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加護と聖女

 金運の神様、ドルーネから元の世界の預金、曾祖叔父の遺産をこの異世界で使えるようになった紅音。


「あの、ありがとうございます。ドルーネ様。大切に使わせてもらいます」

「なはは、ええねん。ええねん。元々お嬢ちゃんの金やさかい」


 私は、ドルーネ様に頭を下げてお礼を述べる。

 そんな、私に眩しい笑顔で返すドルーネ様。


「やけど、せいぜい、無駄遣いせんよう気をつけなされや。調子に乗って、お金を散財して、所持金すっからかんになったら元も子もない有らへんから」

「はい。肝に銘じます」


 だが、それを見ていたある神様が、不服そうに声を上げる。


「・・・・狡いです」

「え?ルカ様」


 今この白い部屋の中で見た目1番幼いルカリス様が不満そうな顔をして頬を膨らませている。


 やっぱり、このお願いは図々しすぎたかも・・・・。


「あ、あの、ルカ様、」

「ドルーネ兄様だけ狡いです!!私も何か紅音さんのお役に立ちたいです!!」

「へ?」

「紅音さん!!他に何か欲しいモノは有りますか?」

「あ、だったら、私も紅音ちゃんに何かあげたいなぁ」

「え?え?」


 そう言いながら、ルカ様とロディ様がグイグイと迫って来る。


「え、あの、」


 困惑する私にグイグイ迫ってくる美女神二人にタジタジになる。


「おい、ルカ、ロディ。いい加減に、」

「あ、そうだ!」


 タジタジになっている私を見兼ねか、パルアドルフ様が止めに入ろうとした、その時、ロディ様が何か思い付いたようにパッと笑顔になる。


「モノがダメならぁ、私の加護を付与してあげる」

「ふえ?」

「ふふふ、えい!」


 そう言うと、ロディ様が私に近づいて来たと思ったら、


 チュ!


 右頬に柔らかくて温かな何かが触れる。

 右を見るとしてやったりと笑うロディ様。

 そして、私は、ロディ様にキスをされたんだとやっと思考が追いついた。


「へ?」

「うふふ、紅音ちゃんに『動物に好かれる』加護を授けまーす」

「へ?え!?」

「ロディ!?おま、何を!?」

「ロディ姉様狡いです!なら私も!!」

「あ、」


 チュ!


「私も、紅音さんに『ギフトしたスキルのレベルアップ2倍』の加護を付与します!!」


 私の左頬にキスをしたルカ様がやり遂げたと頬を染めてフン!!と、意気込んでいた。


「な、ルカ!」

「では、僕も」


 それを見ていたレイ様が面白そうに近づき、スルッと自然な動作で、私の右手を掬い取り、右手の甲に口付けをした。


「レ、レイの兄!?」

「わわわわわ!?!?」


 いきなり、美形な男女にキスをされて、キャパオーバーになる紅音。


「じゃあ、ついでにアタシもやるか」

「はぁ、仕方ないな」


 今度は当然のように左手の甲にアディーダ様がキスをし、レニックス様が髪の一房を指でまとめ、口付けをする。


 顔のすぐ間近に美人美少女イケメン。


 え?なに?このじょうきょう・・・・。


「・・・・・・・・」

「おーい。お嬢ちゃん?」

「・・・・・・・・」

「あかんわ。顔真っ赤になって固まっとるわ」

「・・・・・・・・はっ!」

「お!お嬢ちゃん戻って来た」

「・・・・・す、すみません、目の前の光景にキャパオーバーしてしまいました」


 彼氏はいたけど、こんなハーレムチックな状況に思考と心臓の耐性が追いつかない。

 顔が熱くて恥ずかしい・・・・。


「お前ら・・・・」


 アワアワと慌てる紅音を囲む兄妹にパルアドルフは頭を抱え深いため息を吐く。


「あはは!!ロディ達5人分の神の加護かぁー。お嬢ちゃんモテモテやねー!」


 それを見て可笑しそうに笑うドルーネ様。


「て言うか、パル兄やは加護与えんの?」

「5人分の神の加護を既に受けているんだぞ。ギフトは受け取っているが、一般市民の彼女に過度な神の加護は危険の元になるんだぞ」

「まあ、確かになぁー」

「き、危険の元?」


 なんだか、聞き捨てならない事を言われた。


「この世界でのスキルはその人間によって千差万別だ」

「私のスキルは『鑑定』と『亜空間プライベートルーム』ですね」

「ああ、でもな、たまにお嬢ちゃんみたいにワイら神から気に入られて加護を受ける人が居るんやけど、神の加護を受け取った人間のスキルは飛躍的に強力になるんや」

「強力に・・・・?」


 ゲームで言う経験値のレベルアップみたいな??


