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神々の集の泉

「まだ、温かい・・・・・」


 思えば、元の世界では昼食を食べる前にだったし、コチラの世界に召喚されてから飲食を忘れていた。

 目の前のホカホカなホットサンドを見て今になって、物凄くお腹が空いてくる。


 だけど、一応・・・・・。


「スキル『鑑定』発動」


 再び目の前に半透明なディスプレイが出て来た。現れたディスプレイの中央に大きな円のホットサンドとドリンクを翳す。


【ドドルバードのチキンサンド。白麦のパン。一般的に家畜化されている鶏の肉を使用。オニオ、ソースはチーズソース。飲食可】

【アルププの果汁ドリンク。アルププの実を絞り軟水と割った飲み物。飲食可】


 よかった。食べられる食材みたいだ。

 一応、異世界人だから、食べ物が合うかどうか心配だったけど、ハズレスキルだと言われた『鑑定』だが、意外にも役に立っている。


「よし、いただきます」


 食べられるモノだと確信した紅音は目の前の食事に手を合わせた。

 そして、包まれた紙の一部をめくり、ホットサンドに齧り付く。


「んん!?」


 さっくりとした表面にもっちりとしたパンの食感に、地鶏に似たとり肉の脂と弾力のある歯応え。シャキシャキとした玉ねぎっぽいお野菜は玉ねぎに似ているが全然辛く無い。

 掛かっているソースはチーズとマヨネーズを足して2で割ったような味で濃厚だけど、全然くどく無い。

 思わず、唇の端に着いたソースをペロリと舐め取る。

 お肉の味付けはシンプルに塩胡椒みたいだけど、お肉がいいのか塩胡椒で十分美味しい。そこに濃厚だけど微かに酸味が効いたソースが合う。

 一緒に買ったドリンクは見た目はリンゴジュースだが、味はリンゴと桃を合わせたようなフルティーな甘さの紅茶の様だった。

 少々濃いめの味付けのホットサンドによく合う。


「美味しい!!」


 紅音は顔を綻ばせ、残りのホットサンドに齧り付き、ドリンクを煽る。

 程よく冷えたドリンクを喉を鳴らして飲む。


「ん、ん!ぷはぁ!!あー、美味しいかった!ご馳走様!!」


 最後にドリンクを飲み干し、満足感に浸る。


「調味料も食材も案外、元の世界と変わらないのかな?」


 その時、何やら前方の方が騒がしくなって来ていた。


「??。何かあったのかな?」


 そう思いながら、紅音は食べ終わったゴミとコップを店に返しにいく。

 すると、先程ホットサンドを買った店先に何人か人が並びホットサンドを買い求めていた。


「お!!お姉さん!!どうだったウチのチキンサンドの味は?」


 コップを返しに来た紅音を見た店主は嬉しそうに声をかけて来た。


「はい!とっても。パンもチキンも美味しかったですが、ソースが濃厚なのに、くどく無くて美味しかったです」

「そうだろ、そうだろ!!いやね、お姉さんがウチのチキンサンドを美味しそうに食べているのを見て、チキンサンドを買いにお客が並び出してねぇ!!いやぁ!!嬉しい限りだよ」

