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紅音のお願い

 チャブ台に広げたメモ帳に神様達に質問した事、教えてもらった事を書いていく。


「ふぅ・・・・・」


 最初は色々と予想外過ぎる事を話されて頭が追いつかず、混乱してしまいそうになったけど、やっぱり文目に起こすと整理がしやすい。


「纏まりましたか?」


 整理がついて一息ついたところで、ルカ様が声をかけて来た。


「はい、何とか」


 とりあえず、数十分前の情報が何も無い状態に比べたら随分と纏まった。


 異世界の事、自分のスキル。オーバーゲート。99の兄妹の神様達。

 過去にも私達以外に召喚された人達。異世界、ルディーメイヴィスの世界の時間と元の世界の時間の流れの違い。

 ルディーメイヴィスの世界の時間での10年は元の世界の時間では約1年に相当する。


 一緒にこの異世界へ巻き込まれた姫川柚莉愛。柚莉愛が勘違いをしている恋愛ゲームの世界と似ているが非なるモノの事。

 おそらく、元の世界へ戻れた召喚者の中にコチラの世界を題材にした話をなんらかの形で元の世界で伝わったと言う仮説。

 この異世界で50年過ごしたら減少していた魔素が貯まり、5年後の元の世界へ戻ると言う可能性。

 私の身体は元の世界の影響で異世界で50年過ごしても身体は5年分の成長しかしない。


 そして、過去1000年以内でコチラの異世界へ召喚された人間は今回を含めて9人。その内6人は神様達の手により元の世界へ生還しており、1人は異世界へ留まる事を選んだ。

 そして、今回の召喚者が私と柚莉愛だ。


 記憶をどう消すか改竄するかは、まだ分からないけど、異世界を題材にしたゲームが元の世界に存在するという事は少なくとも生還した人達の元の生活に支障は出ていないらしい。

 更に、他の召喚者は少なくとこの世界で数年、長くても10年過ごしたとしても、元の世界では数ヶ月、長くても一年後の世界へ帰還出来ている。


 120年前に召喚されたと言われた女子高生も実際に3年ほどこの世界に留まり、その後に元の世界へ帰還したとの事。


 単純計算で、120年÷10年で12年。つまり、今から12年前、私と同い年か1歳か2歳年上の女の子が異世界へ召喚されて、数ヶ月で戻って来られたと言う事になる。


 ・・・・・俄か知識だけど異世界召喚ってなんか、一生帰れないのが暗黙の了解だと思っていたけど。


「・・・・・なんだか、こうして纏めて見る限り、私と姫川柚莉愛さんがイレギュラーという事はよく分かります。

 本来召喚の儀で呼び出される召喚者は原則1人。だけど、今回は異例の2人同時の異世界召喚。

 そして、過去の召喚者とは違い、私と姫川柚莉愛さんは50年経たないと戻れない・・・・。

 今回のオーバー・ゲートの想定外の発動で減ってしまった魔素が原因で、元の世界に戻る為に必要な魔素が貯まるまでに50年と言う時間が必要。と、言う事でいいですか?」


 私が視線を上げると、気まずそうな顔をする神様達。


「ああ・・・」

「紅音さん、状況整理お上手ですね・・・」

「いやぁ、前に勤めていた職場で、ほぼ毎日常に上司と同僚との板挟み状態で、そんな状態で少しでも遅れると増え続ける仕事をしないといけなかったから、上手く立ち回らないとと、自然に・・・」

