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僕は英雄ではないが、英雄は僕である  作者: 綾丸湖


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8. 訓練はつらいよ


「おらぁ!起きろぉ!!」


 騒音と共に叩き起こされた。

 なにごと!?


「朝の走り込みを始めるぞぉ!!」


 リュウか!

 張り切りすぎだろう。まだちょっと暗いんだけど。


 体を起こして立ち上がるが、節々が痛い。それになんだか体が重い気がするな。疲れが抜けきってないのか。



 こうして、騒々しく召喚二日目を迎えた。

 ああ夢じゃなかったんだな、とかしみじみ思う余裕もなく。



――――――



「おらおらぁ!あと三周だ!遅すぎんぞぉ!」


 ひぃ、ひぃ。

 勘弁してくれ。なんでこんな朝から、城の周りを何周も走らないといけないんだ。


「基礎体力がねぇとなんもできねぇぞぉ!? キリキリ走れやぁ!!」


 煽られるたびにドス黒い感情が湧き出てくる。

 もしかして、これが殺意?


 なんてことを考える余裕もなくなってきた。

 いや、もうほんとに、足が……。


「はーい、そこまでー」


 フラフラになっていると、賢者が音もなく現れた。

 どうやら見かねて止めてくれたらしい。救世主だ。


「んだよー、任せるって言ったじゃねぇか」


「いやいや、初日から飛ばしすぎでしょ。もっと効率的にトレーニングしないと」


 そうだそうだ!もっと言ってくれ!

 疲れて声も出せないが、心の中で賢者を応援する。


「俺の時はこんな感じだったぜ?」


「リュウくんは結構特殊な状況だったんじゃない? 今のコウくんだと体を痛めるだけだよ」


「そうかぁ? 意外と難しいんだなぁ」


 賢者の言葉に渋々ながら納得している様子だった。

 止めてくれてありがとう、賢者。


「とりあえず食事をさせてあげよう。食べないと筋肉もつかないからね」


「おぉ、たしかに。忘れてたわ」


 こいつに任せたの絶対間違いだったよね。

 人選を考え直した方がいいよ。


「さあ、コウくん行こうか。……え? 無理? 動けないの? ……まったく、今回だけだからね」


 賢者が魔法で運んでくれた。

 その優しさに涙が出そうだ。リュウのアホを育成担当に任命したことは水に流してやるか。


 ふよふよと漂い、城の中に入る。

 めちゃくちゃカッコ悪い状態だが、人も全然いないし気にもならない。


「皆様!おはようございます!!」


 いたわ。

 元気に挨拶するマユルワナさんがそこにいた。とても、とても恥ずかしい。動きやすそうな服を着ているが、どこかに向かうところだったのだろうか。


「ええと、コウさんはどうされたんですか?」


 そりゃ疑問に思うよね。

 ああ、もうなるようになれ……。


「あん? こいつが弱すぎて使いもんになんねぇから、俺が鍛えてやってるところだ」


 おいコラ。

 もうちょっと言い方ってもんがあるだろう。事実だからって、言っていいことと悪いことがあると思うんだ。


「そ、そうですか……」


 ああ、そんな目で見ないでマユルワナさん。

 これでも頑張って走ったんだよ。


「すまないけど、コウくんの食事を用意してもらえないかな? 食べれば回復すると思うんだ」


「ええ、わかりました!食堂でお待ちくださいね!」

 

 そう言って、マユルワナさんは去っていった。

 そういえば、あの広い食堂でまた一人で食べるんだよなぁ。


「んじゃ、あとは賢者任せるわ!」


 無責任な駄目トカゲはどこかへ行ってしまった。

 あいつはほんとに……。


「まあ、今日の残りはヨロイくんとの魔法訓練にするから、心配しなくていいよ。体力作りの方も……ちょっと考え直しておくよ」


「頼むよ、賢者……」


 やっと喋れるくらいに回復した。

 ほんとに、考え直してくれ。


「それじゃあ、食堂で食べているといいよ。しばらくしたらヨロイくんを向かわせるから」


 そう言うと、賢者も去っていった。

 うん、一人で食べて待っていよう。


 食堂に入り、席に着く。

 すると、昨日と同じ子供が配膳にきてくれた。


「や、やあ、おはよう。ありがとね」


 昨日は話しかけられなかったので、挨拶してみた。

 無表情にこちらを見つめている。


「おはようございます。ごゆっくりお食べください」

 

 すぐに奥に行ってしまった。

 まあ、徐々に慣れていけるといいかな。


「いただきます」


 昨日と同じメニューだ。

 野菜のスープ、硬いパン、芋。育ち盛りの身としては、もう少し食べたいところだが……。


 そして、肉が食べたいな。

 言っても仕方ないことなんだけど。


「ごちそうさまでした」


 手を合わせて、呟く。

 ここでヨロイを待てばいいのかな?


 ぼーっとしながら待っていると、扉が開く。

 静かにヨロイが入ってきた。そういえば、金属っぽい鎧なのにガチャガチャ音がしないな。


 ヨロイは近づいてくると、パネルを勢いよく掲げた。


[さあ少年よ!共に魔法の深淵を探究しに行こうじゃないか!!]


 朝からテンション高いなぁ。

 でも、魔法だ。魔法が使えるようになるのだ。疲れきっているが、俄然やる気も湧いてくる。


「よろしくお願いします!」


[うむ、苦しゅうない]


 言葉選びを間違ってる気もするが、気にしない。

 魔法の方が大事だから。


[ついてきてー]


 変なテンションは飽きたのかな。

 食堂を出て歩いていると、中庭についた。ここで魔法の練習ができるのだろうか。


 机と椅子が用意されていたので、促されるままに座る。目の前には黒板みたいなものがあった。


 あれ? これはもしや。


[魔法とは学問だー。座学から始めるよー]


 なん、だと?

 魔法が、使えると思ったのに……。


[未知の力を扱うなんて危険だからね。まずは知ることからだよー]


 まともだ。まともなことを言っている。

 その言葉は正しい。なんの反論も思い浮かばないほどに正論だった。


 やるしか、ないか……。

 いずれ魔法が使えるようになると思えば、勉強だって頑張れると思う。気合いを入れよう。


「わかった!はじめてくれ!」


[お、いいねー。それじゃーまずは、この世界と魔法の関係についてだよ]


 てっきり複雑な理論とかを覚えないといけないのかと思ったが、そうでもないらしい。


[賢者とかジィさんと一緒に考察してたんだけどね。どうもボクたちが召喚されたことでこの世界はすでに歪んでしまってるんだよねー]


「え、それってまずいんじゃないの?」


 確かよくないことが起こるんじゃなかったっけ。あんまり覚えてないけど。


[かなり良くないと思うよー。まあ、まだなにが起こるか観測できてないけどねー。ただ、そのおかげでボクたちは魔法を使える]

 

「どういうこと?」


[世界には特有の法則が存在するんだよね。で、他の世界の固有魔法やら血統魔法なんて本来なら使えないはずなんだけど、ここでは使えてる]


 うーん、なるほど?

 オセロに将棋のルールをぶち込むようなものだろうか。


[ボクらの存在がこの世界の法則を捻じ曲げちゃったんだろうっていうのが、今のところの見解かなー。そもそも特殊な魔法も使える世界だった可能性も否定はできないけどね]


 なんというか、人類を救うために世界を歪めているということなのかな。本末転倒だね。


[前提はこのくらいにして、いよいよ今回教える魔法のお話だ!]


「待ってました!」


 さあ、お楽しみの時間だ。

 座学だけど。


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