リュミの実とグミ
喉元を優しく撫でるとグルグルと喉を低く鳴らす、ワーフォル。
すると、紅音の足元にコロコロとワーフォルの子供が1匹転がってきた。
「ん?」
パチリ
クリクリとした円いお目目と私の視線がかち合う。
・・・・こてん。
すると、小さいまん丸な体を私の足にぶつける様に倒れた。
じーーー。
まるで、構って欲しくてお腹を見せる猫の様に、体を横たえながら、私を見上げる。
「はう・・・」
あまりの可愛さに変な声が出た。
その時、ワーフォルが顔を上げる。
「ガウ」
「チチ、チチチチ『ご主人様、ワーフォルから触れていいという許しが出ました』」
「え?いいの?」
「ガウ」
「人間の匂いが付いたら嫌がらない?」
「グウ」
「チチチ『大丈夫だそうです』」
「じ、じゃあ・・・」
ワーフォルに抱きついていた腕を下ろした。
そっとしゃがみ、足元に寝転んでいる子ワーフォルに驚かせないようにそっと撫でる。
「うわぁ・・・」
すると、指、手の平から伝わる、モフッ、フワッとした温かい触感。。そして、軽く手を押し返すようなモチモチとした弾力。まだ毛が生え揃っていない、ぱやぱやした毛並み。
今まで体験した事のないような癒しを集結させたような触感に思わず私は感動してしまった。
「・・・・ミ!」
「へ?」
急に鳴いたと思ったら、シュンと丸い姿が消えた。
次の瞬間、
「わ!?」
頭にモフッと何が乗っかってきた。
「ミ!」
先ほど紅音が撫でていた子ワーフォルが紅音の頭の上に瞬間移動した。
体重は仔猫のように軽かったが、いきなり頭に乗られたのに驚いた。
「ミ!」
「ミミ!!」
「ミー!!」
頭に乗った子ワーフォルを皮切りに残りの3匹の子ワーフォルも次々と紅音に飛び乗ってきた。
「わわわ!?」
「チ?!」
突然、白くて丸いフワモフな子ワーフォルたちに飛び乗られて、思わず倒れる様に尻餅をついた。
しゃがんだ状態だったから、そこまで痛くはなかったが、倒れた拍子に肩に乗っていたシロが肩から落ちた。
「アカネ!?」
成り行きを見守っていたキャロラインが、驚く。
「だ、大丈夫です。シロは大丈夫?」
「チチ、チィ『はい、大丈夫です』」
肩から落ちたシロを見ると、クシクシと自分の毛並みを整えていた。
あっという間に、子ワーフォルに群がられる紅音。
頭に肩、背に膝と好き勝手に登っている。
「あ、ちょ、ちょっと、ふふふ、あ!ま、待って、待って!?」
頭に乗った子ワーフォルが、前にずれ落ちそうになるのを慌てて手で止め、背中をよじ登ろうとする子ワーフォルの動きがモゾモゾとくすぐったい。
肩に乗っている子ワーフォルは、今かけている鑑定眼のメガネに興味があるのか、紅音の顔に近づき、もふもふの体を押し付けてくる。
その時、頭に乗った子ワーフォルが身を乗り出し、紅音の頭から転げ落ちた。
「あ!危な、わ、わわ!」
慌てて転げ落ちた子ワーフォルを受け止めるが、その反動で鑑定眼のメガネが紅音の顔からずれ落ちた。
「あ、」
鑑定眼のメガネが紅音の顔から外れた事で、メガネが消え、先程まで現れていた、ワーフォルを写していたディスプレイも消えた。
「あ、消えた」
ジオルが背後を振り返り、ディスプレイが消えた事に小さく驚いた。
「す、すみません。外すと消えるみたいで」
「いや、それは大丈夫だ。だが・・・」
せっかく提供していた情報が消えてしまった事に慌てるが、アドルフさんは大丈夫だと言ってくれた。
だけど、その顔は困惑が隠し切れていなかった。
「成獣のワーフォルに触れられるだけでも、希少な体験なのに、幼獣のワーフォルにそこまで懐かれるなんて、ただのスキルだけでは説明がつかないわね」
「使い魔やテイマーが使役している魔獣ならまだしも、これは・・・」
野生の魔獣は警戒心が強い個体が多い。
特に育児中の繊細な時期に親が大切な子供を人間に関わらせるのは、アドルフ達の目には余りにも異常に見えた。
そして、アドルフの頭の中に一つの可能性がよぎった。
「・・・アカネ」
「はい?」
「君はもしかして、何かの加護を授かっているのか?」
アドルフさんの言葉に、
「ッ!・・・・」
