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仕事と仕事

 突然のジャミールの登場に、目を丸くした紅音。


「あら、ジャミール」


 セレブ美人はジャミールの姿を見て、不思議そうな顔をしていた。


「イザベラ」

「朝が弱い貴方が、朝からギルドに居るなんて珍しいわね」

「お前は、朝からナチュラルに誘拐紛いな事をするな」


 そう言いながら、ジャミールさんはさりげなく私を背に庇ってくれた。


「誘拐だなんて、失礼ね」


 心外だという様に、形のいい細い眉を顰めるセレブ美人さん。


「あ、あのー」

「アカネ、大丈夫か?」

「あ、はい、ちょっと驚きましたけど」


 ジャミールさんは、視線だけこちらに向け、私を気にかけてくれた。

 私は、そんなジャミールさんを見上げた。


「貴女、アカネって言うの?」

「ぅ、・・・は、はい」


 ブラウン色の瞳が私を見る。


「・・・・・」

「・・・・・」


 何故か、ジャミールさん越しに無言で見つめ合う私達。

 ジャミールさんは、何も言わずに私を背に庇ってくれてた。


 ジーーー・・・・。


「・・・・・」

「・・・・・」


 ガシ!


「!?」

「ご飯奢ってあげるから、ちょっと来なさい」

「うぉ!?」


 再び、何故か突然、セレブ美人に腕を捕まれ、引っ張られようのする。


「だから、その連れ去り方やめろ」


 だが、今度はジャミールがすぐに間髪入れずに止めに入ってくれた。


「ごめん、つい・・・」

「お前、マジでギルド出禁になるぞ」

「それだけはイヤ」


 呆れる様に忠告するジャミールさんと殆ど無の表情を変えていないセレブ美人。

 どうやら、ジャミールさんとは顔見知りらしい。


「ジャミール」

「!、アドルフか」

「なーに?イザベラじゃない」

「げ!!イザベラ!?」


 騒ぎを聞きつけたのか、アドルフさん達が歩み寄って来た。

 と言うか、気がつけば、周りに人集りができていた。


「あら、『ビースター』勢揃いね」

「?『ビースター』?」


 聞き覚えの無い名前に首を傾げる紅音。


「オレ達のパーティーの名前だ」


 そう言えば、聞いていなかったかも。


「イザベラ、何か問題でもあったの?」

「キャロル。いいえ、ちょっとそこの子に頼みたい事があって、同行を頼もうと、」

「俺にはナチュラルに手を引っ張って連れ去ろうとしている様に見えたがな」


 ジャミールさんが呆れながら、アドルフさんやキャロラインさんに説明してくれた。


「え?誘拐?」

「えええ!!アカネさん大丈夫ですか!?」

「う、うん。大丈夫だよ」


 何故かジオルくん慌てて駆け寄って来た。

 その表情は随分と焦っていた。


「イザベラには気をつけた方がいいですよ。あの人、物凄い行動派で、考えるよりも先に本能で行動する人なんです」

「行動派?」


 何か思い当たる事があるのか、ジオルの顔は引き攣っている。


「あの人、自分の『可愛い』って言うカテゴリーに入るモノはなんでも、自分の店に連れ込もうとするんです」

「??、可愛い?店?連れ込む?」


 なんだか、またややこしい事が・・・。


「イザベラは、【ラヴィリアス】って言う自分のブランドのお店の店長をしているの。

【ラヴィリアス】は、イザベラが一人で立ち上げたブランドで主に女性物向けの服や女性冒険者用の装備品を取り扱っている、マダム・イザベラとして、この王都でも結構有名なのよ」


 キャロラインさんが説明してくれた。


 なるほど、この世界のアパレル会社の女社長と言う訳か。

 だけど、


「それで、何故ゆえ私が連れて行かれそうになったのでしょう?」

「貴女が、可愛いから」

「へ?」


 紅音の疑問にセレブ美人こと、イザベラが答えた。


「見た目は素朴だけど、黒髪は靡くと艶やか。張りのある健康的な白い肌はハチミツを混ぜたかの様に淡く黄色みがかっている。柔らかな雰囲気はどこか小動物に見えるのに、どこか母性を感じる。今までに見てこなかったタイプね。

