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魔女狩り

「本当に、ウチの雄共が一度成らず二度も迷惑をかけて済まなかったわ」

「い、いいえ、大丈夫なので」


 長いウサギの耳をシナっと垂れ下げ、申し訳無さそうなキャロラインに紅音は小さく手を振り、答える。

 美人なバニーガールなキャロライン。

 その隣で頭を痛そうに摩るアドルフさん、ジオルくん。そして、


「先程は済まなかった。俺は、ジャミールだ」


 さっきまで私に巻き付いていた、ジャミールさん。


 アドルフさん達のパーティーメンバーの一人でキャロラインさんは蛇の獣人だと言っていたが、サラサラの紫色の長い髪に褐色の肌をしたアジアンビューティ。

 勝手なイメージだけど、ポールダンスがメチャクチャ上手そうな、細身のイケメンだった。


 このイケメンがさっきまで私の首に抱きついていたと思うと、今更ながら恥ずかしく感じ、照れてしまいそう。


「い、いえ、大丈夫なので、その・・・・大丈夫ですか?」


 だけど、私は照れや恥ずかしいと思うよりも目の前の3人がキャロラインさんから落とされた拳骨を受けた頭を今だに痛そうに摩る姿を見て、思わず心配になってしまう。

 ジオルくんに至っては3回目の拳骨だ。

 痛そ・・・。


「・・・・気にしなくていい」

「ウチのパーティーでは割とよくある事だから気にしないで欲しい」

「は、はぁ・・・」


 アドルフさんは固い表情だが、ジャミールさんは苦笑している。


「うううう、キャロルの馬鹿力めぇぇ」

「なんか言ったかい?坊や?」

「いえ、なんにも!!」


 キャロラインさんのひと睨みに、ジオルくんはビクリっと体を震わせ、屈み気味だった背筋をピシリと伸ばした。


 なんか、力関係に凄くデジャヴを感じる。


「で、アンタの名は?」


 場の空気を変えようと、アドルフさんが尋ねてきた。


「あははは・・・。自己紹介が遅れました。私は・・・・」


 その時、一瞬、私は実名を出す事を躊躇ってしまう。

 『小鳥遊 紅音』の名かお城で名乗った『竹中 紫』の名か、どちらの名前を名乗るべきか。


「・・・・・」


 だけど、私の答えはすぐに出た。


「紅音、私は、アカネと言います」


 大好きな両親から貰った自身の名前を名乗った。


「アカネ、か」

「アカネ、変わった名前だけと、いい名前ね」

「アカネさんだね!よろしく!アカネさん!!」

「よろしく」


 4人共、私の名前を受け入れてくれた。

 密かに、こっちの異世界で私の名前が適応するのか不安もあったが、大丈夫のようだった。


「で?、なんでこうなっているのか、聞いて大丈夫?」

「あ・・・・」


 苦笑するジャミールさん。

 そう言えば、ジャミールさんはこうなった経緯を知らないんだった。


「え?ジオルが貴女をナンパして迷惑かけてたんじゃないの?」

「なんで俺がナンパした事前提なんだよ」


 キャロラインの考察にジオルは不機嫌そうに唇を尖らせる。


「アカネの見た目がジオル好みのタイプだからな」


 ジャミールが納得したかのように呟き、私の方を見る。


「包容力があって、甘やかしてくれそうな、優しい年上のお姉様系女性」

「あーね」


 ジャミールの言葉にキャロラインも納得したように同意する。


「お姉様系、って・・・」


 ジオルくん、歳上好きなんだ・・・・。

 と言うか、私ってそう見えてるの?


