ドルーネ
いきなり背後に現れた金髪の美好青年。
短い時間だが、凡その予想は出来ている。
「えっと、この方も、レイ様達の御兄弟でしょうか?」
「ええ、彼はドルーネ。私達の兄弟の1人です」
「おう!ワイは創造神デミウルゴスの20男、金運の神ドルーネや。よろしゅう頼みまっさ!!」
「え、あ・・・・、た、小鳥遊 紅音です・・・・」
自己紹介をされて反射的に名前を名乗る。
ドルーネ様が20男という事は、19男であるパルアドルフ様のすぐ下の兄弟という事か。
黒髪に金色の眼のパルアドルフ様と金髪で黒の瞳のドルーネ様。
見た目は正反対的に見えるけど、顔立ちはお互いにどこか似ている気がする。
パルアドルフ様はハァと、ため息を吐く。
「・・・・・ドルーネ」
「よ!パル兄や。楽しそうやね」
「お前は、今回の件は関係ないだろうが。また問題に首を突っ込みにきて、父上に叱りをうける羽目になるぞ」
「えー、ええやん。ワイ、異世界の召喚者大好きやし、好きで首突っ込んでるんやから、自己責任や」
呆れ顔のパルアドルフ様となはは、と豪快に笑うドルーネ様。
生真面目そうなパルアドルフ様とは違い大分気さくと言うか、楽観的な神様らしい。
と言うか、
「なんで、関西弁?」
何故か、ドルーネ様が関西弁で喋っていた。
「なはは、すまん、すまん。500年前くらいに召喚された人間がこんな喋り方をしていてな。そいつ、関西という所で商売をしとうたらしくてな、ワイと随分と話と気が合ったんや。この喋り方もそん時に移ったんや」
ドルーネ様は浮いていた宙から床に足を着け、何故か私の隣に腰を下ろした。
「まぁ、でも、そいつは嫁さんと子供が待って居るから言うて、元の世界へ帰ってしもうたけどな」
そう言いながら、ドルーネ様の金色の眼が少しだけ悲しそうに伏せた。
「まぁ、その話は置いといて」
ドルーネ様は、両手でモノを持って端に移動させるジェスチャーをする。
「なんやら、金運の気配を感じて出て来たんやけど、よかったら、ソレ、見せてもらってええ?」
ドルーネ様はちょいちょい、とちゃぶ台の上に乗っている通帳を指差す。
「え?は、はい、どうぞ・・・」
「おおきに」
私の許可を得てドルーネ様は通帳を手に取り、ペラりと通帳を開く。
「うわ、ゼロがぎょうさんや」
金額が記帳されたページを見て何故かにやけるドルーネ様。
「・・・・・そして、とても綺麗な金や」
「え?」
「小さな澱みは有るんやけど、この金を稼いだ人物はただただ誠実に一生懸命に働いた。まるで、砂粒の石を長年にかけてずっと大事に大事に集めて磨いて大きな宝石にした。そんな風に思わせる金や」
「宝石?」
「ああ、この金の元の持ち主はよっぽど苦労をして、よっぽど誠実に生きて来たんやね・・・・」
その言葉を聞いて、弁護士さん、井ノ原さんが話した曾祖叔父様の過去の話を思い出す。
愛人の子供として生まれて、18歳で海外に渡り、それからずっと独身と貫いて働き続けて来た、と。
「・・・・・通帳見て分かるもの、なんですか?」
「伊達に金運の神を名乗ってへんからな。感じるモノが有るんや。誠実で一生懸命に努力して、目標を持って頑張って働いて得た金は、姿が見えんでも美しいモノやで」
そう言いながら、ドルーネ様はまるで慈しむ様に優しく微笑んだ。
「で、お嬢ちゃんは、この金をこの世界でも使えるように、したいんやったな?」
「は、はい。・・・・・出来れば、」
「ふむふむ。なるほど、なるほど・・・」
ドルーネ様はニヤリと意味深な笑みを浮かべ、持っていた通帳に手をかざす。
すると、通帳が淡い光に包まれた。
そして、消えた。
「・・・・・・は?はぁ!?」
