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【第一章完結】僕は英雄ではないが、英雄は僕である  作者: 綾丸湖


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38. 記憶


「コウくん、大丈夫かい?」


 呆然としながら部屋で項垂れていると、部屋の扉がノックされた。賢者が、訪ねてきたようだ。


「……どうぞ」


「ふむ、かなり憔悴しているようだね。アイミィが慌てて飛び込んできたから驚いたよ」


《大丈夫なの?》


 賢者と共に、アイミィが心配そうに部屋に入ってきた。これは、申し訳ないことをしちゃったな。


「ありがとう、アイミィ。落ち着いてきたから、もう大丈夫だよ」


《そう、なの?》


 ちゃんと笑みを浮かべられただろうか。

 アイミィの反応を見るに、上手くできた自信はないが。


「それで、どうしたんだい? 話せることなら、私でよければ聞こう」


 わざわざ賢者が来てくれたのだから、話を聞いてもらおうか。喋っていた方が、気が紛れそうだ。


《アイミィは、出ておくの!明日また元気な姿を見せてほしいの!》


「本当にありがとう、アイミィ。また明日ね」


 アイミィは気を利かせて部屋から出ていった。

 僕は別に聞いてもらっても構わないんだけど、もしかしたら賢者にも関係する話かもしれないから、この気遣いはありがたい。


「ふふ、いい子だね」


「……うん、僕もそう思う」


 賢者は椅子に座り、僕の方を向いている。


 さて、なにから話そうか。

 まあ、別に素直に話せばいいかな。


「賢者って、僕のいた世界のことは覚えてる?」


「……なるほどね。そういう話か」


 これだけで、賢者は察してくれたようだ。

 こういう時は、話が早くて助かる。


「まあ、このタイミングでむしろ良かったかな。結論から言うと、ほとんど覚えていないね。コウくんに会って色んなことを思い出したけど、親の顔も覚えてないよ」


「そう……なんだ……」


 みんな、そうなのか。

 僕だけじゃないと聞いて少しほっとしたが、それでも自分の記憶がなくなっていくというのは恐怖しかない。


「記憶がなくなってたことも怖いんだけど、全然思い返そうともしなかったことがショックなんだよね……」


 この世界に召喚されてから、かなり濃い時間を過ごしてはいた。魔法の訓練とかでバタバタしてたけど、それでも一度も元の世界のことを思い返しもしなかったのは意味がわからない。


「うーん、それはある種の防衛本能という感じかな。自分の心を守るために、考えないようにしていたんだろうね」


 なるほど、そういう考えもあるのか。


「あと、記憶が薄れてきているのは、コウくんがこの世界に馴染んできているからだと思うよ?」


「馴染む?」


 確かにここにきて結構経ったような気もするが、この城から出てもいないのに馴染んでいるのだろうか?


「この世界に受け入れられたと言ってもいいね。この世界からしたら、前の世界の記憶なんて異物でしかないだろう? だから、徐々に薄れていってるんだと思うよ」


「そんな……」


 賢者の言葉に、項垂れる。

 じゃあ、いずれは全部忘れてしまうんだろうか。そんなの、元の世界に戻っても意味ないじゃないか。


「なくなった記憶は、元に戻らないの?」


「記憶というのは、そう簡単に消し去れるものじゃないから安心していいよ。元の世界に戻れたとしたら、いずれそこに馴染んで思い出すから大丈夫」


「そうなんだ……それなら……」


 少しは、安心できた。

 やはり、賢者に話してよかったと思う。しかし、みんなはどうやって立ち直ったのだろう。これ、結構ショックだと思うんだけど。


「賢者も前の世界で記憶がなくなっていったんだろ? 怖くなかったの?」


「んー、まあ私の場合、元の世界には戻れないと諦めていたからね。そんなに悩みもせずに生きていたよ」


 えぇ……。

 僕なのにかなり違うな。


「コウくんの場合は元の世界に戻れる前提があるからそんな感じになったんじゃないかな? 戻れる希望がなければ、わりと吹っ切れるよ」


 なんか笑いながら話しているが、そんな状況になりたくない。賢者の生きてきた世界と比べると、僕はかなり恵まれているな。


 あー、なんか気持ちが楽になったな。

 やっぱり一人で抱え込んでちゃダメだね。賢者とアイミィに感謝だ。


「うん、もう大丈夫そうだね」


 賢者が僕の方を見て、そう言った。

 僕ってわかりやすいのかな。


「おかげさまで、元気な姿をアイミィに見せられそうだ」


「それはよかった。あの子はすごく心配していたからね」


 そう言った後、賢者が立ち上がる。


「さて、それじゃあ私は戻るよ」

 

「うん、本当にありがとう賢者」


 賢者は部屋の扉に向かった。

 出ていく間際にこちらを振り向く。


「せっかくの異世界だから、楽しむといいよ」


 最後にそう言い残して、扉を閉めていった。

 なんかすごく気遣われてるなぁ。みんなに心配をかけないように、明日からも訓練を頑張ろう。



――――――



「おはよう、アイミィ」


 翌朝、走り込みを終えて訓練場に行くとアイミィがいた。どうやら、僕のことを待ってくれていたようだ。

 

《おはようなの!もう大丈夫なの?》


「うん、アイミィのおかげだね。昨日はありがとね」


《元気になったならいいのー!》


 ああ、癒されるなぁ。

 この世界に来て良かったことは、間違いなくアイミィと出会えたことだな。


「アイミィと出会えてほんと良かったよ」


《な!? ……ま、まあ感謝するといいの!》


 照れてる様子も可愛い。

 なんかもう悩みもどうでも良くなってきたな。賢者の言ってた通り、異世界を楽しもう。


「ありがとー!アイミィ最高ーー!!」


《そこまではしなくていいの!》


 怒ってる姿も可愛いな。

 まあ、アイミィと戯れるのも楽しいがそろそろ訓練を始める時間だ。


 そういえば、午前中は聖光魔法の訓練のはずだがヨロイがまだ来ていない。何かあったのだろうか?


 そう思っていると、訓練場の扉が開いた。


「やあ、元気になったみたいだね」


 あれ? 入ってきたのは賢者だ。

 訓練が変更になったのかな。


「おかげさまでね。今日は精霊魔法の訓練から始めるの?」


「ん? ああ、違うよ。コウくんを呼びにきたんだ」


 え、なにか呼ばれてたっけ。

 考えてみるが、思い当たることはない。

 


「姫さんからの召集だよ。次の救出作戦が決まったらしい」


 


 

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