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僕は英雄ではないが、英雄は僕である  作者: 綾丸湖


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4. 城っていいよね


 城までの道はなんの問題もなかった。

 道などは整備されていなかったが、平坦で開けた場所というのはとても歩きやすいことを初めて知りました。

 

 いや、まあ予想以上に遠くて疲れきってしまったが、たどり着いたので問題ない。途中で賢者さんが回復魔法っぽいものをこっそりかけてくれていたが、問題はなかった。


 ありがとう、賢者さん。


「ここがシンクザイツ城です!さあさあ、お入りください!」


 城の前に到着し、扉が開かれた。

 遠くから見ていても思ったが、かなり広い城のようだ。森からの道中では通らなかったが、城下町のようなものも見えた気がする。


 だが、あまり人は見かけなかった。


「姫様!よくぞご無事で」


 城に入ると、年配の女性がマユルワナさんに深くお辞儀をして迎えていた。というか、マユルワナさんはやっぱりお姫様だったようだ。


「アイマ、英雄の方々を会議室にお通しして? くれぐれも粗相のないように」


 マユルワナさんの態度が王族っぽくなっている。なんというか、人に命令することに違和感がないというか。先ほどまでのガイドさん的な感じとは大違いだ。


「おお……!!では、この方達が……!!」


 アイマと呼ばれた使用人らしきお婆さんが、感動からか涙ぐんでいる。なんならその場で拝んできそうな勢いだ。なんの力もない僕としては気まずい。


「失礼しました英雄の方々。ようこそシンクザイツ城へ。私のことはアイマとお呼びください。皆様をご案内いたします」


 アイマさんはすぐに使用人モードに切り替えたようだ。プロっぽさが出ている。


「わたくしは大陸の地図などを持ってきますので、会議室でお待ちくださいね!」


 そう言って、マユルワナさんはどこかへ消えていった。


「では、皆様はこちらへ」


 アイマさんの案内に従って、歩き出す。

 しかし、城の中も人があんまりいないな。


「のぉ、アイマさんとやら。城の規模の割に人がおらんようじゃが」


 ああ、やはりおかしかったのだ。

 城になど入ったことがないから、普通なのかどうかもわからなかった。


「ええ、そうですね……。戦える者たちはここにおらず、残された者たちも各自の仕事を割り振られておりますので、この城にはあと数人ほどしかおりません。皆様にご不便はおかけしないようにいたしますので、ご容赦ください」


 アイマさんが恐縮しきっているようだ。

 謝れジィさん。


「ああ、いやそこは別に気にしておらんよ。ただ、そうか、そこまで追い詰められておるということか」


「そうなのです。……そんな中、姫様は戦えぬ我らの指揮をとってくださり、ここまで導いてくださったのです。本当に、姫様にはどれほど感謝しても足りません」


 マユルワナさんはすごい姫様だったようだ。

 あの明るい感じからは想像もできなかったが、相当な苦労があったのだろう。


 ジィさんは考え込んでいる様子だ。

 ジィさんの言う通り、想像よりもかなり危機的状況なのかもしれない。


 そうこうしていると、広間とやらに着いたようだ。


「すぐに姫様が参りますので、こちらでお待ちください」

 

 広間には円形の大きなテーブルがあった。

 各々、自由に席に着く。


「それでは、私は扉の外で待機しておりますので、何か要望がございましたらなんなりとお申し付けください」


 アイマさんが出ていき、扉が閉まった。

 途端に静かになる。なんとなく話し出しづらい雰囲気だ。


 だが、僕には切実な問題があった。

 隣に座る賢者さんに声をかけることにする。


「賢者さん賢者さん、この水って飲んでも大丈夫ですかね?」


 そう、歩き疲れて喉が渇いていた。

 テーブルには水らしきものが置いてあったのだが、正直に言って飲んでもいいか見当もつかない。


 助けて賢者さん!


「ん? ああ、ちょっと待ってね。……毒物の類は入っていないようだね」


「ありがとうございます!」


 流石は賢者さん!

 その言葉を聞いて、水に手を伸ばす。


「まあ、私の知らない魔法とか使われていたらわからないけどね。たぶん大丈夫じゃないかな」


「えぇ!?」


「いや、だって私もこの世界には来たばかりだし」


 賢者さん!?

 急に投げやりになった気がする。まあ、喉の渇きも限界に近いので、毒がないなら飲むとしよう。


 うん、美味い。


「慎重なのか大胆なのか……。まあでも、こんな感じなのかなぁ」


 賢者さんが何か言っているが、疲れていたのだから仕方がない。周りを見ても誰も疲れている様子はないし、水に手をつけてもいないが。いや、こいつらおかしいだろ。


 微妙な気分になっていると、扉が開いた。


「お待たせしました皆様!地図をお持ちしましたよ!」


 でかい紙を持って現れたのはマユルワナさん。着替えも済ませたのか、西洋風のドレスになっており露出が減っている。あの過激な服は儀式用だったのだろうか?


「広げますね!」


 そう言って、テーブルの上に地図が開かれる。大陸の形がざっくりと描かれているようだ。大陸の形としては、なんと表現すればいいのか。ぱっと見た感じは逆三角形だろうか。ただ、地図の上の方が途切れているので全貌はわからない。


「上が北かな? 途切れているようだけど」


「そこから先は元々人類の生存圏ではなかったので、わからないんです。申し訳ありません」


「なるほどね。ありがとう」


 各々が地図を眺めている。

 縮尺もよくわからないな。

 

 地図を見ていると、マユルワナさんが地図の一点を指差した。


「ここが、今いるシンクザイツ城です!」

 

 それは、逆三角形の一番下。

 

 の横にある小さな点。


 え、まさか。


「……ここは、島なのかい?」


 賢者さんが、恐る恐るといった様子で聞いている。


「はい!ここが人類最後の拠点、サーカン島にあるシンクザイツ城です!」


 ……


 詰んでるじゃないか!!

 大陸全部を制圧されてるじゃないか!!


「……ええと、こんなことを君の前で言うのも憚られるんだけど、もはや負けていないかい?」


 賢者さんが言葉を選んでいるが、最終的には直球だった。マユルワナさんには申し訳ないが、激しく同意する。


「いいえ!まだわたくしが、そして逃げ延びた人々がおります!」


 すごい。

 全く諦めていないし、希望に満ちた表情をしている。


「それに……」


 マユルワナさんが両手を広げ、こちらを見渡した。


「皆様が来てくれました!」


 一人一人の目を見つめる。


「皆様は人類の希望!この場所から、反撃を開始いたしましょう!!」

 


 その力強い言葉に、不覚にも、本当に不覚にも、


 胸が熱くなってしまった。


 

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