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僕は英雄ではないが、英雄は僕である  作者: 綾丸湖


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7. 育成計画(僕の)


「さて、本案件は可及的速やかに片付けなければなりません。なぜなら、コウくんが弱すぎるからです」


 言い方が腹立つなぁ。

 一般人なんだから弱いに決まってるだろ。


「今は大丈夫だけど、今後コウくんが攫われて拷問を受けて私たちのことを喋ってしまうかもしれないよね? それは困るので、みんなで鍛えてしまおうと思いまーす」


 言いたいことはわかるが発想が怖い。

 拷問とかが一般的な世界から来たのだろうか。


「鍛えるっても流石に貧弱すぎんだろ。走り込みでもさせんのか?」


 そんな運動部みたいな。

 それに、リュウからしたら貧弱だろうけど、平均的な男子高校生くらいの体力はあるはずだ。


「それはもちろんさせるけど、メインは魔法になるかな。使ってみたいでしょ?」


「使ってみたい!!」


 走り込みするんだ……、とテンションが下がったが、魔法を教えてくれると聞いて吹き飛んだ。


 流石は賢者さんだ!


「そうだよねぇそうだよねぇ。なんせ私だもんねぇ!」


「うんうん、やっぱわかってるわー賢者さん!魔法ってカッコいいよね!!」


 そう言った直後、空気が変わった気がした。

 え、なになにこの雰囲気。


「……確かに魔法はカッコいいのぉ。じゃが、そこの胡散臭い賢者の精霊魔法なんぞより、儂の魔法の方が魅力的じゃぞ?」

「ジィさんは引っ込んでいるのである。ただただ面倒臭い秤魔法なんぞ流行りではないのであるな。ここはやはり吾輩の魔法で」

「おいおいおい、血生臭い血闘魔法なんざ最初に教えようとすんじゃねぇよ!カッコいいっていったらそりゃあ龍法だろうが!!」

[トカゲは引っ込んでくださーい。コウくんには聖なる光の魔法が似合うと思いまーす]


 なんかみんなで主張し始めた。

 仲良しか。


 そして、主張してこないカミの方を見る。

 他の全員もカミの方を見ていた。


「……いや、我の神力はちょっと」


 はーーーーーーー。


 カミ以外のメンツが白けた目でカミを見ている。なんでそこで乗ってこれないかねぇ。


「……ごめんなさい」


 まあ、謝ったので許してやろう。

 そもそも意味わからんノリだったしな。


「はーい、ノリの悪いカミさんは置いといて、話を進めよう」


 地味に酷い言い草だ。

 ほら、カミの奴も項垂れてるじゃないか。


「まあ、各々主張はあると思うんだけど、癖が強い魔法が多すぎるんだよねぇ。消去法で私かヨロイくんの魔法しかないんだよ」


 というか、こいつらなんでお互いの魔法について知ってるんだろ。僕がいない時に盛り上がってたのかな。


 ふふ、疎外感。


「とはいえ、私の魔法も他と比べたらマシだけど、微妙なところだからねぇ。ここは一つ、ヨロイくんに任せることにしようか」


[おおー、やったぜー。仕込んでやるぜー]


 なんか僕の意見とかなにも聞かれないな。

 僕の育成計画なのに。


「で、走り込みとか筋トレはリュウくんに指導してもらおうか。ガチガチの前衛っぽいのリュウくんしかいないし」


「はっはっは!その腑抜けた根性叩き直してやるぜ!」

 

 どうしよう、めちゃくちゃ嫌だ。

 魔法だけにしてくれないかな。


「とりあえずこんなところかな? あんまり情報もないし、不具合が出たら都度修正していこう」


 パンッ、と賢者が手を叩く。


「ヨロイくんとリュウくんは育成担当、

 私とジィさんで調査と分析、

 ヴァンくんは周囲の探索と警戒、

 カミくんはなんか適当にみんなのフォローで」


 さっきからカミの扱いがひどくない?

 カミって神なんでしょ?


「元の世界に戻れるように協力して頑張りましょうか。この世界のことは正直どうでもいいけど、壊れてしまったら面倒なのでなるべく穏便に」


 やたらドライな発言だった。

 そりゃそうか、関係ないし。


「では、解散!」


 その言葉を皮切りに、各々が動いた。




「ではな」


 まず、カミが光の粒子となって、ふわりと消えていった。え、なにそれ素敵。


「明日から覚悟しとけよぉ!」


 そう言って、リュウが窓から飛び出す。

 その背中には、漆黒の翼。……最高だ。


「吾輩も戻るのである」


 ヴァンが自身の影にゆっくりと沈んでいく。

 こういう演出もグッとくる。


「今日はゆっくり寝るんじゃぞ?」


 ジィさんの後ろにはいつのまにか禍々しい扉があった。ニヤリと笑いながら扉をくぐるその姿はめちゃくちゃ渋い。


「あーそういう感じ? では私も」


 そう言うと柔らかな風が吹き、その場にはもう賢者の姿はなかった。……いいね。


 


「……カッコいい」


 こいつらほんと、僕のツボを突いてくるなぁ。めちゃくちゃカッコいいわ。


[……]


 一人残ったヨロイを見る。

 なにしてんだろ。


[カッコよくなくて……ごめん……]


「いいから帰れよ!!」


 いや、確かにちょっと期待したけども。

 なんかすごい沈んでるな。


 トボトボと、肩を落としながら普通に部屋の扉から出ていった。うん、なんか可哀想だな。




 やっと、静かになった。

 備え付けのベッドに倒れ込む。今日は本当に疲れた。


 よくわからない場所に突然召喚されて、めちゃくちゃ歩かされて、一人で飯を食って、人類の危機とか聞かされて……。


 挙げ句の果てに、僕がなんかいっぱいいて……。


 ああ、もう頭が回らなくなってきた。

 全部夢だったりしないかな……。

 

 安心したら、急激に眠気が……。



***


 

「……眠ったか」


 カミは自室で座り、コウの部屋の気配を感じとっていた。あまりの不安定さに心配になっていたが、今日のところは問題なさそうだ。


「ふん、寝たか」


 リュウは城の屋根に寝転び、コウの部屋を監視していた。ここならば、何かあってもどうにかできる。

 

「ふむ、眠ったようであるな」


 ヴァンは忍ばせていた使い魔からの報告を受け取る。できるだけプライバシーは守るつもりだが、用心するに越したことはない。


「すぐに寝おったか」


 ジィさんは守護の契約が正常に作動していることを確認する。非常時に備えて保険をかけておいたが、出番がこないことを祈るばかりだ。


「ふふ、みんな心配性だなぁ」


 精霊たちが賢者に状況を伝える。現在のコウの部屋は、この世界で最も安全なのではないだろうか。


[……]


 ヨロイはぐっすりと眠っている。

 自身の張った結界に絶対の自信があるから。



 

 英雄たちに見守られ、コウは眠りにつく。

 怒涛の一日は、ようやく終わりを迎えたのだった。


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