ドルーネ様の手の中から消えた通帳に紅音は一瞬思考回路が停止した。
「け、消した?って言うか、消えた!?なんで消したの!?」
「あ、紅音さん、落ち着いてください」
「だ、だって、いくら、この世界で何も役に立たない通帳だったとしても、いきなり消すなんて!?」
いきなり、通帳を目の前で消された事に紅音は思わず取り乱してしまった。
ルカリスが慌てて紅音を落ち着かせようとしているが、今の紅音に気にかける余裕が無かった。
「と言うか、元の世界に戻った時、その通帳普通に使うんですけど!?」
「なはは!!ええツッコミやな」
「笑うな!!」
悪びれる事なく笑うドルーネ様に私は相手が神様だと言う事も忘れて声を上げる。
「ああ、すまん、すまん。ちょっと手ぇ加えよう、思うてな」
「え?」
取り乱した私を見てちょっと気不味そうに笑うドルーネ様の手にまた光が宿る。
そして、彼の手に陶器で出来た箱が現れた。
「ほい」
「え、」
手渡された箱を意味がわからないまま受け取ると、それは、白い陶器で出来たクローズタイプのジュエリーボックスの様に見えた。
シンプルだけど、抽斗付きで、さり気なく金と銀で植物の装飾が施され、アンティークだと思わせる程綺麗な箱だった。
「開けてみい?」
ドルーネ様にそう言われて、ボックスの一番上の蓋を開閉すると、蓋の裏面は鏡が、中には箱の一面にガラスの板が嵌め込まれていた。
すると、裏面の鏡に通帳に記載されている金額が映し出され、ガラス面には数字のパネルが現れた。
「うえ!?」
「なはは、ええ反応やな」
「こ、これって」
形も大きさも私が知らない物だけど、この感じ・・・。
「お嬢ちゃんの世界にあるATMってモンを真似て造ってみたんや」
「え、」
もしや、と思っていた事が当たり、思わず驚く。
「その通帳に記してある金額をそのボックスに転送される様にしたんや」
「そ、そんなこと出来るんですか?」
「ワイ、神様やから」
グッと親指を立てて無邪気な笑顔でドヤ顔するドルーネ様。
「と言っても、規制は付けさせて貰うさかい。
まず、『使えるのはこの白い部屋の中のみ』
外に出して使おうとしても、ただの箱になるだけやで。
『お金を出せるんは一日二回まで』
『取り出せる金額は一度に金貨30枚まで』
逆にこっちの世界で手に入れた金を入れておく事は何時でも出来る。
『こっちの世界で使った金額は元の世界に帰っても戻って来ない』
まぁ、こんなとこやね。試してみぃ?」
「は、はい、」
ドルーネ様に言われ、戸惑いながらもコンビニに有るようなATMの様に金額を入力し、お引き出しのパネルを選択する。
すると、下の抽斗が開き、中から二枚の金貨が出てきた。
鏡を確認すると、通帳の金額から金貨二枚分の金額、20万円が確かに減っていた。
「す、すごい・・・・」
駄目元で言ってみた願いがこんなに簡単に叶うと思っていなかった紅音は驚きを隠せなかった。
でも、これで、曾祖叔父様のお金を使う事ができる。
「ワイな、前々からこの世界とは違う異世界の文化や生活に興味が有り有りでな。召喚者に会うとその召喚者の文化や生活や、生きてきた世界の話を聞くんが大好きなんや」
「そのせいで、お前は召喚者に肩入れをし過ぎて、父上から厳重注意の叱りを受けただろうが」
「厳重注意だけで、絶対禁止や言われてへんもん」
「屁理屈を言うな」
笑顔のドルーネ様の話を聞いて、パルアドルフ様は呆れ顔になっている。
「ドルーネは、私達兄妹の中でも特に友好的で珍しいモノ好き、異世界人好きなんですよ。紅音」
「そう、なんです・・・ね」
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