私の心臓はドクンと鼓動した。
(『加護を多く持つ者は狙わる可能性が高い』)
昨日、加護を授けてくれた神様達が言っていた事が頭の中に響く。
薄々気がついていたが、これは慈愛の女神ロディーメイア様から授かった『動物に好かれる』加護のようだ。
魔獣にも好かれるとは想定外だったけど。
どう答えるべきか・・・・。
グランドギルドマスターであるオーディアンさんには、私の事情は話してある。
私が異世界から召喚された事も、この世界の神様達から複数の加護を授かった事も。
だけど、今ここでこの人達にそれを打ち明けていいべきなのか。
ワーフォルにここまで好かれると言う事は、他の魔獣にも好かれる可能性が高い。
それは、このメンバーにとってはクエストを完遂するにあたって大きな利点になる。
だけど、それは、紅音にとっては大きなリスクになりかねない。
神様が授けてくれた加護をこの人達がどのように受け止めてくれるのか、今日会ったばかりの今の段階では判断することが出来ないからだった。
真実を言うべきか、それとも、嘘を伝えるか。
少し考えた私は、
「・・・」
人差し指を口元にそっと立て、
「内緒です」
悪戯っぽく目を細めて、笑い、そう言った。
私は、真実を告げるのも嘘を伝えるのも選ばず、笑って誤魔化す事を選んだ。
「内緒、か」
草原に座り、子ワーフォルを腕と肩と膝に乗せる私を見下ろすアドルフさん。
「はい、内緒です」
私はあえてニッコリと微笑む。
「アカネさん、なんかズルい・・・」
ジオルがかすかに頬を朱に染め、そう言った。
「・・・・・キミ、ズルい女だって言われないか?」
こちらも少し困った様な、苦笑いをするジャミールがそう言った。
「あはは、面と向かって、言われた事はないですね」
「言われた事はあったのね」
「ははは・・・」
キャロラインさんの言葉に私は苦笑いで誤魔化した。
昔、前の再就職した職場の繁忙期に上司に『接待』と言う名の飲み会に半ば強制的に参加させられ、ホステス役をやらされた事があった。
そこで、交流のある取引先の年配の部長が執拗に、私のスリーサイズを聞いてきた。
私は、セクハラだと思いつつも、取引先という事もあり、無下にはできず、愛想笑いで「内緒です」と言ってやり過ごした。
雰囲気的に、教えてあげませんと、警告するように。
まあ、その後、お局の上司に大量の仕事を押し付けられて、『接待』には参加出来なくなったのは、不幸中の幸いだったけど。
「あの、代わりと言ったらなんですが、」
私は話題を変える為に、手に持っていた赤いグミをアドルフさん達に見せる。
「それって、リュミの実ですか?アカネさん」
「うんん。これは、リュミの実ではなくて、グミと言うお菓子なの」
「え?お菓子?」
私の手のひらの上に乗るグミをマジマジと見るジオルくん。
「えっと、詳しい作り方は分からないんだけど、ゼラチンと言うモノに甘い果汁や甘味料を混ぜて固めたお菓子なんだよ」
「だが見た目は、リュミの実にそっくりだな」
「よかったら、お一つどうぞ」
私は、そう言いながら、もう一つグミの袋を割き、緑色の青リンゴ味のグミを取り出す。
「わ!食べます!ください!」
真っ先に、ジオルが緑色のグミに飛びつく。
「わ!甘くて美味い!」
「わ、私も一つ貰える?」
「俺も」
「・・・・・一つもらう」
ジオルを皮切りに、他のメンバーもグミを摘む。
「あ、美味しい」
「かなり、弾力があるな」
「モチモチしてて、おもしろー」
グミはなかなか好評のようだった。
アドルフさんとジャミールさんはグミを食べてなんだか感慨深い顔をする。
「確かに、リュミの実に似ているが、別物のようだな」
「ああ、味も食感も似ているが違う」
特にジャミールさんは、真面目な表情をしている。
「酸味があまりなく、柔らかいが歯ごたえがある。そして」
ジャミールはグミを一口かじり、グミの断面をじっと見ている。
「種がない」
「そりゃそうだ」
思わず紅音が笑いながらツッコんだ。
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