「え、」


 まさか、通行人に食べている所を見られていたとは思わず、恥ずかしく感じる。


「うわぁ、見られていたなんて恥ずかしい・・・・」

「あはは、それだけ美味しそうに食べてくれていたって事さ。ありがとうな」

「いえ、そんな」

「お姉さん、このルーダに初めて来たんだろう?俺で良ければ、色々聞いてくれ」

「え・・・・、あ、」


 店主の申し出に、紅音は一瞬考えたが、聞くことは直ぐに思いついた。


「じゃあ、小金貨一枚で三日泊まれる宿は有りますか?」


 今日の寝床の確保だ。


「宿探しかい?だったら、この大通りを真っ直ぐ行って、噴水広場に出るから其処から左手の方角に見える赤い屋根の『トムズワー』と言う宿屋があるから其処がお勧めだよ」

「トムズワー、ですね。分かりました」

「ああ、ちょっと古いけど其処の宿屋はなら朝食付きで小金貨一枚で3日滞在できるよ」

「はい。ありがとうございます」

「おう、また買いに来てくれよな!!またオマケさせてもらうよ、お姉さん」

「はい是非」


 機嫌良く紅音を送り出す店主に頭を下げて、大通りの道を歩く。


「小金貨が一万円で三泊できると言う事は朝食付きで一泊当たり約三千三百円。なかなかリーズナブルな値段ね」


 一応頭の中で元の世界の知識と照らし合わせ、これからの事を考えていく紅音。


「とりあえず、今日はそこのトムズワーに泊まって、明日この国の事を調べに行く。必要だったら、国営ギルドに相談しに行ってみよう」


 早めに、衣食住の確保をしておきたい。


 そう考えていると、店主の言っていた通り大きな噴水が鎮座する一際人が賑わっている広い広場が見えてきた。


「おおお・・・・・」


 それは神殿を象った9本の太い石柱に大きな石製の四段の雛壇に大中小様々な人種の石像が並びその中央に一際大きく威風堂々とした老師のような男性の石像が立っていた。

 噴水の噴き出す水はまるで雛壇の石像達を彩る様に、もしくは石像達を守る様に水飛沫を上げている。

 元の世界のローマにも似た観光地があったけど、想像の三倍くらい大きな芸術的光景に圧巻する。


 噴水の前まで歩み寄ると、小さな石碑が紅音の目に入る。


「『神々の集の泉』?」


 その石碑には噴水の説明が書かれていた。


『この噴水はかつて、この世界を生み出した創造神デミウルゴスと99の実子達がこの世の世界を司る神々となった祝いに一同に集った神殿を象った泉だと言い伝えられている。

 一説では、遥か昔、魔王の侵略おり世界各所に点在していた創造神デミウルゴスを祀る神殿が破壊されたが、泉の神殿だけは創造神デミウルゴスの加護により無事だったと言う伝承が残り、故に世界各国で神殿を象った噴水が創設されたと言い伝えが残っている。このルーダの『神々の集の泉』は世界屈指の大きさを誇る巨大噴水』


「なるほどねぇ・・・・ん?第34男、芸術の神、エンジュガルド?その隣は第35女、論文の女神ルルーシュアーネ」


 よく見るとご丁寧にも、石像の胸元に何番目の兄妹か、何の神か、そして名前が刻まれていた。


「へぇー。芸術の神に火元の神、お菓子の女神、医学の神に、薬草の女神、鍛冶場の神に、水場の女神、商売の神に、農家の女神、え?・・・・貧乏の神?迷走の神、怠け者の神?性交の女神に自堕落の神?・・・・・本当に色んな神様がいるのね」


 崇めるには少し疑問を感じる神様もいたが、日本や外国にも沢山の神々言い伝えられていたし、これはこれで何だか共感があって面白い。


「あ・・・・・・・」


 1人づつ何の神か見ていくと、


「刻の女神アディーダ。時空の神パルアドルフ。ギフトの女神ルカリス・・・・」


 100体の石像の中でふと目に入った、私をこの異世界に呼んだと云われる3人の神。


「・・・・・・・何で、私、この世界に呼ばれたんだろう?」


 確かに、人間関係に疲弊していたのは事実だった。

 だけど、元の世界をいきなり捨てられる程、あの世界が嫌いだった訳ではない。


 元の世界には、大好きだった両親との幸せな思い出がある。思い出の場所も知人や友人もいた。

 多分、あの世界で小鳥遊 紅音と言う人間は行方不明の扱いになっているはず。

 いきなり私が行方不明になってしまって、友人や両親の遺骨を納めているお寺に迷惑がかかってしまうな・・・・。


 毎年欠かさずにお墓参りに行っていたのに、もう行く事が出来なかったら、多分住職さん心配するだろうな・・・。

 周りが落ち着いたら、海外にある曾祖叔父様のお墓参りにも行きたかった。

 井ノ原さんにももう一度会ってお礼が言いたかった。


「・・・・・・・そう言えば、曾祖叔父様の遺産、どうなっちゃうんだろ?」


 曾祖叔父様から相続した遺産が記載さえた通帳と実印は今持っているリュックに入っているけど、この異世界では何にも役に立たないだろうし・・・・・。


「・・・・・・・・考えても仕方がないか。よし、切り替え、切り替え。宿屋のトムズワーは、っと、赤い屋根・・・・、あ、あそこかな?」


 思わずネガティブな考えをしてしまったが、直ぐに考えを切り替えた紅音は教えてもらった宿屋へと歩き出す。

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