悪意を持った超人やジャームまでもをメンバーとする世界的なテロ組織であるファルスハーツという連中も存在するわ」
「もしかして、今回の事故もそいつらのしわざなんですか?」
「えぇ、その通りよ」
事故を起こした相手は超常的な能力を持った犯罪者というだけでなく、テロ組織の一員だった。その事実を前に、玲央の頭に恐怖が浮かぶと共に一つの疑問が浮かびあがった。
「あなた達はその……FHと戦ってるんですよね?」
「そうよ」
鈴華が短く答える。
「あなた達は何者なんですか?」
「私達はUniversalGuardiansNetwork通称UGNの一員よ」
蓮紋が代表して答えた。彼女曰くUGNの最終目標は超人と人類の共存であり、それらの障害となるFHとは、結成以来敵対しているらしい。
「だから、今回のようにFHや超人、ジャームといった存在が関わっている案件には事件解決の協力、処理なんかを担当しているわ」
「……処理ってなんだか嫌な感じのする表現ですね」
「その感覚は間違っていないわ。実際、今回の事故に関しても獣化したあなたを目撃した者達や、生存者には記憶処理を施しているわ」
「それって、綾瀬にも?」
玲央の表情が途端に険しくなる。実際、彼女に対して必要以上に何かするつもりなら許しておけないと思うからだ。
「落ち着きなさい、非人道的な事はやっていないわ。一人でバスに乗っていたと思わせたくらいよ」
それならまぁ、と落ち着いてみれば蓮紋以外の三人の顔が険しかった。玲央が殴りかかろうとでもすれば、即座に抑え込まれてれていただろう。
「ここまでで何か質問はあるかしら?」
「……それで、俺はどうなるんですか?」
彼らが何者で、世界がどうなっているかは分かった。だが自分がどうなるかは分からない。
超人とやらに覚醒してしまった。それはもういい。今更嘆いても変わらない。何より永見先生の言葉もあって、自分はまだジャームなんて怪物ではなく、人間なんだと思えるから。
綾瀬の事ももういい。もしも自分が一緒に乗っていた事を覚えていたら、無傷の自分を見て不思議がられた筈だ。下手したら化け物扱いされるかもしれない。
彼女から化け物扱いされるくらいなら、忘れられている方がずっといい。
だが、これまで聞いた中で『玲央をどうするのか』には触れられていない。だから疑問に思った。
「あなたはもう『こちら側』の世界に関わってしまったの。だからその力を私達に貸してくれないかしら?あなたと、あなたの周囲の人々の日常を守る為に」
蓮紋のその言葉に玲央は首を振った。
「俺には、怖くて出来ません……」
「そう、今はそれで構わないわ。だけどあなたはこれから私達の監視対象となるのは覚えておいて」
「監視って……」
「今回の事故を引き起こした犯人があなたに接触を図る可能性が高いの。だから調査と護衛を兼ねているわ」
協力しようがしまいがどちらにしても巻き込まれることが確定した事に玲央は辟易とする。事実、もう逃げ道は無いのだ。
「それから、何かあればここに居る皆に相談してちょうだい。皆同じ学校だから話しやすくはある筈よ」
少なくともクラスが違うから四六時中監視されるという事は無い筈である。
「それと精神的に辛かったら、私か永見先生に相談してちょうだい」
病院の診察券を渡されながら、最後にまたね。と別れの挨拶が交わされる。
既にいっぱいいっぱいだと嘆きたくなる玲央だった。
黒須玲央の侵食率が7上昇しました。47になりました。
東方鈴華の侵食率が6上昇しました。42になりました。
南部愛染の侵食率が6上昇しました。47になりました。
北神祐樹の侵食率が8上昇しました。51になりました。
南部蓮紋の侵食率が10上昇しました。50になりました。
侵食率上がり過ぎぃ!まだミドル最初だよ!




