43. 別れの理由
…………お別れ?
「な、何を言ってるの……?」
意味が、わからない。
「このタイミングがおそらくは最良だ。コウくんには突然のことで申し訳ないけど、私たちに掛けられた制限は重い。こうするしか、方法がなかったんだ」
ダメだ、混乱して頭に入ってこない。
「今から、制限を完全に解除するよ。ジィさん、頼んだ」
「……まあ、混乱する気持ちはわかるがのぉ。気をしっかりもつんじゃぞ」
そう言って、ジィさんが人差し指で僕の額に触れた。これ以上、何が起こるっていうんだ。
「……解放せよ」
短く言葉が発せられる。
だが、その衝撃は凄まじかった。
「あ、あ……」
思考がクリアになっていく。
今まで気づいてもいなかったが、感覚が鋭くなったようだ。いや、これは元に戻ったといった方が正しいのか?
「……上手くいったようだね。コウくん、そこの兵士をもう一度見てくれ」
賢者に促され、兵士の方を見る。
「……は?」
そこには、普通の人が倒れていた。
「な、え、これは……」
「どう、見えたのかな?」
「……僕たちと、変わらない人間だ」
「…………やはり、そうか。リュウくん、そこの男を一瞬起こすから、抑えておいてくれるかい?」
リュウが兵士を拘束し、賢者が何やら唱えた。
すると、男がゆっくりと目を開いく。そして、状況を察したのか、こちらを睨みつけ叫んだ。
「なんだってんだ!お前らは!」
それは、明瞭に聞き取れる言葉で。
「ああ、すまないね。もう一度眠ってくれるかい?」
「くそっ……!!」
そう言うと、賢者は再び男を眠らせる。
そして、僕の方を見た。もはや、聞きたいことはわかっている。
「言葉が、理解できたようだね?」
「これも、賢者たちには聞き取れないってことかよ……」
「……うん。なにか唸っているようにしか聞こえなかったね」
「どういうことなんだよ!? 説明してくれ!!」
もうさっきから訳のわからないことばっかりだ。
僕たちは、一体なにと戦わされていたんだ?? 今まで聞かされてきた話は全部嘘だったってのか??
「もちろん、説明するよ。ただし、制限のせいで私が話せないこともある。そこだけは、理解してほしい」
「……わかったよ」
賢者の言葉に頷く。
賢者にもどうにもできないことはあるだろう。
「まずはじめに言っておこう。おそらく姫さんは、嘘をついていない」
「なんだって?」
どう考えても嘘じゃないか。
「私たちは、召喚者の影響を受けていることは前も言ったね? つまり、姫さんにはそう見えてるってことさ」
「……は?」
「まあ、ほとんど推測だけどね」
そう前置きして、賢者は話し出す。
僕たちはこの世界に召喚された時点で、マユルワナさんの影響下にあり、様々な制限を受けていたらしい。ただ、恩恵もあったのだという。僕がこの世界に割とすぐに馴染めたのも、マユルワナさんのことをそんなに悪く思ってなかったのもそのせいだと。
そして、召喚者の影響によって、マユルワナさんにとっての敵は全て悍ましい姿で見えているという。
「で、姫さんはこれらのことをあんまり理解はしていないようだ。だけど、無意識に要点は押さえている」
マユルワナさんの言葉は、僕らに対して強制力がある。強く命じれば逆らうことはできないらしいが、今のところ命令というよりはお願いといった形になっているため、そこそこ自由には動けるらしい。
「そして、私たちはコウくんの解放のために色々と動くことにしたんだ」
「なんで、僕なの?」
そこがわからない。
強い人を解放した方が、役に立つはずだろう。
「コウくんが一番可能性が高かった。姫さんにとって、私たちは強力な戦力だ。当然手放そうとは考えず、制限も強くなる。……だけど、コウくんだけは違った」
まあ、一般人だからな。
「そこで、コウくんへの期待をなくすために、私たちは事あるごとにコウくんは戦力にならない、使い物にならないという感じを出していた訳だね。これは実際、効果があったと思う」
「ああ、あれそういうことだったの……」
あからさまだなー、とは思っていたがそんな理由だったとは。
「そして、次第にコウくんの制限が弱くなってきていたからこちらも外側から徐々に解除していくことができたんだよね。さらに、ここに来る前に言質もとった」
え、なんだっけ。
なにかそんなこと言ってたかな。
「『別にコウくんはこちらの陣営で戦わなくてもいいんだろう?』この言葉に、姫さんは同意した。自分の発言に力があるとは思っていなかったんだろうね。これで、準備は整った」
そこまで考えて準備していたとは。
「けど、なんでこのタイミングなんだよ。まだ、早いんじゃ……」
「コウくんをこれ以上鍛えると、戦力として使えることがバレてしまう。そして、姫さんからここまで離れることのできるチャンスがいつ来るかはわからない。だから、今がその時だと判断したんだよ」
言ってることは、理解できなくもない。
みんなが考えて、僕にとってもベストなのが今だったのだろう。
「……なら、なんで言ってくれなかったんだよ!? いっつも、僕には説明もなしに!」
「これだけは、漏洩させるわけにはいかなかったんだ。納得はできないかもしれないけど、万全を期すためだった。許してほしい」
そう言って、頭を下げられる。
そんなこと言われたら、何も言い返せないじゃないか……。
「……わかった。わかったよ、もう。全部、僕のためだったんだろう? だけど、こんな何もわからない世界に急に放り出されるなんて……」
《コウ、大丈夫なの!アイミィがついてるの!》
「……ありがとう、アイミィ」
一人ではないことは心強いとはいえ、不安だ。
多少魔法は使えるようになったし、アイミィもいてくれるからまだマシなのかもしれないけど、それでも心細くて仕方がない。
「この世界については、コウくんの言う通り何もわからない。だけど、私たちにはどうすることもできないんだ。だからこそ、コウくんの目で確かめてきてほしい」
その声はとても真剣で。
なんでもできるあの賢者が、僕に頼み事をするなんて。
「…………で、まあそんな不安一杯のコウくんにこれ以上の重荷を負わせるのは忍びないんだけど」
「そこから先は、私からご説明いたします」
突如、僕たちに向かって声がかかる。
暗がりから現れたのは……。
「アイマさん?」