「ああ、加護は多ければ多い程力が強くなるし、新たなスキルを生み出す可能性がある。それこそ、ただの村人を突如英雄へと押し上げる程の力がな」

「え・・・」

「まぁ、俺ら神様やからね」


 頭を抱えるパルアドルフ様とカラカラと笑うドルーネ様。

 そんな二人を見て、困惑する私。


「え、それって、えっと、もしかして、今、私は聖女並みにすごい力を手に入れた、っと考えるべきですか?」


 面倒ごとの気配をに私はおずおずと二人に尋ねる。


「まあ、そう言う事やな」


 ドルーネ様がちゃぶ台の上のお茶を飲みながら答えた。


「ちゅうーか、ぶちゃけ、この世界に居る聖女ちゃんよりも今現在、神から気に入られて加護付与されてるお嬢ちゃんの方が、かなり希少な存在ではなるなぁ」

「まあ、聖女と名乗っている人間は割と居ますからね」


 ドルーネ様の考えにレイ様も便乗する。


「え、聖女って、そんなに居るものなんですか?」


 聖女って物凄く神聖なイメージなんだけど・・・・。


「この世界では、聖女と言うものは、ある一定の魔力と浄化能力、聖魔法に優れた女性を指す役職のようなモノです」

「役職?」

「はい。聖女は生まれながらに潜在魔力が高い者、教会で幼少期より師の元で修行を積み聖女を目指す者。そして、稀に異世界から召喚され聖女の力を手に入れた者。

 条件はそれぞれですが、規定を満たしていれば誰でもなれる役職なんです」

「へ、へー・・・」

「そして、聖女の役職に就いている者は相応に狙われやすいんだ」

「へ?」


 な、なんか、また、パルアドルフ様から不吉な言葉が聞こえた。


「まあ、魔力が人並み以上に高く浄化、聖魔法を持った女性は珍しいですので、手元に置いて置きたい輩は一定多数いるのですよ」

「聖女の能力目的、権利者の地位の保身目的、最悪の場合愛玩用の奴隷目的。色々ある。だからこそ、聖女は国や地域で重宝されているんだ」


 神様達の話に、ふと、城に残った柚莉愛の事が頭に浮かぶ。

 彼女はスキルで聖魔法を受け取っていた。

 柚莉愛も聖女を目指すとしても、彼女は第一王子の花嫁候補であり、王国の庇護され保護されている。

 宰相のランスロットさんも彼女に被害を加えるようには見えなかった。


 第一王子の婚約者だし、かなり好待遇で迎えられていたし、色々と図太そうだったから・・・・。

 うん、多分、彼女は大丈夫、でしょう。多分。


「まあ、そんな聖女ちゃん達よりも神様に好かれて、更に加護を付与されたお嬢ちゃんの方が狙われる可能性は大やねぇ。

 そこら辺の聖女ちゃん達とは、格が違いすぎるねん」

「もし、紅音殿が神の加護を持っていると邪な輩に知られれば、この世界の知識も浅く、身寄りも無い。そんな紅音殿を言葉巧みに丸め込み、手中に納めるのは容易いだろうな」


 え、なんだか、話がだんだんと不穏な方向へ、向かっていく気が・・・。


「謝罪の為に私達が、紅音殿の前に神現しただけでも、大事。それなのに、」

「ぁ・・・」

「あはは、は・・・」


 何かを察したのか、ルカ様はビクリと体を震わせ、ロディ様が誤魔化すように小さく笑った。


「お前らは、お前らはぁぁ!!」


 いつの間にか、パルアドルフ様が怒りの表情で私に加護を与えた、ルカ様、ロディ様、レイ様、アディーダ様、レニックス様を仁王立ちで見下ろす。


「ごめんなさーーい!!!」


 怒られたご兄妹は正座、からの土下座でパルアドルフ様に謝罪をしていた。


 その姿は、正に、下の兄妹を叱る兄の姿。


「あはは!!オモロいやろ?俺、パル兄やのとこ陰でオカンと呼んどるんや」


 可笑しそうに笑うドルーネ様。


「ぁ・・・」

 

 そんなドルーネ様に影がかかる。


 その五秒後、ドルーネ様の脳天にパルアドルフ様の拳骨が綺麗に入った。

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