花嫁候補お断り
ユリアが未だにこちらを睨んで来るから、私は、
「フッ」
挑発的に笑ってやった。
「ッ!!」
紅音の不敵な笑みに、
「何よ、何よ!!オバさんのくせに、」
ユリアは悔しそうに押し黙る。
キャンキャン子犬の様に吠えるだけの小娘にかまってあげられる程、私も暇では無い。
「ふん、お前は随分と気の強い女の様だな」
愉快そうに笑う声に振り向くと、そこにはまるで面白いオモチャを見つけたかの様に笑い紅音を上から下まで観察するチャルエット王子がいた。
「・・・・、お騒がせして申し訳ありません」
そんなチャルエット王子を10年培ってきた社会人スマイルで対応する。
話し合う場にあたって相手を観察するのは、社会人の習性と言うべきか、紅音もチャルエット王子を観察する。
見たところ、王子様は宰相さんよりも歳下・・・、高校生、17歳か18歳と言ったところか。
王様と目元と雰囲気がなんとなく似ている感じがするから親子で間違いは無い様子。
何よりも、周りの人達が一言も声を出さず、粛々としている。
よっぽど格上の人物と言う事。
やっぱり、この国の王子様という事で間違いはなさそうだ。
「ふん。まぁ、コレはコレで、悪くは、無いな」
「・・・・・・・・」
王子様の舐めるような視線で私を、主に顔より身体に視線を感じる。
ちなみに私の今の服装は上着に黒のロングカーディガン、白のハイネックのシャツ。ボトムはスキニージーンズ。
ちょっと前までは気にも止めなかったが、周りの人達の中世ヨーロッパみたいな豪華で重量感のある服装に比べると今の自分の服装は、女性らしい体型がよく出ている。
スタイルが良かった母親の遺伝もあるが、極貧生活で節約料理と通勤にかかる電車の定期代のお金が惜しくて毎日片道40分かけて自転車で会社に通勤した社会人生活のおかげで自慢と言う程では無いが、紅音は自分のスタイルの良さを維持出来ていた。
そんな紅音の身体をじっと観察して、
「まぁ、ハズレスキルだろうが、召喚の儀で3人の神々に選ばれたのは紛いもない事実。些か歳は行き過ぎているようだが、身体は、まぁまぁだな」
満足そうに笑ったチャルエット王子。
「よし、お前も、僕の花嫁候補として認めてやろう」
不敵に笑い堂々と言い放つチャルエット王子。
そんなチャルエット王子に紅音は思った。
(ふざけるなよ、このエロガキ)
紅音は声と顔には出さなかったが、あからさまな身体への視線に不快な気分になっていた。
チャルエット王子の後ろでユリアが怒り丸出しでコチラを睨んで来ている。
(・・・・・・あの子もこの子も、面倒くさい・・・・・)
紅音は吐きそうになった溜め息を寸出のところで止める。
チャルエット王子の言葉にはイラッと来た。
「・・・・・・・・・・」
だけど、なら発想を変えればいい。
コレは、小さな幼稚園児の男の子が幼稚園の先生にプロポーズをして来た。そして、その光景を後ろから同い年の幼稚園児の女の子がヤキモチを焼き、怒ってコチラを見ている。
そうと思えば、可愛いモノだ。
「・・・・うふふ、ありがとうございます。王子様」
笑顔で答える私を見て、さも当然と言った顔をするチャルエット王子。
だけど、
「でも、ごめんなさい」
「は?」
まさか断られると思っていなかったチャルエット王子がポカンとした顔をする。
「私、王子様と少し歳が離れている様だし、王子様くらいの男の子は正直、可愛いとしか思えなくって、恋愛対象として見れないの」
「な、何を!!失礼な!!」
チャルエット王子が男の子や可愛いと言われた事にカッと顔を赤くした。
そんな王子が、ちょっとだけ可愛いく思えて、紅音は一歩王子に近づき、顔にかかった横髪を耳にかけ、ふんわりと優しい笑みを浮かべた。
「うふふ、だから、王子様がもう少し成長して素敵な殿方になったその時、まだ私にその気があったら、もう一度お声をかけてくださいね」
「え、ぁ・・・・」
紅音が優しく微笑みながら幼い子に言い聞かせるようにそう言うと、チャルエット王子はフィと顔を背ける。
そんな行動が、本当に子供じみている。
子供扱いされた事が恥ずかしかったのかな?
さて、お子様2人が黙った所で、本命の人達との話を付けよう。
「・・・・。国王様、宰相様。少々発言をよろしいでしょうか?」
「・・・・。うむ。許可する」
「ありがとうございます」
王様と宰相さんの方へ振り向き営業スマイルでお礼を言う。
「先程も言いましたが、私は王子様とは歳が離れている様ですし、スキルも魔王退治では役に立ちそうで無いみたいです」
「・・・・・何を仰りたいのでしょうか、ユカリ様」
「・・・・・・私、紫 竹中は、王子様の花嫁候補と魔王退治の辞退させて頂きます」
ザワザワ ザワザワ
私の宣言に周りがざわついた。
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