「だぁぁ!!そんなんじゃないから!!!そんな、やましい気持ちとか一切無いから!!アカネさん信じて!!俺、そんな男じゃないから!!」


 何故か必死に否定しようとするジオルくん。


「あ、うん。私は人の異性の好みに口を出すつもりは無いから」

「え?じゃあ、俺に脈アリって捉えていいって事?」


 私の言葉に、ジオルくんはピクリと猫耳を立てる。


「へ?」

「アカネさんが良ければ、俺、いつでもお気軽にお付き合い出来ますよ?」


 ニッコリと甘い笑みを浮かべ、そう言って、テーブル越しに私の手を握って来たジオルくん。


「え、えっと・・・・」


 歳下の男の子のいきなりの口説き言葉に困惑する紅音。


「やましさ満点じゃねぇか!このアホ!」

「ぐえ!!」


 そんなジオルの襟口をアドルフが引っ張りジオルの首が締まった。


「あ、あははは、ごめんねジオルくん。私今旅の途中だから、そう言う関係を待つのは控えてるの。だから、ごめんね?」


 まるで本物の猫のようにぶら下がるジオルに苦笑いする紅音。

 だけど、これは本音だ。

 前の元彼の事もあるし、現在時点では誰かとお付き合いをするつもりは今のところ無い。


「ううう、そうですか・・・」


 しゅんと猫耳を垂れるジオル。


「でも、デートのお誘いならいつでも大歓迎ですからねアカネさん!」

「へぇ・・・、来るもの拒まず、去るもの追わずのジオルがここ迄懐くのは珍しいわね」


 残念そうに笑うジオルにキャロラインが珍しそうに呟いた。


「で、ジオルがアカネにちょっかいを出して、アドルフがそれを咎めて、俺が来て、キャロルに鉄拳をくらった。でいいのかな?」

「もう、それでいいだろう。これ以上話をややこしくするな」


 アドルフさんが疲れたように言った。

 もう色々諦めたようだった。


「ちょっかい、じゃなくて、ちょっとお話しようとしただけだよ」

「話って、あの話?」

「おい、アレは女性に話しても楽しい話では無いだろが」


 ジオルの言葉にキャロラインとアドルフの眉がひそむ。


「アレ?」

「あ、別の、別の話をするから大丈夫だよ」

「・・・・・」


 ジオルくんの気まずそうな顔。

 他のメンバーさんの反応。


 聞かれたらマズイ、と言うよりも、私が聞いたら不快にさせてしまうと言った雰囲気だった。

 確かに、あまり不快な気持ちや嫌な話は聞きたくは無い。

 だけど、他人との会話、特に噂話は良くも悪くも貴重な情報源。


 聞いてみる価値はあるかも・・・。


「ねえ、ジオルくん。その話、良かったら聞かせてもらえる?」

「は?」


 紅音の申し出にジオルは一瞬ポカンとした顔をする。


「え、でも、あまりアカネさんが楽しめる話じゃない、かも・・・・」


 自分で話を勧めておきながら、少し話すの渋るジオル。


「じゃあ、こうしよう」


 そんなジオルを見て紅音は持っていた財布から銀貨一枚を取り出し、テーブルの上に置いた。


「え?アカネさん?」

「ジオルくんのお話、銀貨一枚で買わせて」


 困惑したようなジオルくん。


「アカネ、いいの?」

「情報を買いたいなら、専門家に頼るべきだぞ?」

「でも、元々、私の御相伴で話す話題だったんでしょ?ジオルくんのお話、興味あるなぁ」


 そんな、ジオルくんに私は、ほんの少しだけ甘えるようにニッコリ笑いかける。


「んんッ・・・」


 何故か、ジオルくんに顔を背かれた。


「え?」

「あー、気にするな」

「うん。ジオルが懐いたのが分かった気がする」

「アカネ、やるわね」

「んん?」


 何のことやら?


「うーん、もし面白い話だったら銀貨もう一枚支払いするよ」

「ゥッ・・・」

「だめ?」

「ッ・・・・、わ、分かった。でも、少しでも嫌だと思ったら、遠慮なく言ってください」


 ジオルは折れたのか、私に向き直り、話し出した。


「アカネさん、『魔女狩り』って知ってます?」

「え、ま、魔女狩り?」


 てっきり、アットホームな世間話かちょっとタメになる噂話を予想していたけど、まさかのワードに紅音は目を見開く。


「あ、やっぱり、ちょっと引きました?」

「う、うんん、大丈夫」


 ちょっとバツの悪そうな顔をするジオルに紅音は平気なフリをする。


 だけど、私の知っている魔女狩りは、15~18世紀くらいのヨーロッパ辺りで起こった、魔女とされた被疑者が法的手続きを経ない私刑などの迫害されて過去に数万人の無実であるはずの大勢の人が非道に処刑された悍ましいものだった。

