グランドギルド『アツモリ』
ギルドへ向かう為に、一旦部屋へ戻って来た紅音。
まあ、ギルドには行きたかったし、場所も知らなかったから、丁度よかったかも。
そう自分に言い聞かせ、青い鈴がついた鍵、亜空間プライベートルームの鍵を取り出す。
「・・・・・よし、」
念の為に、部屋の前や周りに人がいない事を確認して、鈴を鳴らす。
リリン、リリン、リリリン
「シロ」
ポン!!
「おはようございます。お呼びでございましょうか?ご主人様」
白い薄い煙と共に現れた燕尾服の上着を着たリス、シロが紅音に恭しく頭を下げる。
「おはよう、シロ。実は、この後ギルドに行く事になって、シロも一緒に行く?」
「はい。お供いたします」
紅音の言葉にシロは大きく頷く。
「あ、でも、シロってそのまま外に出てて大丈夫なの?」
「はい。私は、ご主人様の従魔獣、テイムモンスターとなりますので、この世界で私を連れて出歩くのは問題は無いかと」
一瞬、紅音の脳内でシロを肩に乗せて街を歩く自分に昔テレビで見たアニメのワンシーンが頭に浮かんだ。
「ねぇ、シロが喋っても大丈夫?」
「そうですね。言葉を扱う魔獣は存在しますが、私めのように流暢に会話する魔獣は物珍しいかも知れませんので、そこは自重させてもらいます」
「あ、やっぱり、珍しいんだね」
シロがあまりにもペラペラと流暢に会話が出来るから、この世界の動物は喋れるのかと思ってしまっていた。
「あ、そうでした、ご主人様コチラを」
「え?スマホ?」
シロが後ろから私のスマホを取り出した。
「はい。失礼ながら、御連絡が入っていたので、保管庫から持ち出させていただきました」
「連絡、って!」
一瞬、なんでこの異世界で連絡と思ったが、すぐにその連絡先を思い出し、慌ててシロからスマホを受け取ると、案の定、
『アカネさん、おはようございます!
ルカ』
『おはよう、アカネちゃん。よく眠れた?
ロディ』
『お嬢ちゃん!!おはよーさん!!
ドルーネ』
『よく眠れた?
アディーダ』
『眠れたか?
レニックス』
『おはよう
パルアドルフ』
『やぁ、おはよう。みんなからの朝のメッセージ届いてるかい?
レイガン』
「わわわ、皆さまからの朝の手紙が来ていた!!」
スマホを見ると、ルカ様達から手紙がスマホに届いていた。
時間を見ると、手紙が届いたのはつい10分前ほどだが、私は慌てて、メッセージを送り返した。
「既読スルーはあんまり印象良く無いもんね」
神様の皆さま、昨日あげたミニレターセット、思っていた以上に使ってくれている事にちょっと驚いた。
「シロも教えてくれて、ありがとう」
「いいえ、ご主人様」
「と言うか、シロは亜空間プライベートルームには入れるんだね」
「私めは案内人ですので、亜空間プライベートルームの行き来は自由なのです」
だったら、昨日、着替えのパジャマ持って来て貰えばよかったな。
ちょっと後悔しながら、紅音は出かける準備をする。
昨日、リュックに入れたのはハンカチ、ウェットティッシュ。メモ帳とボールペン。
財布、通行許可証のカードと証明証のペンダント。
更に、念の為の護身用に防災サバイバルリュックからサバイバルナイフにライター。保存水を一本。
「うーん・・・・・」
リュックの中身を確認しながら紅音は少し考え込む。
そして、
「シロ」
「はい、ご主人様」
「保管庫から、昨日通販で買って保管庫へ入れたお菓子とナッツ類を少し持って来れる?あと、このスマホを保管庫に戻して来てくれる?」
「お任せを」
そう言って、シロはスマホを抱えて何も無い空間に出来た小さな白い穴に飛び込んだ。
白い穴は、中まで白く、シロが入れるくらいの大きさでだった。
しばらくすると、シロが穴から戻って来て、背中には小さな袋を背負っていた。
「ご主人様、御所望の品はこちらで宜しいでしょうか?」
シロが背負っていた袋から取り出したのは小袋タイプのスナック菓子とグミと飴。無塩のミックスナッツだった。
「あまり、大きいお菓子は嵩張ると思い、小さなお菓子を選ばせていただきました」
「本当に、シロちゃんって優秀すぎるよ」
正に痒い所に手が届く、優秀すぎる小さな執事。
シロからお菓子とナッツを受け取り、リュックに詰める。
「ご主人様、今日はギルドへ向かられるのに、何故お菓子を?」
シロが不思議そうに首を傾げる。
「念の為の食料にね。この王都のギルドには魔力が少なくても加入出来るサブギルドメンバーと言うものが有るのをさっき食堂で聞いてね。もし、サブギルドメンバーになれたら、仕事も一度体験しとこうと思ってね」
「なるほど」
「お金はあるけど、無駄遣いは出来ないからね」
