ラマニーニの草原
初めて見る浮島と遭遇するかも知れない魔獣に不安を感じていた紅音。
「アホか、無駄に不安を煽る様な事を言うな。万が一魔獣の襲撃に遭えば逆に俺達が返り討ちにして素材にしてやればいいだけだ」
そんな、紅音を見たからか、アドルフがそう言った。
「・・・アドルフさん」
「だから、そんなに不安そうな顔をするな」
「そ、そんなに、顔に出てました?」
「・・・・・なんとなくだ」
少し、ぶっきらぼうな言い方だけど、
「ラマーニーニの草原へ向かうぞ」
「あ、あのアドルフさん」
「なんだ」
「ありがとうございます」
「チチチチ(ありがとうございます)」
アドルフの気遣いに紅音は感謝を伝えた。
紅音の肩に乗っているシロも紅音に習って、アドルフへ頭を下げる。
「・・・・ああ」
アドルフは、短くそう答えた。
だけど、横髪の隙間から見えたアドルフさんの耳が少し赤くなっていた。
「うわぁ・・・ガラにも無く照れてんじゃじゃねぇよ。アドのおっさん」
そんなアドルフの姿を見ていたジオルがぼそりと呟いた。
「・・・・・・」
ゴン!!
「イテェ!!」
ジオルの呟きが耳に入ったのか、無言のアドルフからの拳骨がジオルの頭に入った。
「バカ猫」
「一言多いのよ。おバカ」
「あ、あはは・・・・」
それを見て呆れているジャミールとキャロライン。そして、思わず苦笑するしかなかった紅音だった。
皆で駅の改札口のような物を通ると、右手首に着けていたブレスレットの小さな石が一つ青くなった。
「浮島ステーションのゲートを通過するとブレスレットの石の色が変わるんだ」
「へぇー」
浮島ステーション。
なるほど、このブレスレットは通行許可証の他にも切符も担ってる訳か。
本当に駅みたいだ。
「この浮島ステーションからグランドギルドが管理している浮島へ渡る事が出来る。因みに、ギルドに無許可でグランドギルド管理の浮島やダンジョンへ踏み込むことはギルド条例違反で罰せられるから気をつけた方がいいぞ」
「は、はい」
アドルフの説明を聞きながら、浮島ステーションの中を歩いていくと、
「E-11、此処だな」
扉がない開放されている部屋に着いた。
中には、お城で見た転移魔法装置と同じような台が鎮座していた。
「此処からラマニーニの草原へのワープポイントへ行く」
「は、はい」
「行くぞ」
ビースターと紅音は転移魔法装置に乗り、再び光に包まれた。
光が収まるのと同時に、紅音の鼻腔に爽やかな若葉の香りを感じた。
目を開くと、目の前には、
「わあ~」
広大な草原が広がっていた。
小高い丘の上の転移魔法のワープポイントに立つビースターのメンバーと紅音。
暖かな陽射しが降り注ぐ緑の柔らかそうな草の絨毯に鮮やかな空色の空と白い雲。
青々しい深緑の葉を茂らせた木々。
その葉の隙間から、瑞々しい果実がたわわに実っている。
少し離れたところに森も見える。
そして、人工物の香りと騒音がしない、純粋な草木の香りに、紅音は本当に久しぶりに深く呼吸が出来た気がした。
空の上に飛ぶ島。遮る物が殆ど無い草原に風が吹くと、緩やかに紅音の頬を撫で、髪と服の裾を揺らした。
「気持ちいい・・・・」
元の世界では体験出来なかった、開放感と清々しさ、吹き抜ける爽風に、紅音は目を細める。
日常を忘れてしまいそう・・・・。
「ここら辺の魔獣はこの時間帯は出現しないから、襲われる確率は比較的に低いわね」
「だが、警戒は怠るな。素早い魔物や気配を消す魔獣もいるのだからな」
「ハイハーイ」
「ジオル、油断していると首から上無くなるぞ」
「シャレにならねぇよ!!ジャミール!!」
軽い口調だが、目の前で周囲を警戒するビースターのメンバーの会話に、
「・・・・・・・・・」
そうだった、此処異世界だった。
と、思わず遠い目をする紅音だった。
元々、こっち側が私にとって非日常だったわ・・・・。
「チチチチ?チチ(ご主人様、どうかされましたか?)」
「いや、大丈夫。ちょっと現実逃避してただけ」
