44. はじまり
突然現れたアイマさんに戸惑う。
賢者の口ぶりからして、知っていたようだが。
「コウ様、突然のご無礼をお許しください」
近づいてきたアイマさんは、何かを抱えているようだった。いや、お許しくださいと言われても……。
「えっと、どうされたんですか?」
なんかもう次々と色んなことがあって、ついていけてない。これ以上なにがあるっていうんだよ。
「コウ様には、この子を連れて行ってほしいのです」
そう言って、抱えていたものを見せてくれる。
「キ、キリラちゃん?」
それは、眠っているキリラちゃんだった。
なぜ、こんなところに。
「詳しい事情については書面にまとめてありますが、このままキリラを姫様の元に置いておくわけにはいかないのです」
そう言って、キリラちゃんの被っていた布をとった。なんだろうと思って、よく見てみる。
そこには、人よりも長い耳があった。
「今は禁止されていますが、亜人と呼ばれていた種族がいます。キリラは、その血を引いているのです」
「……いや、え?」
「そして、姫様の言う魔族とは、亜人を含む人間以外の全ての種族を指します。今はまだ幼いため見逃されていますが、いずれ隷属の魔法を掛けられ奴隷とされることでしょう」
あの、マユルワナさんが??
そんなこと、あり得るのだろうか。
「それは、その、本当に?」
「信じられないということもわかります。姫様は、人間には本当にお優しい方ですから……」
なんだそれは。
じゃあマユルワナさんは、キリラちゃんのような人たちを敵だと見做しているということか?
「賢者、このことは……」
「すまないね、コウくん。おそらくこの状況の核心を聞かせれているんだろうけど、ところどころ私たちにはよく理解できなくなっている。おそらくは、姫さんの認識の歪みだろうね」
「そんな、ことって……」
賢者の言葉で、信憑性が増したように思える。
なぜ、マユルワナさんはそんなことを……。
「コウ様、もはや私には頼れる者がいないのです……。どうか、どうかキリラを安全な場所まで連れて行ってくださいませんか」
アイマさんからの懇願に狼狽える。
僕は、そんなに頼れるような人間じゃないよ……。
「……このこと、賢者も知ってたんだよね」
「そうだね。予め相談を受けていたよ」
「断るとは、思わなかったの?」
「ふふ、なんせ私だからね」
ああ、そうだよなぁ。
こんな境遇の子を、善良な感性を持っているこの僕が放っておけるわけないもんなぁ。
「……アイマさん、僕は英雄ではありません。力もありません。それでもいいというのなら、引き受けましょう」
「……感謝、いたします。このご恩は忘れません」
あー、言っちゃったよ。
もう後戻りはできないな。でもなぁ、キリラちゃんは知らない仲じゃないし、仕方ないよね。
「別れはもう、済ませました。キリラをお願いいたします」
「精一杯、頑張ります」
眠るキリラちゃんと、大きな荷物を受け取る。
旅に出る準備は、アイマさんが整えてくれていたみたいだ。この世界で使えるお金も用意されている。……使い方がわからないな。キリラちゃんが知ってるらしいけど。
この辺りの地図と、最寄りの町への道のりも教えてくれた。とりあえずは、そこに向かおうか。
「さあ、もうそろそろ時間もなくなってきたね。コウくんには私たちからも、三つのお願いをしておこう」
賢者が改まって語り出す。
「一つ目は、世界を巡って元の世界に戻る手段でを見つけてほしい。私たちは動けないだろうから、お願いするよ」
確か、送り返す用の魔法陣がどこかにあるんだっけ。これはまあ、僕にとっても関係のあることだから頑張ろう。
「二つ目は、これまでと同じように魔法を鍛えてほしい。今後の訓練方法については、アイミィに伝えてるからあとで聞いてね」
これもまあ、魔法は好きだから訓練するのはなんの問題もない。アイミィが何を聞いたのかは気になるな。
「三つ目は、この世界で楽しく生きてほしい。まあ、これさえできてれば、さっき言った二つは忘れてもいいよ」
……まったく、ずるいなぁ。
全部、僕がやって当然のことじゃないか。三つ目なんて、お願いじゃないよ。
「……うん、わかったよ。全部、やるよ」
「ふふ、頼んだよ。さあ、お別れの時間だ。最後の贈り物もあるし、それぞれ挨拶でもしようか」
事前に決めていたのか、まずはじめにリュウが目の前に立った。
「右手を出しな」
なんだろうか。
言われるがまま、右手を差し出す。すると、リュウは手の甲に描かれた紋様に魔力を注ぎ始めた。
「まあ、気になるだろうがこの説明はあとで聞いてくれや。んー、俺から言えるのは、体は今後も鍛えろよってことだな!体力はあるに越したことはねぇぞ?」
その後も、みんなが紋様に魔力を注いでいった。
別れの挨拶を告げながら。
「食べることはとても重要なのであるな!せっかくこの世界に来たのだから、この地ならではの美食を食べ尽くすのである!」
「まあ、なんじゃ。悪い奴に騙されんように気をつけるんじゃな。あとは、温泉でも巡って気楽に楽しめばええ」
「ふふ、アイミィと仲良くね? 姫さんのことはできる限り抑えておくから、それほど気にしなくていいよ」
[ボクの魔法で、自分と、大切な人を護ってね!]
みんなの魔力が右手に宿る。
なんだろうな。ほんとにお別れなんだなって、実感してきたよ。
「ああ、それとカミくんからの伝言だよ。『思うがままに生きるがいい。叶うならば、大切な誰かと共に』だってさ」
あ、そういえばカミもいたな。
カミの魔力は強すぎて渡せなかったのかな。
「さあ、これで本当にお別れだ。名残惜しいけど、いつまでもここにはいられないからね」
「……うん、みんな元気でね」
みんなが、船に戻るために魔法を発動する。
ああ、やっぱりカッコいいなぁ。
「コウくんなら、できるよ」
去り際、賢者がそう口にする。
「なんせ、僕たちは英雄だからね」
「……ははっ、そりゃそうだ」
そうして、みんなは去っていった。
さーて、とりあえずキリラちゃんを起こそうかな?
『あー、あー、聞こえるかい? お願いすることが、もう一つだけあったから伝えるね』
おお!? 久しぶりの脳に直接語りかけるやつだ!
なにか言い忘れたのかな?
『この世界を自分の目で見て、耳で聞いて、頭で考えてほしい。そして、私たちを世界の敵だと判断したら……』
『コウくんが、私たちを殺してね?』
未知の世界に、僕と精霊と幼い少女。
『僕』の物語は、ここから始まった。
〈第一章・完〉
第一章これにて完結です!
ここまで読んでいただきありがとうございました!!
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