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巨額な遺産

「召喚が、成功したぞ!!」


 豪華な椅子に座ったおじさんが大声を上げると、


 ワアアアアアアア!!!!


 周りから歓喜の声が上がった。


「なに、これ?」


 状況が理解出来ず、ただ動く事が出来なかった紅音だった。



 それは、ほんの数時間前の事だった。


 とあるマンションの一室。

 小鳥遊 紅音は1人読書の時間を楽しんでいた。

 だが、そんなささやかな至福な時間が、


 ピンポーン!!


 玄関のチャイムで中断されてしまった。


「・・・・・・・・」


 最初は、居留守を使おうと無視をしていたが、


 ピンポーン!!ピンポーン!!ピンポン!!ピンポン!!ピンポン!!


「ハァ」


 チャイムを連打で鳴らされ、紅音はため息を吐きながら読んでいた本をサイドテーブルに置き、モニターで対応することにした。


「はい」

「あ、小鳥遊 紅音さんのお宅でしょうか」

「・・・・・はい」


 玄関のモニターに映ったのは、七三分けに髪にメガネをかけ、首に長い数珠を着けた胡散臭い中年男が立っていた。


「私、慈愛の会の者で御座いますが、是非、小鳥遊 紅音さんに我が教団へ入団して頂きたく、」

「結構デス」


 紅音は男が言葉を言い終わる前にモニターを切った。


 その後も何度も玄関のチャイムが連打されたが、紅音は無視を決め込む。

 20分後、チャイムの音が止んだ。

 だが、今度はテーブルの上に置いていた自分のスマホに通知が入る。

 画面を見ると、そこには登録していない非通知の番号が。


「ッ、」


 紅音は、鳴り続けるスマホの通知を切り、通知が来ない様にスマホの電源を切る。


「あー、もう!!!」


 紅音は先程まで本を読んでいたベッドに憤りを感じながら倒れ込む。


「昨日引越したばかりなのに、なんで住所バレてるのよ!!」


 枕に顔を埋めながら深い深いため息を吐く。


「はぁ、まさか、こんな事になるなんて、思いもしなかったよ・・・・」




 私、小鳥遊 紅音の今までの人生はなかなかハードなものだった。


 高校までは優しい両親と3人暮らしだった。

 だけど、高校を卒業して間もなく、優しかった両親が事故で他界した。


 本来、親戚筋を頼る事になるだろうが、両親は駆け落ち婚だったらしく、両親のお通夜にもお葬式にも親戚親類の人達は来ず、引き取り手が居なかった私は18歳で天涯孤独の身になってしまった。

 幸いにも当時の私は大学の進学希望では無く就職希望だった為、なんとか働き口は確保出来た。

 だが、勤めていた会社は不況の煽りで入社5年目でいきなりの倒産。

 更に、親友だと思っていた友達に必死に貯めた100万円を騙し盗られてしまい、今もお金も友達も戻って来ていない。

 なんとか必死に再就職に漕ぎ着けたものの、その会社はグレー寄りのブラック会社だった。


 更に高卒で中途採用で天涯孤独と言う事で、数人の先輩社員達からのイビリの対象になってしまった。

 それでも、生活の為に先輩達のイビリや嫌味を右から左へ受け流しつつ、安月給で仕事に明け暮れていた。


 そんなある休日、1人の男性が私の元を訪ねて来た。

 突然、訪ねて来たその男性は、ー顧問弁護士の井ノ原だと名乗った。

 立ち話もなんなので、部屋に入ってもらい、話を聞くと、


「遺産、ですか??」


 井ノ原さん話に、紅音は、目を丸くした。


「はい。貴女のお母様、小鳥遊 紫様の母方の曾お祖父様の弟様、つまり、紅音様にとって曾祖叔父となる小鳥遊 琥太郎様が先月ご高齢の為お亡くなりになりました。

 享年92歳で御座います。つきましては、琥太郎様の遺言の件でこちらに伺わせて頂きました」

「・・・・・えっと、私の曾お祖父ちゃんの弟、曾祖叔父、ですか・・・」


 初老の優しい印象の井ノ原さんの言葉に、一瞬頭が追い付かなかった


「すみません、母方に親戚が居たなんて知らなくて。母は早くに親兄弟を亡くして天涯孤独だと聞いていました。

 父も母と結婚する際に、天涯孤独だった母との結婚を親族中から反対をされたそうです。

 そして、その反対を押し切って母との結婚を選んだ父は父方の親族の人達から絶縁を言い渡されていると聞いていたので、私に親戚がいた事にすごく驚いています」


 私は両親の祖父母の顔も親戚の人達の顔も知らずに育ってきた。

 だから、幼い頃、友達が夏休みや冬休みにお祖父ちゃんとお祖母ちゃんに会いに行くんだと嬉しそうに話している姿を私は不思議な気持ちで見ていた。


 私の家ではお盆やお正月に親戚の人が家に来たり、田舎に帰省に行ったりなんてした事が無かった。

 その代わりに両親と楽しく過ごしたり、ちょっとした旅行なんかにも連れて行ってくれたから、寂しいとは思わなかった。

 12歳になったくらいに両親に親戚が居ない事情を聞いていたから、ずっと親戚は居ないと思っていた。


「はい。心中お察しします」


 混乱状態の私に井ノ原さんは曾祖叔父ついて話てくれた。


「琥太郎様は小鳥遊家の三男として御生まれになりましたが、正妻の子としてでは無く、愛人との間に産まれた子供でした。

 それ故に、御実家である小鳥遊家では妾の子として家に馴染めず肩身の狭い幼少期を過ごされ、17歳の時に母親が急死し、18歳になったと同時に単身で海外へ渡り事業を立ち上げました。

