新しい生活へ
飲み慣れた温かい緑茶。
不思議と気分が落ち着き、ふと、ちゃぶ台の上を見ると、ちゃぶ台の上に乗っていたはずのお菓子やお茶が片付けられていた。
「やっぱり、シロって有能だね」
「ご主人様が購入されたお茶を魔法で温めただけでございますが」
「気遣い上手ってコト」
クスクス笑う紅音は程良く温かいお茶を飲み干す。
その時、
ピコン!
「!!」
『亜空間プライベートルームで『通販』で買い物をしました。
亜空間プライベートルームのレベルが53上がりました』
目の前に半透明のディスプレイが出てきた。
「また、レベルが上がった」
前回コレを見てぶっ倒れたから、ちょっと身構えてしまう。
「今回は急激なレベルアップではないのでご安心ください」
ピコン!!
『亜空間プライベートルームで『通話』を成功しました。
亜空間プライベートルームのレベルが54上がりました。
保管庫が開放されました』
「??。保管庫?」
またなんか新しい何かが追加された。
「ご主人様、壁をご覧下さい」
「え?壁?」
シロに言われて、反射的に横の壁を見ると、真っ白な壁に四角い扉が現れた。
扉にはホワイトボードの様な画面が付いている。
「『保管庫』は大きさ、質量、数に関係なく物を収納する事が出ます。更に食品や温度管理を必要とする物も適正温度で保管する事が出来ます。
収納した物や収納した物の在庫はそのボードで確認出来ます」
「やだぁ、便利!!」
ずっと憧れていた大容量の最新の大型冷蔵庫が目の前に現れたような感動を感じる。
「じゃあ、この保管庫に買った物を入れて置けるね」
「はい」
「おお!」
よく考えたら、これから通販で買った物をどう保管するか考えなくちゃいけなかったけど、考える前に一気に解決した。
「いや、有能過ぎるでしょ、私のスキル」
自分に贈られたスキルに感動しながら早速、『通販』で買った防災サバイバルリュックから中身を出し用途に振り分ける事にした。
「防災用だけど、いる物を分けといた方がいいよね。とりあえず、防災グッズ、食料とサバイバル用品、衛生用品、寝具、その他と分けて、と」
保管庫の扉を開けると、中は広くて奥行きのある収納棚とロークインクローゼットの良いとこどりしたかのような部屋だった。物だけでは無く、服も大収納出来そうだ。
「ご主人様、念の為にご貴重品もこの保管庫へ入れた方が宜しいかと」
「あ、そうだよね、貴重品無くしたら本当に生きていける気がしない」
今の私、身寄り無し、戸籍無し、住所不定だもん。
「とりあえず、荷物整理して、明日に備えて早めに寝よ。ランスロット様がギルドを頼るといいって言ってくれたから、明日はギルドへ行ってみよう」
明日の予定を決めながら、持っていたリュックから必要な物と保管庫へ入れる物と仕分ける。
財布。スマホとタブレット。ワイヤレスイヤホンにモバイルバッテリーが二つ。
ハンカチにウエットティッシュ。
着替えの下着とパジャマ替わりの短パンとルームウェア。
貴重品が入ってたポーチ。
ドラックストアで買ったトラベル用の洗顔セットにミニサイズのボディソープとシャンプー&トリートメントセット。
両親と写った写真が入った手帳型のミニアルバム。
読み掛けだった時代小説の本。
そして、ランスロット様から貰ったお金と、通行許可証の銀色のカード。そして証明証であるドッグタグ風のペンダント。
とりあえず、リュックにはハンカチ、ウェットティッシュ。メモ帳とボールペン。
財布から元の世界の現金とカードを抜き、通行許可証のカードと証明証のペンダント。そして、この世界のお金、小金貨10枚を財布に入れる。
更に、護身用に防災サバイバルリュックからサバイバルナイフにライター。保存水を一本入れる。
元の世界で飲み物が気軽に買えるのは日本の自動販売機の設置数が世界でトップクラスだったからだ。
だけど、この異世界で気軽に買えるのかは分からない。
飲み物は入れていて損はないだろう。
スマホやタブレットは外では馴染みがなくて浮いてしまいそうだから、リュックには入れない。モバイルバッテリーも使わないから入れない。
貴重品が入ったポーチや、両親との写真が入ったミニアルバム、ドルーネ様から貰ったボックスも絶対に無くせないから保管庫へ。
必要性のありそうな物はリュックで持ち歩き、その他の持ち物は保管庫へ収納した。
「ふう、とりあえず、こんなものかな?」
「お疲れ様でございます」
「シロも手伝ってくれて、ありがとう」
小さい体でせっせと選別した荷物を保管庫へ運ぶシロの姿はとても癒された。
「ご主人様、そろそろお時間です」
「あ、もう?」
「はい。残り時間あと10分ほどです。次にこの亜空間プライベートルームへ入れるのは12時間後です」
「あー、やっぱり、しばらくはここには入れないのね」
「はい」
「よし、ちゃっちゃと確認終わらせよ」
「はい!」
私はリュックと保管庫の確認を終えて、リュックを持ち、
『亜空間プライベートルームを出ますか?