 少しだけ身長が有るけど、それはそれでヨシ。

 最近、変な噂が出回って、私のブランドのモデルになってくれる目ぼしい子が全然見つからなかったの。

 だから、私のお店の服のモデルになって欲しくて、とりあえず話しをしよう思ったの」


 表情を変えず、私を見つめながらほぼノンブレスで言い切るイザベラさんに、


「・・・・・っ、」


 なんだか背筋に寒いものを感じ、そっとジャミールさんの背に隠れる。

 何故だろ?美人の無表情に本能的な怖さを感じる。


「・・・・気持ちは分かるわよ、アカネ」


 私の気持ちを察したのか、キャロラインさんが同情する様に肩に手を置いた。


「アカネ。改めてお願いさせて貰うわ。私のブランドの服のモデルしてくれない?報酬は小金貨3枚でどう?」

「しょ、小金貨!?」


 小金貨1枚、一万円相当。つまり、報酬は三万円。


「勿論、モデル一回、小金貨3枚よ」

「っ、」


 モデル一回でモデル代三万。

 これは、かなり美味しい案件だ。

 更に、


「アカネのモデルの出来しだいでは、専属モデルの契約も検討するわ」


 イザベラの言葉に集まって来た人たちが騒つく。


「・・・・・・」


 一回の仕事で三万。更に専属モデル。


 こんなに好条件な仕事が見つかるとは、予想外だった。


 私は、そっとジャミールさんの後ろから前に出た。


「・・・・・・・」


 でも、


「すみません。今回は見送らせて下さい」


 私は、そうハッキリ告げ、イザベラさんに深く頭を下げた。


 周りがまた騒ついた。


「・・・・・理由を聞いていい?」


 イザベラさんは落ち着いた様子で聞いてきた。


「私は、今日このアツモリに来たばかりの新参者です。ですので、先ずはギルドの仕事をしたいと思っています。

 イザベラさんのモデルのお仕事はサブギルドメンバー用のクエストには見受けられませんでしたので。今回は辞退させて頂きます」

「正式に依頼をしたら、受けてくれるの?」

「そうですね。その時は、ちゃんと依頼内容を確認した上で、検討させてもらいます」

「随分としっかりしているわね」

「私は仕事を貰う立場なので、出来るだけ慎重に考えた方が、双方に有意義に働けると思うので」

「双方に?」

「はい。恥ずかしながら、私はイザベラさんのブランドをよく知りません。

 もし、モデルのお仕事を受けるのなら、【ラヴィリアス】の事を知り、特色などを理解した上でちゃんとした仕事をしたいんです」


 私がそう言うと、イザベラさんは驚いた様に目を少し見開いた。

 ほぼ無表情だったイザベラさんの表情が少し変化した瞬間だった。


「アカネって、意外にしっかりしているのね」

「恐縮です」


 感心した様に呟くイザベラさんに私は軽く頭を下げる。


 と言うのは、建前で、


(この人なんか、迂闊に肯定の返事をしたらいけない気がする)


 内心、紅音は冷や汗を流していた。


 確かに、モデルの仕事はおいしい。

 お給料も高い。

 だけど、上手い話には裏があると疑ってしまう自分がいる。


 それに、イザベラさんって、前の職場の取引をしていた社長さんに雰囲気が似ている気がする。


 表情を変えず、淡々とした口調なのに勢いと圧が凄かった。

 前の職場の営業部の部長が典型的な事なかれ主義のイエスマンで、相手の話になんでも肯定していたら、何故か数百万円の損失が発生してしまった事があった。

 