財布と通行許可証のカードと証明証のペンダント、そして、亜空間プライベートルームの鍵をリュックの内ポケットに仕舞いチャックを閉める。
黒のロングカーディガンの前のボタンを全て留め、付属の布のベルトを腰に巻き、藍色のタオルをターバンの様に頭に巻いた。
「準備はこれくらいでいいかな」
「はい、バッチリです」
私はリュックを背負い、床に立っているシロに手を伸ばした。
「シロ、おいで」
「はい、失礼します」
シロは私の伸ばした手と腕伝い、右肩へと登った。
重さは感じるけど、思っていたよりも重く無くてちょっと安心した。
「よし、行こう」
そう言って、紅音はシロと共に部屋を出た。
宿屋の玄関へと向かうと、既にアドルフさん達が集まっていた。
「遅れてしまってすみません」
「あ!アカネさん!!」
待たせてしまったと思い、急ぎ駆け足で駆け寄ると、ジオルが笑顔になる。
「すみません」
「いいのよ。私達もさっき部屋出て来たところだからって、アレ?」
「アカネ、それは?」
「え?リス?」
四人の視線が私の肩に乗っているシロに集まる。
「テイムモンスターか?」
「はい。シロと言います」
「チチチ」
アドルフさんが物珍しそうに観察すると、肩に乗っているシロが小さくリスらしく鳴いてお辞儀をする。
「あら、お利口さんね」
「ああ、どこぞのドラ猫よりも礼儀正しいな」
「誰の事だよ!?ダレの!!」
「うるさいぞ、ドラ猫」
「ドラ猫いうな!!」
また、食堂で見た漫才のような会話が始まった。
「チチチチ・・・・(ご主人様)」
「ッ!?」
耳元で、シロの鳴き声が、人の言葉に聞こえた事にビクリと肩が揺れる。
「チチチ、チチチチ、チチ(私の声は、契約者のご主人様にしか聞こえないように致しましたので、ご安心を)」
「そう、なんだ」
「チチチチ(ご主人様、此方の方は?)」
「食堂で知り合ったパーティーの皆さんだよ。ギルドの事とか最近の出来事とか色々教えてくれた人達だよ」
「チチ、チチチチ(左様でございますか)」
小声で、シロと話していると、
「なーに?シロちゃんと内緒話?」
「キャロラインさん。はい。シロ、この人はキャロラインさんだよ」
「チチ」
「あら、可愛い」
ペコリとお辞儀をするシロを見て、キャロラインさんのウサ耳がピンの立つ。
「でも、随分と小さいテイムモンスターですね」
「小さくても、とっても有能な私の相棒だよ。気が利いて、働き者なの。ね、」
「チチ、チチチチ(勿体なきお言葉です)」
「いや、相棒と言うよりも、どっちかと言えば、執事のように見えるぞ?」
ジオルくんとジャミールさんがシロを観察する。
「やっぱり、アカネって貴族の、」
「違いますから」
ジャミールさんの言おうとした事を遮って私は否定した。
「おい、そろそろ、ギルドへ向かうぞ」
「あ、はい。お願いします」
「チチチチ(お願いします)」
アドルフさん達に頭を下げる私に習い、シロも頭を下げた。
「よし、行こう」
「はい」
宿屋を出て、ルーダの街を歩く、アカネ達。
昨日まで街のお祭り【バンケット】が開催されていたけど、まだまだ人や出店も多く活気があり賑やかだ。
行き交う人の中で、老若男女、人間もいれば、キャロラインさん達みたいなケモ耳をした獣人や顔が動物や爬虫類の面影がある人、角や牙を持つ人。
長身で大柄な人も入れば、子供みたいに低身長な人。
中には、人間とも動物とも言い難い生き物が、屋台の鍋を振るっていた。
こうして見ると、この王都には色んな人種が居る。
色々と目移りしそうになってしまう。
「アカネさん?どうかした?」
「あ、うんん、なんでも無いよ」
「まだ、昨日の祭りの屋台とかは残っているから、ギルドの用事が終われば、見て回るといいさ」
「そうね。祭り終わりでも意外に掘り出し物とか残っているし」
「はい、是非行ってみたいです」
異世界の掘り出し物。ちょっと気になる。
そう思いながら、ジオルくん達と話していると、
「おい、着いたぞ」
アドルフさんに声をかけられて、前を向くと、
「お、大っきい・・・・・」
目の前に、立派な門を構えた、巨大な建築物が建っていた。
西洋風の大きな教会のような佇まいで、周りの建物の10倍はありそう・・・。
そして、沢山の人がその建物から出入りをしている。
「ここが、この国のグランドギルド。
ギルド【アツモリ】だ」
「あつもり?」
なんだか、紅音の耳にスッと馴染むようなギルドの名前に、少し違和感を感じてしまった。
日本語に似た名前だからかな?
それとも、名前と建物の外観が合わないから?
分からない。
だけど、
「アカネさん、早く行きましょう!」
「うん」
ジオルに促され、紅音はグランドギルド【アツモリ】へと入っていった。
面白かったら、高評価とブックマークをお願いします