「おい、大丈夫か、目が死んでるぞ・・・」

「あ、すみません。ちょっと前の職場がなかなかのブラックだったモノで・・・・まぁ、仕事を辞めた後も色々と大変な目に合いましたけど・・・・」


 ブラック寄りのグレーだった前職場。

 側から見れば、良好な職場環境に見えるかもしれないが、古い考えを持ったモラハラな先輩と我の強い同僚の歪み合いがほぼ毎日繰り広げられていた。

 途中入社で中立の立場に居た私は、双方から互いの嫌味や同意の意見を求めらる板挟み状態。

 優柔不断で少しでも意にそぐわない事を言えば、嫌味やイビリの毎日だった。

 辞めたくても激務の割には給料が少なく、次の就職を探す時間が無く、気がつけばただただ嫌味やイビリをスルーしながら仕事をする毎日を送っていた。


 曾祖叔父様の遺産を相続した時の騒動で辞めることは出来たけど、あの職場を辞めて後悔も未練も何もわかなかった。


「紅音は、人間関係に相当苦労している様ですね・・・・」

「ありがとうございます。レイ様。そして、心を読まないで下さい」

「いや、レイガンの兄が心を読まなくても、貴女の紅音殿の顔を見れば大体察しが付くぞ」


 パルアドルフ様が心配そうな顔をしていた。

 どうやら私は相当参った顔をしていたらしい。

 ルカ様達も心配そうな顔をしている。


「もう、終わった事ですので、大丈夫です」


 紅音の微笑みに、兄妹は少しだけ安心した顔をする。


「でも、これで、全面的にそちら側に非が有ると言う事が漸く理解できました」


 私のその言葉に、白い部屋の中の空気がシンと凍った。


「・・・・・うん。それは、コチラとしても重々承知の上だよ。本当に済まないと思っているよ」

「はい。だから、私の多少の『お願い』を聞き入れてもらっても、バチは当たらないですよね?」


 まるで、イタズラを仕掛けようとする子供の様に不敵な笑みを浮かべる紅音に、レイガン達は目を見開き、驚く。


「お願い、ですか?」

「はい」

「レイガンの兄、」

「パルアドルフ、我々にどんなお願いをするにのかは、ともかく、彼女にはソレを言う権利が有ります」

「ありがとうございます」


 紅音の願いに、一瞬、難色を示したパルアドルフだが、レイガンがそれを制した。


「紅音、聞きましょう」

「はい」


 レイ様の許しが出たと解釈して、私は、持って来たリュックからある物を取り出した。

 それは、相続した曾祖叔父様の遺産が記載された通帳だった。


「それは?」

「預金通帳という物です。私はこの世界に来る少し前に、遠い親戚の巨額な遺産を相続して、その金額がこの通帳に記載されています」


 紅音が取り出した薄く小さな長方形な本のような物をちゃぶ台のの上に置き、皆が見えるように前に出す。


「それをどうしたいのですか?」

「この通帳に記載されている、曾祖叔父様の遺産のお金をコチラの世界でも使える様にして欲しいんです」

「は?」


 思ってもいなかったお願いに、レイガンは間抜けた声が出てしまった。


「私は、これからこの世界で、50年過ごすことが確定しています。そうなると、生きていく、生活していく上で必要なものは、衣食住です。

 そして、衣食住を得る為に必要なものはお金です。一応国王様からはお金は頂いてはいますが、正直約半年くらいしか持たないと思っています。

 いや、この世界での知識が殆どない状態の今の私では、数ヶ月でお金を失うこともあり得ます。

 なので、もし、可能であれば、この通帳記載されているお金をこの世界でも使いたいんです」


 紅音が真っ直ぐな目でハッキリと我々兄妹にそう言った。


 紅音自身も異世界で元の世界で使える筈だったお金を使える様して欲しい、なんて無茶振りな要望である事は承知の上だった。


 どんなに巨額な遺産の金額が記載されていても、この異世界では通帳なんてただ数字の綴られた小さな手帳だ。


 だけど、相手は私を突然この異世界に飛ばした張本人達。

 相手側に非があり、その非を認めている。尚且つ彼等はこの世界の神様。

 もしかしたら、万が一の可能性で出来ない事ではないかもしれない。


 これは、賭けだ。

 僅かな可能性に欠けて、呆然と私を見える神様達の姿を見据える私。


 すると、


「ぷっ、あははは!!!ええやん、ええやん!!現実的で度胸があって。ワイ、お嬢ちゃんの事気に入ったわぁ!!」


 背後からいきなり、豪快な関西弁の笑い声が聞こえた。


「ッッ!!」


 びっくりして、後ろを振り返ると、金髪の笑顔の眩しい好青年が私の後ろで宙に浮いていた。


「よ!」


 びっくりしている私を見て、好青年は片手を上げ、人懐っこい笑みを浮かべた。

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