シロが心配気に私を見上げる。
「そう言えば、アドルフさん達のクエストってどう言うクエストですか?」
「ああ、『ワーフォル』を探すクエストだ」
「ワーフォル?」
初めて聞く単語に首を傾げる紅音。
「森の賢者と云われる魔獣で知能が高く、優れた魔力を持つ魔獣だ」
「魔獣・・・」
その言葉に私の不安が募る。
いくらビースターのメンバーが側に居てくれるとは言え、怖い魔獣や強い魔獣に遭遇すれば、自分は足手纏いの何者でもない事は、紅音自身が1番自覚している。
「大丈夫よ。ワーフォルは知能が高いから、無闇に人間は襲わない魔獣よ」
「だが、一度でも敵とワーフォルに認識されれば、鋭い爪と牙、そして巨大な角で音も無く背後から、一撃!!って事も有り得なくない」
「っ・・・・」
アドルフの言葉に紅音の脳内で熊や虎、狼、ライオンの肉食大型獣の姿をした魔獣のイメージが浮かんでくる。
「そんなに、危険な魔獣なんですか?」
「危険性は他魔物に比べれば低い方だが、何せ、奴は森の賢者、自身の気配を消す事が出来る。接近に気が付かずに背後を取られるパターンが多い。
その為、ワーフォル関連のクエストでは複数人のパーティーを組む事が推奨されている」
「なるほど・・・」
「と言うか、1人2人でワーフォルを探そうにも見つけるのは困難だから、殆ど人海戦術なんだけどね」
そう言いながら、ジャミールさんが持参している鞄から地図や何か色々な資料を取り出した。
「それは?」
「前回ワーフォルの拠点や目撃地を調査した調査資料さ。ワーフォルはここから見えている森に生息したているのは分かっているが、目撃情報が少なくてな」
その場に大きな地図、地形の形からしてこの浮島の地図らしい。
森を中心にバツ印が5箇所付けられている。
「出来れば、今年生まれたワーフォルの子供の生存数を調査したいんだが」
「とりあえず、今日はこのラマニーニーの草原と森の周辺、明日と明後日は森を散策するとして、ルートはどうするかだ」
「今日は一日中快晴だから、少し長めに散策しても問題はないでしょう?」
「素材集めは?」
「それは、各々で採取出来ればいい」
「了解」
な、なんだか、どんどんと話が進んでいく・・・。
置いてけぼり感が・・・・。
「あ、そうだ」
その時、紅音がある物を思い出す。
「アドルフさん、ワーフォルの絵はありますか?」
「ん、ああ、簡易的なものなら記してあるが」
「見せてもらってもいいですか?」
「ああ、これだ」
ジャミールさんから手渡された一枚の資料。
その資料には、熊のような体格に虎のような模様。そして、牡鹿のような角を持つ魔獣が描かれていた。
直立に立っている絵と四足歩行で歩く絵の二種類の絵があり、簡易的だが、特徴をよく捉えている絵だった。
「どうするの?」
「私、スキルが鑑定なんです。もしかしたらお役に立てると思って」
「へー、アカネさん、鑑定スキル持ちだったんですね」
「うん。早速、スキル『鑑定眼』」
鑑定眼のメガネをかけて、ワーフォルの絵を見る。
【ワーフォル 大型幻魔獣。
牡鹿の角を持ち、鋭い爪と牙、硬い縞模様の体毛に覆われている。
森の賢者と称されるほど高い知能と強い魔力を持つ。
体毛の模様で周囲の樹々と同化する事が出来る。
角、爪、牙は素材として、毛皮は保温性と魔力、見た目の美しいさから高値で取引される】
「・・・・・・・・」
メガネのレンズにディスプレイ風な説明文と白地に深い緑色の縞模様、グリズリーに似た風貌、そして、鋭い枝分かれした牡鹿のような角を持つ魔獣の映像が出て来た。
な、なんだかRPGの中ボス級の魔獣の風格なんですけど・・・・。
「こ、コレが、ワーフォル?・・・・」
「アカネさん?どうかしたの?」
鑑定眼の映像を見て固まる紅音にジオルが声をかける。
「あ、いや、予想以上に凶暴そうな魔獣だったから・・・・」
「え、分かるんですか?」
「う、うん」
「へー、見して、見して!!」