YES orNO 』
「YES」
シロと一緒に亜空間プライベートルームを出た。
「うぁ、暗」
宿屋の部屋に戻ると、部屋は薄暗くもう窓の外は夜の空だった。
「あ、月が・・・・」
窓に歩み寄り空を見上げると、暗闇に小さな宝石を散りばめたような星空。赤い三日月、青い満月、紫の上弦の月。3つの月が浮かんでいた。
「おお、ファンタジーっぽい」
改めて此処が異世界だと実感させられる。
「綺麗な月」
夜空に浮かぶ三つの月の美しさに、思わず見惚れる。
「ご主人様の世界では月はあの様では無いのですか?」
窓の淵を登り一緒に月を眺めていたシロが興味深そうに聞いてきた。
「うん。私の世界では月は一つだけだったよ。淡い黄色の月が一つ。
・・・・でも、たまに赤っぽくになっり、オレンジ色になったり、ピンクっぽい色だったり、時々色が変わってたよ」
「それは、少々興味深いですね」
「・・・・そうだね。それに、星もこっちの世界の方が多い気がする」
まるで天の川のように瞬き輝く星たち。
今まで、当たり前だと思っていた月や星がこの異世界で全く異なるモノだという事に、なんだか感動すら感じる。
「明日は、ギルドを訪ねて、今後の生活基盤を整えよう。とりあえず、生活できる家、が当面の目標かな」
「家でございますか?」
窓の外の月を眺めながらずっと思い描いていた幼い頃の夢を呟く。
「うん。そうだなぁ・・・・・出来たら、閑静な一戸建てで、バルコニーが広くて、庭が有る所がいいな。畑とか作って、野菜とか果物を育てたり、バルコニーでのんびりお昼寝したり、ランチをしたり、夜は庭で星を見ながらプチバーベキューとかしてみたい」
「それはそれは、楽しそうですね」
「シロも一緒にだよ」
「、私めも、ご一緒に宜しいのでしょうか?」
「嫌?」
紅音は月明かりに照らされるシロの小さな頭を撫でながら、シロに問いかける。
「・・・・いいえ、是非ご一緒させて頂きます」
紅音の問いに、シロは嬉しそうに目を細め、フワフワの尻尾をゆらりと揺らした。
「よし。じゃあ、明日の為に今日はもう寝ようっか」
「はい。ご主人様」
紅音が、就寝しようとベッドに歩み寄ると、
「あ、」
ふとある事を思い出した。
「??どうなさいましたか?」
「・・・・・着替え、持ってくるの忘れた」
パジャマの短パンとルームウェアは現在、亜空間プライベートルームの保管庫の中だ。
「ご主人様、次に亜空間プライベートルームに入れるのは12時間後でございます」
「えぇぇ・・・」
「今亜空間プライベートルームに入ると、ご主人様はミイラになります」
「マジかー」
シロの答えに私は思わずカラ笑いをした。
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