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【第一章完結】僕は英雄ではないが、英雄は僕である  作者: 綾丸湖


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42. 救出


 監獄が近づいてきたが、かなり静かだ。

 戦闘音でもするかと思ったんだけど、もしかしてもう終わったのかな?


「よぉ、遅かったなぁ。こっちは大体終わってんぞ?」


 リュウが片手を挙げてこちらに声をかけてきた。

 うわ、ほんとに終わったんだ。


「強い兵士はどうだったの?」


「あん? まあ、他の奴らよりはマシだったが俺にかかればどうってことねぇな」


「おおー」


 暗くてわからなかったが、よく見ると眠らされたり気絶させられたりした兵士が端に寄せられている。その姿は……うん、聞いていた通りの感じだった。あまり見ないでおこう。


「賢者たちはもう中に入ったから、俺たちもとりあえず中に入るか」


[おっけー]


 監獄に入ると、すでに解放された兵士たちとすれ違った。とりあえず、監獄の外に集まるように指示されたらしい。なんか思ったより多いな。


 外に出ていく兵士の流れに逆らい、奥へと進んでいく。賢者が残してくれた目印を頼りに入り組んだ通路を進み、地下へ向かう階段を降りていった。なんかこの監獄めちゃくちゃでかいな。


 しばらく進むと、先行していた三人が分厚い扉の前で立ち止まっているのが見えた。やっと合流できたみたいだが、なにしてるんだろう。


「よぉ、そこに姫さんが言ってた奴がいんのか? なんで開けねぇんだ?」


「……いやぁ、ちょっと開けたくないなぁと思ってしまってね」


 賢者がものすごく嫌そうな声を出している。

 え、手招きされたけど近寄って大丈夫なのかな?


「ここからでも聞こえるから、耳を当ててごらん?」


「え、なんなの?」


 言われるがまま、扉に耳を当てる。

 すると……。




「姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様姫様……あれ? なんかさっきから姫様の香りがする気がするのですが気のせいですかね?」

 

 ……うわぁ、これは開けたくないなぁ。



 

「……まあ、開けるしかないか」


 なんかかなり葛藤してたが、ついに諦めたようだ。その気持ちはわかる。まあ、マユルワナさんに念押しされてたからな……。


 賢者がゆっくりと扉を開ける。

 中を見ると、思ったよりは普通の独房って感じだった。普通がなにかはわからないけど。


 部屋の中で座っていたのは、細身だがかなり背の高そうな女性だ。金の髪はかなり長く、表情はよく見えない。


「……」


 部屋に入ると、独り言が止まった。

 こちらを見もせず、微動だにしていない。


「やあ、キミがカリーシャかい? 助けにきたよ」


「……」


 ぴくり、と少し反応したがそれ以上は動く気配がない。疑われているんだろうか。


「……はぁ、マユルワナ姫の要請で救出しにきたよ。早く動いてくれないかな?」


 マユルワナさんの名前を言った瞬間、賢者の方を鋭い眼光で睨んだ。


「……このワタシのまえで姫様の名を出すとは。それが騙りであればあなたの命はありませんよ」


 凄まじいプレッシャーが放たれる。

 捕まっている人物とは思えない迫力だ。


「……はぁ、疑われるだろうからと伝言を預かってるよ。『貴女の力が必要です。わたくしを守りきるまでは決して倒れないと誓ってくれたでしょう?』」


「貴様ァ!!それは姫様とワタシの大切な……!!!」


 今にも掴みかからんばかりに身を乗り出してきた。

 なんだよこの人もうすでに関わりたくないよ。


「いや、だから伝言にしたんだろう? これで助けにきたことを信じてくれたかな?」


「それならば早く解放しなさい!!ワタシはすぐに姫様の元に向かわねばなりません!!」


「……ああ、はいはいわかったよ。他の兵士も解放してあるから、一緒に連れて東側の海岸に向かってね。これは姫さんのお願いだから、兵士たちを置いていっちゃだめだよ?」


「貴様ごときが姫様を語るなど烏滸がましい!!兵たちはワタシが責任を持って送り届けます!!そして姫様に褒めてもらうのです!!」


 初対面の、自分を助けてくれた相手に対してこの態度とは……。ジュルトラさんが渋っていたのも頷けるな。


「ああ、待っていてください姫様。貴女のカリーシャがすぐに戻りますのでっ」


 そう言って、僕らの方は見向きもせずに走り去っていった。もうなんか、どっと疲れたな。


「なんだったんだろうね、あれ。まあ、考えても仕方ないから、調査でもしようか」


「……そうであるな」


 みんなも疲れてる様子だ。

 ああいうのには、関わらないのが一番だよね。


 その後、みんなで手分けしてこの監獄を調べたり、魔族から情報を得られないかと試したりしていた。


 僕? 僕はまあ、魔法の練習とかしてたよね。


 一通り調査が終わると、監獄から少し離れた場所に集まっていた。情報共有をここで行っている。


「うーん、やはり召喚者である姫さんからの距離がかなり効いているようだね。全く理解できそうにない感じではなくなったね」


「同感じゃなぁ。しかしまあ、情報が得られんことに変わりはないがのぉ」


 ここでも収穫はなかったようだ。

 ここまで情報を得られないとなると、どうしようもない気がしてくる。


「吾輩は周囲の索敵を行っていたのであるが、今回は近くに反応はなかったのであるな」

 

「うーん、この世界の術式を知りたかったんだけどねぇ。リュウくんの戦った相手はどうだった?」


「あー、身体強化と、あとなんか複数の武器を操ってたな。そんなに珍しいことはなかったと思うわ」


 武器を操るのって珍しくないの?

 この人たちの基準が全然わからない。


「まあでも、少し気になるから連れてきてもらえる? ちょっと調べてみよう」


「おー、ちょっと待ってろよ」


 そう言って、リュウが監獄の方へ向かった。

 少しでも情報を得たいのだろうけど、難しいんだろうな。


「ヨロイくんは初めて大陸に来たけど、何か気になることはあったかい?」


[いやー、みんなと同じかな。これは相当制限されてるね]


 ヨロイは僕にずっとついていてくれたが、しっかり調査もしていたようだ。なんかすごいな。


「待たせたな。連れてきたぜ」


 すぐにリュウが戻ってきた。

 肩には魔族を担いでいたが、ドサッと地面に下ろした。


「さて、コウくん。この魔族の姿はどうだい?」


「え、僕?」

 

 僕に振られるとは思ってなかった。

 あんまり見たくないけど、ちゃんと見ようか。


「えっと、牙の生えた人って感じかな?」


 ファンタジーでいうところの、オーガとかその辺だろうか。鋭い牙が恐ろしい。


「……ふぅん、なるほどね。コウくんにはそう見えているのか。仮説は、正しかったみたいだね」


「そうじゃな。これは決まりじゃろう」


 コウくんには?

 なんだか納得しているみたいだが、どうしたんだろうか。ちょっと不安になってくるな。


「いいかい? コウくん。その魔族についてだが、私の目には、角の生えた紫の肌の化け物に見えている」


「……え?」


 どういうことだ?


「地道にコウくんの制限を解除してきた甲斐があったね。これなら、完全に解放することもできそうだ」

 

「制限の解除? 解放? ……何を言ってるの?」


 みんなを見渡すが、静かにこちらを見つめるだけだ。


 不安がどんどんと大きくなってくる。


「な、なんとか言ってよ……」


「……コウくん、よく聞いてね」


 賢者が間を置いて話し出す。

 聞きたいような、聞きたくないような……。



 

「コウくんとは、ここでお別れだ」




 

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