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【第一章完結】僕は英雄ではないが、英雄は僕である  作者: 綾丸湖


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32. 精霊


 敵船の襲来があった翌日。

 訓練場で僕と賢者は向かい合っていた。


「それじゃあ、早速始めるよ。準備はいいかい?」


「よくないですけど!?」


 あれから別に何も言われてない。

 なんだかソワソワしながら一晩過ごしただけで、なにも準備などしていない。


「ああ、別に物理的な何かの準備じゃなくて、心の準備ね。精霊魔法はそんなに難しくないから、気負わなくていいよ」


 そんな言葉には騙されない。

 苦しくないと言われた時は苦しかったし、痛くないと言われた時も痛かった。こいつら、比較的とか、自分の時と比べたらとかの言葉を省略する癖がある。


「はは、そんなに警戒しないでよ。今日やるのは、精霊が視えるようにするだけだから」


「あ、そうなの?」


 なんだ、てっきり精霊と戦って屈服させろとか、精霊を憑依させて抑えつけろとか言われると思ってた。そうなったら普通に拒否するつもりだったけど。


「そういえば、なんでこれが最優先なの? もっとやることがあると思うけど」


「それも、今回の訓練が終わったら話すよ。あんまりそこを意識してほしくはないからね」


 うーん、なにやら含みのある言い方だ。

 まあ、賢者がそういうなら納得しておこうか。


「さて、諸々の説明は後回しにして、今日の目的を達成してしまおう。ちょっとこっちにきて、仰向けに寝転んでくれるかい?」


「え、寝転ぶの……?」


 よくわからないまま、言われた通り仰向けになる。ヨロイの時みたいな儀式的なものかと思ってたけど、違うのだろうか。


「そんなに緊張しなくていいよ?………………………………痛いのは一瞬だから」


 は?


「いや、ちょ、ま、あああああああああああああああああ!?!?!?」


 目が!!目が痛い!!

 一瞬で目に何かが突き刺さったような激痛が走った。


「ぎゃぁぁぁぁぁあああああああああ!!!」


 

 ……



「……お、お前を、ゆる、さない」


 なんだこれ、なんか前にも言ったような気がするな。いや、そんなことはどうでもいい。僕の信頼を裏切り、痛みを与えた奴を絶対に許すものか。


 恥も外聞もなく目を押さえて転がりまくった。今も涙で前が朧げにしか見えない。


「いやーごめんごめん。でも、説明したら大人しくしてくれなかっただろう? どっちみち痛いんだから、一瞬で終わらせた方が良かったんだよ」

 

「どいつもこいつもそうやって言うんだよ!!結果的にはそっちの方がいいんだろうけど、騙されたら気分悪いわ!!」


 くっそー、こいつらほんとに……、僕のことわかってやがるからな……。一番これが手っ取り早いと知ってやがるんだ。


「まあまあ、そう怒らずに。そろそろ目の痛みも取れただろう? 私の方をよく見てごらん」

 

「あ゙あ゙? よく見ろってなにを……」


 目を擦って賢者の方を見た。


 その瞬間、あまりに幻想的な光景に呆けてしまった。


 

《アハハっ、ねぇ彼、ちゃんとこちらを見ているわ!?》

《まったく、主も人が悪い。あれではあの子が可哀想ではないか》

《…………………………なんか、変な感じです》


 

 賢者の近くに三体?の一際強大な精霊と思われる存在がいる。その周りにも、姿形様々な精霊が興味津々な様子でこちらを見ていた。


「ふふ、ようこそ〈精霊の楽園〉へ。擬似的だけどね。感想はどうだい?」


「…………すげぇや」


 なんだか世界がキラキラとしている。

 これが、精霊のいる世界だというのか。


「うん、ちゃんと視えているようだね。精霊の声は、聴こえているかい?」


「ああ、なんかさっきから楽しそうにキャッキャしてるな」


 大きいのは比較的大人しいが、小さいのは僕の周りをくるくる回りながら楽しげな声をあげている。


「よしよし、素晴らしいね。上手くいって本当によかったよ」


 賢者は言葉の通り、かなり安堵しているようだ。なにか心配でもあったのだろうか。


「先に、これを急いだ説明しておこうかな。昨日、魔族の言葉が理解できなくなったと言っただろう?」


 賢者の言葉に頷く。

 それが一体どうしたのだろうか。


「魔族が人ならざるものであるとするならば、精霊もその枠組みに入るかもしれないだろう? 可能性は低いかもしれないけど、先に精霊と交感してもらいたかったんだよね」


 なる、ほど?

 でも流石に、魔族と精霊は別物のような気がするが。


《ほんっとに心配性よねー? 精霊とあんなのが一緒なわけないじゃないの!》


 緑っぽい体に羽の生えた女性の精霊が、可愛らしく抗議しているのが視える。


「ふふ、そうだね。でも、彼にも素敵な君たちを紹介したかったんだよ。焦るのも仕方ないだろう?」


《もー、しょうがないわねー》


 ちょろいなこの精霊。

 でもなんか、こういう関係はいいよなぁとも思う。


「せっかくだから、紹介していこうかな。コウくん、こちらの美しき精霊が、フゥサだよ」


《フゥサよー!よろしくねコウくん!》


「よ、よろしく」


 フゥサは手をブンブンと振っている。

 天真爛漫な女性といった感じだ。


「次に、こちらの猛々しき精霊が、ラィズゥだよ」

 

《ラィズゥだ。先ほどは主がすまぬな。悪気はないのだ》


「い、いえ、お気になさらず」


 バチバチと白い光が迸っている虎みたいな精霊が申し訳なさそうにしている。凄まじい威圧感の割に、とても丁寧だ。


「最後に、こっちの可憐な精霊が、ヤーシィだよ」


《………………ヤーシィです。よろしく》


「えっと、よろしくお願いします」


 黒く長い髪の、小さな女の子の精霊だ。

 なんだかちょっと暗い感じがするけど、嫌な印象はなかった。なんだろう、引っ込み思案な親戚の女の子みたいな。

 

「私の大切な友人たちだよ。仲良くしてね?」


 賢者が精霊のことを語る時の声は、とても優しい。

 本当に大切に思っていることがわかる。


「コウくんには、この光景を見せたかった。だって、この子たちを知らずに生きるなんて、損でしかないだろう?」

 

「……まあ、それには同意してやるよ」


 得意気に語るその感じは、先ほどの恨みもあり癪に感じるが、その意見には全面的に同意だ。


 それほどまでに、この世界は美しい。


「わかってくれて良かったよ。まあ、私なんだから心配はしてなかったけどね」


 賢者は愉快そうに笑っている。

 なんかほんとに雰囲気が柔らかくなってるな。


「さて、あとはコウくんにも精霊と契約してもらいたいんだけど、こればっかりは相性があるんだよね」


「契約?」


「そうそう。精霊魔法は精霊と契約を結ぶことでその真価を発揮するんだ。だから、いろんな精霊と触れ合ってほしい」

 

 周りを見渡す。

 ほんとにたくさん精霊がいるんだけど、この中から相性のいい精霊を探すの?


「ふふ、心配しなくていいよ。運命の精霊とは、必ず巡り合う。私がこの子たちと出会ったようにね」


 そう言うと、精霊たちが嬉しそうにしている。

 僕も、精霊とこんな関係が築けるのかな。


「すぐには見つからないかもしれない。でも、出会ったら直感でわかる。その機会を、ゆっくり待っているといいよ」


「うん、楽しみにしてるよ」


 いつか出会う精霊に想いを馳せる。

 賢者とその精霊のように、良き友人になれるといいな。


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