紅音のメガネの鑑定眼に興味を持ったのジオルが紅音に近づく。
隣りに寄り添い、顔を近づけ、メガネを覗こうとするジオルの栗色のフワフワな髪が紅音の頬をくすぐる。
「ぁ、えっ、あ、待って、待って」
急なことに、あたふたしながらも、ジオルを制する紅音。
若い子の勢いの良さに内心タジタジになってしまった。
「こ、コレ見せられないのかな?」
「チチチ、チチチチチ、チチ、チチチチ、チチ『ご主人、共有閲覧、【シェア】をお使い頂ければ、皆様も鑑定眼の結果を見る事ができます』」
「え?そうなの?」
「チチ『はい』」
右肩に乗っているシロが助言をしてくれた。
「どうするの?」
「チチチチチチ、チチ、チチチチ『右手で今映し出ている映像を束ねるイメージで掴んで下さい』」
「え?こう?」
シロの言われた通りに、右手で目の前の映像を束ねるイメージで掴むと、メガネに映し出されていたワーフォルの情報が手の中に収まっていった。
「ッ、」
「チチチチ、チチ『そのまま掴んだモノを前に放つ様に手を開いて下さい』」
「う、うん」
シロの言われた通りに、掴んだ手を前に放つと、紅音とジオルの目の前に大きな半透明のディスプレイが現れ、ワーフォルの情報が現れた。
「わ、」
「うわあ!?」
紅音は小さく驚いたが、突然目の前に現れた大きめのディスプレイにジオルが驚いて声を上げた。
「どうした!?」
驚いたジオルの声を聞いて、アドルフ達が慌てて振り向いた。
「って、なに、それ?」
「もしかして、アカネのスキルなのか?」
「は、はい・・・」
「ほぉ・・・」
キャロライン達が、紅音の周りに集まって来た。
アドルフが紅音とジオルの前に現れたディスプレイを興味深く見る。
「すごいな・・・。簡易的な絵ではなく、ここまで詳細な姿が見れるとは・・・」
「アカネの鑑定スキルって今レベルいくらなんだ?」
「えっと鑑定スキルのレベルは、確か23、」
「チチチチ、チチ『只今のご主人様の鑑定スキルは24でございます』」
「24!!24でした」
シロが訂正してくれて慌てて言い直す。
「2、24!?鑑定スキルで??」
キャロラインがアカネの返答に驚く。
「鑑定なんて、レベル15もあれば上級者だと言われているのに、24って・・・」
「そ、そんなにですか?」
「鑑定スキルはレベル10で大体のことは事足りからな」
驚くキャロラインに対してアドルフは冷静に答える。
「鑑定のスキル自体が悪いとは言わないが、戦闘向けではないし、薬草や素材の知識があれば、わざわざ鑑定スキルを発動させる事も無い。
それに、ある程度の調べ物が出来る魔法道具も市場に出回っているから、あまり重要が高く無いスキルなんだ」
「え、でも、オーディアンさんの鑑定スキルはレベルが88だって言っていましたけど?」
確かに、鑑定スキルは比較的に良くあるスキルだと言われていたけど。
「彼奴は別格だ。アイツの鑑定スキルは100年先を見通すと言われている化け物レベルだぞ」
「そ、そうなんですか?」
オーディアンさん、凄いな・・・。
と、その時、
「おい!!アドルフ!!」
「、!?」
ジャミールが突然声を荒げた。
「ッ!!どうした!?」
突然のジャミールさんの大声に私とアドルフさんが驚いて振り向く。
「この絵、触ると動くぞ!?」
「何!?」
ジャミールさんが出て来たディスプレイを触ると四足歩行のワーフォルの絵がジャミールさんの手の動きと合わせて左右に移動する。
また、指を広げる様に動かすとワーフォルの絵が拡大して、狭める様にすると縮小した。
「やばい!!なにこれ、面白い!!」
ジオルくんに至っては、直立に立つワーフォルの絵を右から左へスライドする様に動かすと、絵がその場で回り、そのまま高速スピンする。
「いや、遊ばないでよ・・・」
猫みたいにディスプレイで遊ぶジオルに思わず紅音は呆れた。
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