 

 まさか、魔法が無い元の世界の大昔の話ならともかく、こっちの世界では魔法も魔力もなんなら、神様だって実在するのに・・・。


「そ、そんな事が、今も実在するの?」

「今もって、アカネ、過去の魔女狩りの事も知っているの?」


 私の思わず零した呟きに、キャロラインのウサ耳がピクリと反応した。


「あ、・・・えっと、知人を通してその手の話題を聞いた事が・・・・・」

「まあ、有名な話だからな」


 咄嗟に誤魔化す紅音。

 だか、アドルフ達の言葉に前にも魔女狩りが起きた事が分かった。


「80年前にとある異国の国王が災い魔女が現れた世界にふれ回り、問答無用で魔女狩りと銘打って当時魔力や潜在魔力が高い、女性、特に乙女を拐い、自身の城に監禁した事件だ」

「まあ、実際は、国王の魔力が少なくて、高い魔力を持つ後継ぎを産ませる為に強制的にかき集められたと言うのが真実だったんだけどね」


 話しながら呆れるように首を竦める仕草をするジオル。


「つまり、魔女狩りとは名ばかりの大掛かりな花嫁探しだったって事?」

「まぁ、早い話そう言う事よね。女性としては迷惑極まりてない話だけどね」


 キャロラインさんの言葉に、私も密かに同意した。

 

 普通に生活をしていたのに、いきなり魔女だと言われて、有無を言わさず城へ連行されて、花嫁候補にされる。考えるだけでも、背筋に悪寒が走る。


 でも、物騒には違いないけど、私が知っている魔女狩りの歴史とは少し違うようだった。


「でも、実際、魔女狩りで攫われた女性は世間で公表された人数は約200人以上。ですが、監禁されていた城から救出されたのは30人弱。結果的に約170人以上の女性や少女が魔女狩りで今だに行方知れずになっているらしいです」

「・・・・・・・・」

「勿論、この事が公に周知された国王及び国王一族は王位を剥奪され、一族、配下、使用人全員一斉粛正されたそうです」

「おっふぅ・・・・」


 突然の歴史の闇に紅音は小さく息をこぼした。


「で、その事件は終息したと思われたんですが、どうやら、最近になって、また女性や少女が行方不明事件が増えているようなんです」

「え、」

「公には魔女狩りだとは公表されてはいないんですけど、魔力や潜在魔力が高い女性や少女が近隣の町や村から突然姿を消す事から、新たな魔女狩りが横行し始めたんじゃないかって、今王都では噂になっているんです」

「新たな魔女狩り・・・・」


 私の中で、ある一つの仮定が浮かんだが、この場では口にする事はしなかった。


「だから、最近、年頃の娘や幼い子は一人で出歩かないようにギルドから注意喚起まで出ているんだ」

「・・・・そうなんだね」


 異世界でも、物騒な事件は日常的に転がっていると言う事か。


 あまり直視したくない現在に、紅音は気を落ち込ませる。


「ですから、アカネさん」

「ん?はい?」


 ジオルに声をかけられ、紅音が顔を上げると、


「歳下で可愛くて頼り甲斐のあるチャーミングな護衛を雇用する気はありませんか?」

「はい?」


 何故かキメ顔のジオル。


「出来れば、公私混同で仲良くなりませんか?」

「え、えーっと・・・」


 真っ直ぐ私を見つめてくるジオルくんに、私は答えに困ってしまう。


「アカネ、鬱陶しかったら、殴っていいわよ?」

「ああ、リーダーの俺が許す」

「え、あ、あはは・・・・」


 最早、拳骨を入れるのも疲れたとばかりに呆れているキャロラインさんとアドルフさん。

 私は直ぐに答えが出ず、苦笑するしかなかった。


「・・・うん、ウチのネコがごめんね」

「い、いえ・・・・」


 そんな、光景を見ていたジャミールさんが、空笑いして私に謝罪をした。


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