ゾロ目の刻
最近、やけにゾロ目の時間を目にする。
朝のコーヒーを入れようと時計を見れば 7:44、外に出る前にスマホを見れば 11:11。
意識しているせいだと自分に言い聞かせても、不思議と胸の奥がざわつく。
私は今、仕事を辞めて三か月目。
復職先をどうするか、まだ決められずにいた。
やりたいことと、安定した生活。どちらを優先すべきか、頭の中で天秤が揺れ続けている。
その日、ハローワークの待合室で求人票をめくっていたとき、ふと視線が時計に吸い寄せられた。
13:33。
その瞬間、手にしていた求人のタイトルがやけに目に飛び込んでくる。「地域の健康を支える保健指導スタッフ募集」。
条件は、収入面でも距離的にも少し背伸びが必要だった。でも、仕事内容だけは心が動く。
帰り道、駅のホームで再び時計を見た。
15:55。
数字がまるで「進め」と背中を押してくる。
根拠はない。それでも、あれだけ迷っていた気持ちが、その時だけは驚くほど静かだった。
夜、応募フォームに必要事項を入力し、送信ボタンを押す。
送信完了の表示と共に、パソコン右下の時計が目に入った。
22:22。
私は小さく笑った。
きっと、これでいい。ゾロ目は、ただの数字じゃない。
私の決意のタイミングを、そっと知らせる合図だったのだ。