 それからはずっと御実家との連絡を断ち、そのまま日本に帰る事もありませんでした。

 しかし、生涯を独身を通して来た琥太郎様は一年前に私財の整理を始め、その時に初めてご自身の唯一の血縁者が玄姪孫にあたる貴女だけと言う事実を知ったのです。

 琥太郎様は血を分けた血縁者である紅音様がご両親を早くに亡くされていると知り、遺産の一部を貴女様に相続すると言う旨の遺言を琥太郎様の顧問弁護士であった私に託されたのです」


 そう言って、井ノ原さんは一枚の写真を私に差し出した。


「この人が、琥太郎曾祖叔父様ですか?」

「ええ、生前最後に撮られたお写真です」


 写真には大きな安楽椅子に座った厳格そうな雰囲気のお爺さんが写っていた。

 膝には毛布がかけられ、傍には点滴が写っているが、背筋を伸ばし、じっとこちらを見つめている。


「・・・・会った事も無い、しかも玄姪孫だなんて、ほぼ他人に近い私に遺産を遺してくれたんですか?」

「はい。とは言っても、貴女様に遺されたのは琥太郎様の全財産の一部ですが」


 そう言って、井ノ原さんはテーブルの上に数枚の書類を広げて見せる。


 急に遺産や玄姪孫と言われても、今だに信じられないと言うか、あまり、実感は湧かないし、小難しい話は分からない。

 でも、生活に困窮していたのは本当だった。

 正直、今の会社の給料はあまり良い方ではない。

 借金やローンの返済などの金銭的問題は無いが、支払いや食費、日用品などの実費、貯金で毎月カツカツな生活をしていた。

 いくら遺産を遺してくれているのか分からないが、少しでも、今の生活が楽になるならと、書類に目を通すと、


「琥太郎様が紅音様に遺された遺産は、50億円でございます」

「・・・・・・・・・・・。はい???」


 井ノ原さんの言葉に一瞬、頭の思考がフリーズした。


「5、50億??」

「はい。因み、相続税などの税金を差し引いた金額で御座います。琥太郎様が玄姪孫である紅音様へ人生で最初で最後のプレゼントだと言っておりました」

「ち、ちょっと待って下さい!!!」


 とんでもない金額に紅音は思わず慌てる。


「50億円って、本当に!?さっき全財産の一部だって、」

「はい。琥太郎様は若くして海外で事業を立ち上げ、大成功を遂げました。

 総資産額は会社、土地、不動産、株、保険、他にも収集していた美術品など、その他諸々合わせると数百億近く有りました」

「ふ、ふぇ、」


 思考が低下した紅音の頭の中で豪華な社長椅子に座り背後にお札が舞い、高笑いをする曾祖叔父のイメージが浮かぶ。


「琥太郎曾祖叔父様って物凄いお金持ちだったんですね・・・・・」

「はい。ですが、琥太郎様は自分の死期を悟っていたのか一年程前に会社と土地、不動産、株、集めていたコレクションを売却。そして売却した利益の約70%を世界各国のボランティアへ寄付をしました」

「ッ、あ・・・・」


 その時、紅音の頭の中で小さな記憶が蘇る。


「そう言えば、半年くらい前に海外在住の日本人富豪が世界中のボランティア団体へ多額の寄付をしたとニュースで見ました。もしかして、それって琥太郎さん、曾祖叔父様ですか?」

「はい。そして余った遺産を貴女様に譲ると遺言を遺されたのです」


 そう言って井ノ原さんは、一通の封筒を取り出し、私に差し出す。

 受け取った封筒の中には一枚の遺書が入っており、そこには確かに50億円の遺産を唯一の血縁者であり玄姪孫である小鳥遊 紅音に相続すると直書書かれ、最後に、『このお金が、玄姪孫である紅音さんの役に立つ事を願っています』と、綴られていた。


「そ、それでも、50億っと言うのは、流石に、考えもしなかったと言うか、正直、困惑してます」

「ですよね」


 困惑する私に井ノ原さんは苦笑する。


 困惑する紅音だったが、井ノ原さんの助けもあり数ヶ月後に税金などの色々な複数の必要な手続きを終えた。


 こうして、小鳥遊 紅音は正式に50億円の遺産を相続する事が出来た。


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