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僕は英雄ではないが、英雄は僕である  作者: 綾丸湖


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15. 迎撃戦


 迎撃戦は続いている。

 狼型の後は、猪型やら熊型やら様々な魔獣が現れたが、ことごとくヨロイの隔壁に阻まれ、リュウによって殲滅されていた。このままでも特に問題ないように見える。


 僕の精神が削られてること以外はね!


「あのぉ〜、僕ってここにいる必要ある?」


 隣に立って暇そうにしてる賢者に話しかける。いや、暇そうというのは嘘です。なにやら呪文を唱えたり魔力を遠くに飛ばしたりして支援してるっぽい。


「ん? まあ、安全に戦場の空気を知れるならお得なんじゃない?」


「そんな軽い感じかなぁ……」


 これ結構トラウマになりそうなんだけど。

 こんなのに慣れないといけないのかぁ……。


「そんなことより、ちょっとこの魔獣の様子は気になるね。どう見ても私たちを狙っている」


「え、なにかおかしいの?」


「まあ、一概におかしいとも言えないんだけどね。ただ、強力な魔獣から逃げてるだけならこちらに来る必要もないよね」


 言われてみると、他にも森から出る場所はいくらでもあるのに、僕たちのいるところに魔獣たちは殺到していた。


「それに、なんというか飢餓感のようなものが見てとれるなぁ。ジィさんの言ってたように食糧の枯渇か? いや、それにしては……」


 賢者は考え込んでしまった。

 飢餓感? まあ確かに、魔獣は血走った目で涎を流しながら突っ込んできてるようにも見えるか。


「あー、嫌な予想が当たってそうだなぁ。なんというか、後味が悪い」


 小さく呟いている声が聞こえてきた。

 うん、聞かなかったことにしよう。


 気づくと、新たな魔獣の姿がなくなっていた。もしかして、終わったのだろうか?


「第一波が終息したといったところかな? ここからは魔獣の強度も上がるだろうね」


 リュウも戻ってきたところで、小さなコウモリみたいなものがパタパタ飛んできた。え、なんだろうこれ。魔獣か? それにしては可愛らしいが。


「ああ、これはヴァンくんの使い魔だね。情報共有するために飛ばしたんだろう」


 おお、使い魔か。

 コウモリというのは、なんというかヴァンらしい。


 賢者は使い魔を手に乗せ、なにやら真剣に頷いている。なんの音も聞こえてこないが、どうやって伝言を聞いているのだろうか。

 

「……ふむ、なるほどね。みんな集合ー!」


 その声にリュウとヨロイが集まってくる。


「どうしたぁ? もう終わりでいいのかよ?」


「ほとんど終わりと思っていいかな。ただ、それも微妙な感じでねぇ。とりあえず、ヴァンくんからの報告を伝えるよ」


 ほとんどということは、まだなにかあるようだ。


「まず、今回の騒動の原因と思われる強力な魔獣は討伐完了したらしい」


 おお、凄いじゃないか。

 あの二人もほんとに強いんだな。


「ただ、倒すことはできたけど、その性質が厄介だったらしくてね。毒蛙といった感じの魔獣だったそうなんだけど、周囲に毒を撒き散らして、死体も毒を放ってるらしい」


[うへぇ、めんどくさいなぁ]


「そう、めんどくさいんだよ。で、この毒が森を侵食していって、比較的弱い魔獣は腹を満たせなくなっているということだね」


 うわぁ、毒蛙?

 絶対見たくないな。というか、森を汚染するほどの魔獣を倒せた二人もおかしいと思う。


「……さらに、悪い知らせもある。森の中に、戦闘の痕跡と、人の扱う武具が散見されたらしい。こちらに向かってきたのは、人の味を覚えた魔獣だ」

 

「……まあ、そうだろうな」

[あー、やっぱりね……]


 リュウは苦々しい表情をしている。

 他の二人も似たような雰囲気だ。なんだろう、とても嫌な感じだ。


「え、人が森に入ったってこと?」


 恐る恐る聞いてみると、賢者は頷いた。

 


「そもそもさ、魔獣で溢れるこの森を、あの姫さんが一人で抜けられたと思うかい?」



 ああ、ダメだ。

 これは聞いたら後悔するやつだ。


「おそらくだが、残った戦力を総動員して聖域に向かったはずだ。そして、生き残ったのは姫さん一人。これが、どういう意味がわかるね?」


 そこまで言われたら、流石の僕でもわかる。

 わかってしまう。


 何十人もの人の命を犠牲にして、僕たちは召喚されたんだ。


「間違っててほしかったけどね。どうもそういうことらしい」


 なんで、そんなことをしたんだろう。

 追い詰められていたのは、わかる。だけど、それにしたって……。


「まずは、この戦いを無事に終わらそう。その後のことは、また考えればいいさ」


 賢者は僕を気遣ってくれているみたいだ。

 他のみんなは、薄々勘づいていたんだろうな。気づいていなかったのは、余裕のなかった僕だけ。


「……ま、どう考えても俺らのせいじゃねぇ。あんま気にすんなよ?」


[そうそう、ボクたちはむしろ振り回されてる方なんだからねー]


「……そうだね」


 なかなか、割り切れるものではない。

 特に僕は、戦う力のない一般人だ。未来のために命を投げ出した人たちが望んだのは、英雄だ。僕ではない。


「おっと、次の魔獣が来たみたいだね。リュウくん、またよろしく」


「おうよ」


 そう言って、リュウが再び飛び立つ。

 今度の魔獣は虎型かな? やけに大きいが。


 まあ、もやもやとした気分になるが、悩んでいても仕方がない。せめて、今できることくらいはちゃんとしよう。



 その後も散発的に魔獣は現れたが、段々と数は減っていき襲撃の間隔も長くなっていった。夜通しの戦いとなり、それなりに疲れはみえていたが、魔獣のいない合間に仮眠をとることができたので、みんなは大丈夫そうだった。


 僕? 僕は特に戦ってないので疲れてはいない。目が冴えてしまって眠れてないので、頭がぼんやりしているくらいだ。


「……やっと、終わりかな」


 夜が明けるころ、賢者がそう言った。

 ようやくこの長い戦いも終わりを迎えたようだ。


「おっ、二人とも戻ったみてぇだな」


 リュウの言葉を受け森の方に目をやると、ジィさんとヴァンがこちらに向かって歩いてきていた。


 なんか疲れきっている。


「やあ、おかえり。無事だったみたいだね」


「……いや、別に無事じゃがなぁ。なんかもうめちゃくちゃ面倒じゃったわ」


「魔獣を倒すより、後始末の方が大変だったのである……」


 話を聞くと、毒蛙の魔獣を倒した後、どうやら二人で毒の処理をしていたらしい。毒に侵食された区画を封鎖していたら、あちこちから魔獣の襲撃もあったらしくその対処でどんどん遅れ、その間に侵食も進んで大変だったようだ。よく生きてるなこの二人。しかも無傷。


「まあ、なんにせよみんなお疲れ様。さっさと城に戻って休むとしようか」


 全員無言で頷いた。

 もう朝だもんなぁ。早く戻って眠りたい。


 城の方に歩いていると、なんだかざわついている。そこには、なぜか避難していたであろう人々が集まっていた。


 一番前にいたマユルワナさんが走り寄ってくる。



「ありがとうございました!英雄の皆様!」



 輝かんばかりの笑顔で、僕たちを出迎えてくれた。

 

 その笑顔が、今は恐ろしかった。



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