 あの時は、なんとか他の部署も総出で被害を最小限に抑える事が出来たが、一カ月の連日連夜の残業は本当に地獄だった。


 因みに、原因の部長はいつの間にか会社からいなくなっていた。


 あの時、深夜近くまで続く後始末の残業に、いくら目上の相手でも何もかもを肯定する事は、時に自分や周りの首が締まると言う事を身をもって知った。


 思う事が有ればちゃんと言葉にしないと、後でとんでもない事になる、と。


「今回は、コチラのクエストを受けさせて貰うつもりです」

「そう、残念だわ・・・」


 アカネは手に持っていたクエストの紙を見せると、イザベラは少し残念そうに眉を下げる。


「そうだよ!アカネさんは今日、俺達ビースターとクエストに行くんだ!!」


 そう言いながら、ジオルが紅音の前に立つ。


「え?、えぇ?」


 突然のジオルの発言に驚く紅音。


「さっき、ジオルがラマーニーニ草原と森の中間エリアのクエストを持って来たんだ」

「アカネと一緒にラマニーニー草原へ行くんだって、ジオル聞かなくって」

「ジオルくんが・・・・」


 キャロラインの言葉に紅音がジオルを見ると、照れくさそうに笑うジオル。


「だって、アカネさん初めてのクエストに一人じゃ心細いと思って、それに、俺達まだ今日のクエスト決めていなかったから、丁度いいと思ったんだ」

「まあ、これと言って予定も入っていなかったからな」

「アカネが大丈夫なら、な」

「み、皆さん・・・ありがとうございます」


 ビースターのメンバーの気遣いに温かい気持ちになり、思わず涙が出そうになる。


「・・・どうやら、先約があったみたいね」


 そんな、ビースターの人達と私を見て、少し残念そうにイザベラさんは小さく溜め息を吐いた。


「すみません」

「いいえ、いいの。私も貴女の事情を考えずに連れて行こうとしてごめんなさい」

「いいえ、大丈夫です」

「そう、」

「・・・・・・」


 その時、フワリと微笑むイザベラに、思わず惚けて見惚れてしまった。

 イザベラさん、笑うと、風が吹き抜けるようなお美しさ。


「イ、イザベラが笑った!?」

「明日は嵐だな」

「いや、雷雨の槍が降る」


 なんだか、周りが騒がしい。


「もう、失礼な奴ね」


 また、無表情に戻ったイザベラが不機嫌そうに呟く。


「アカネ」

「は、はい」

「また、今度正式に依頼を持ってくるわ。是非受けてくれたら嬉しいわ」

「その時の、依頼内容次第で検討させて頂きます」

「もう、真面目ね」


 紅音の言葉に、イザベラはまた、ふと、目元を緩めた。


 その時、紅音の袖がクイクイと控えめに引かれた。


「?」

「アカネさん、そろそろクエスト出しに行こうよ」


 紅音の後ろでソワソワとしていたジオルが、控えめに伺ってくる。


「うん、そうだね。それでは、失礼します」

「ええ、今度は色良い返事を期待しているわ」

「はい」


 私は、イザベラに頭を下げて、手に持っていたクエストを受付に持って行った。


 騒ぎが収まったからか、人集りも散って行く中、イザベラは、紅音の背中を見送っていた。


「~~、~~~」


 その時、小さな囁きがイザベラの耳に届く。


「ええ、いい子だったのに残念よ」


 イザベラは小さな囁きに答える様に独り言を呟く。


 その事に、周りの人達は気づいていない。


「でも・・・・アカネ、ね」


 イザベラの視線が、紅音の後ろ姿、横顔、肩、背中、腰回り、足へと、流れる様に眺める。

 そして、イザベラは形がいい、自身の唇の端をペロリと小さな舌舐めずりした。


「・・・・美味しそうな子」


 その時の目は、ウットリと恍惚し、そして、獲物を狙う様な目をしていた。





 その時、


 ゾクリ!!


「?!?!?!」


 突然背筋に冷たい悪寒が走り、思わず周囲を見渡してしまった紅音だった。

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