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天野なるは図書委員

作者: bell

いえい

 事実は小説より奇なりとはよく聞くが、私みたいな学校に友達がほぼいなくていつも教室の片隅で本を読んでるようなさみしい人間にとっては小説こそが何よりも奇であると思っていた。


それはきっと正しかったのだろう。だって朝起きたら性別が男子から女子になるような話など、最近のライトノベルではありふれているではないか。


そのせいで朝母親が混乱していたり学校へ連絡しても信じてもらえなかったり調べてみるとあらゆる手続きをしなければいけなかったりと大変だったことには違いのだが、それでも私の周りの人間関係が大きく変わったりはしなかったし、相変わらず読書は楽しい。大きな悩みで言ったら勉強が苦手なことくらいだろうか。


つまり何が言いたいかというと、性別が変わっても結局私は私でしかなかったというわけだ。少し思ったのは、こんなつまんない人間じゃなくてもっと面白い人、例えば小説や漫画の主人公のような性格の人の性別が変われば何か変わったのかもしれない。まぁ、万が一にも起きないもしもの事を考えても仕方ないのだが。


ちなみに、なぜ私は性別が変わったのにもかかわらずこうまで落ち着き払っているのかというと、もう一年たっているからだ。


四月一日、今日から高校二年生、女子歴二年目突入でございます。天野なるです。よろしくどうぞ。


 始業式を終え、私は図書室に来ていた。

一年生の時から図書委員に入っていて、毎週火曜日が私の当番なのだが運悪くそれが今日だった。といっても、今日は掃除をすればすぐに帰れるみたいだからいつもよりはましなのだが。

というのも、普段は窓口みたいなところに座って本を借りに来た生徒の対応をしたりうるさくしている生徒を注意したりしないといけないのだが、実のところ図書室に寄り付く生徒はそこまで多くなく、いたとしても本を静かに読んでいる人がほとんどで、うるさくする人も、何なら本を借りに来る人もあまり多くない。

先生曰く最近図書室を利用する生徒も増えたそうなのだが、だからと言って暇なことには変わりないのだ。

今日は始業式だから部活のある生徒以外はすぐに帰るよう言われているため、図書室を利用する生徒は毎年ゼロになるそうだ。だから掃除だけして早く帰れるというわけだが、そもそも放課後にまで仕事をさせないでほしいというのは流石にわがままだろうか。


とにかく、早く終わらせればそれだけ早く帰れるからせっせこせっせこ掃除をしていると。一緒の当番の女の子が話しかけてきた。


「なるっちーティッシュ持ってない?」

「あるけど?どうしたの?」

「花粉症がひどくてさぁ。」

「なるほどね、袋ごとあげるよ?」

「まじ?アザーやっぱなるっち神だわー、いや、天使か?」

「なにいってんのさ。」

「いやーさ?その可憐な容姿で飾らずでも優しくてだけどどこかさばさばしている、そんな魅力たっぷりな女の子を形容するには神と天使どっちがふさわしいのか、私は決めあぐねているのさ。」


私のポケットティッシュを受け取ると、彼女、二宮まいは悩まし気に腕を組んだ。


「何言ってんの?二宮さんも知ってると思うけどそもそも私男だったし、神も天使も似合わないよ。どっちかというと悪魔じゃない?」

「ほう、その心は?」


二宮まいは眼鏡を中指でクイっと上げた。私は掃除の手を止めて少し考えてから答えた。


「かわいい見た目で相手をだまして、どんどん沼へ引きずり込んでいく的な?」

「つまり、なるっちは私のことをだましていたと?」

「そうじゃないけど、正直、男の心を持った私から見ても私の容姿は結構いい線言ってると思う。でも結局、中身はどうしようもなく私自身だから。」

「意図せずだましてしまうと?でもそれは悪魔とは違うんじゃない?それに沼に引きずり込んでいくってどういうことなのさ。」

「そういうやつがいたんだよ。」

「もしかして、私?」

「違うよ。ていうか、二宮さん私が男だった頃知ってるよね?」

「存じておりますとも。」

「じゃあ騙されようがなくない?」

「そんなことはないぞ?むしろ教室の隅でいつも本を読んでた冴えない男の子がいきなり黒髪ボブの文学少女になってたらその子に騙されたいと思うにきまってるだろ?」

「本人目の前にして何言ってんだこいつ。」


私は侮蔑の視線を送った。


「あぁ、蔑むようなその視線、たまらない、」


二宮まいは喜んだ、こういうやつなのだ。見た目は黒髪ロングに大きめのまん丸眼鏡をつけ、その上身長も小さいからいつも上目遣いで話しかけてくるというまさに萌え要素の塊といった感じなのだが。このように彼女の中身の残念さが大いに足を引っ張っている。しかもこれが通常運転なのが質が悪い。そのおかげで変な男が寄ってこないのは友達としては安心しているのだが、これからもずっとこのままだと一生彼氏できなさそうなのは少し心配だ。


顔を赤らめ悶えている彼女を無視し、私は話を続ける。結構雑に扱っても彼女は私の話を聞いてくれるのだ。


「私が言ってるそういうやつっていうのは、一年の時隣のクラスだったあいつ、あーー、えっと、名前なんだっけあいつ。」

「あーそんな奴いましたね、確かテニス部の、えーっと、なんだっけ。」

「そうそうテニス部、、、」


いつの間にか二宮まいは落ち着きを取り戻していた。


「さっきまで奇行に走ってたのにいきなり落ち着いて話始めるのちょっと怖いからやめてくれる?そんなんだから私とセットで色物みたいな扱いされてんだよ?」

「誰にどんな扱いされようと私は私なんで。それで?そのテニス部の男がどうかしたんですか?」

「ん?あぁ、そいつ私が元男だってわかって告白してきたの覚えてる?」

「覚えてますよ?私たちの間では結構な事件でしたからね。」

「なんで敬語?」

「なんか雰囲気出るから?」

「あっそ、じゃあその男が私になんて言って告白してきたか覚えてる?」

「もちろんですとも、そのくらいの謎、わたしにとっちゃあお茶の子さいさいでござるよ。」

「キャラぶれるの早すぎ、失格。」

「何から失格したの?」

「失格した自覚がないとは、二宮さんもまだまだだな。」

「なるっちも大概変だよね。」

「私は何から何まで変だよ。」

「確かし。」

「そんなことはどうでもよくて、覚えてる?」

「うん、確か、たとえ中身が男だとしても俺が君のことを好きになってしまったことには変わりないからどうか俺の気持ちを受け取ってほしい、みたいな感じだっけか?一目ぼれだったみたいなこと聞いたけど。」

「話したことなかったから多分一目ぼれだろうね、そして問題は私が普通の男子高校生を無自覚に惚れさせてしまったこと。」

「どういうこと?」

「まず、あーっと、名前分からんからテニスさんとさせていただくけど、」

「テニスさん了解?」

「テニスさんは私に好きになってしまったって言ってたんだ。それはつまり、彼の中で男が男に恋をするのは普通ではないことと、彼の恋愛対象は女の子であることを意味すると私は考える。」

「ほう、その心は?」

「もし恋愛対象が男であれば好きになってしまったなんて言い回しはしないだろうし、同性同士の恋愛に理解があればこんな否定的な表現なんてしないだろう?」

「それはどうかな?」


二宮まいはにやりとし、得意げに語り始めた。


「確かになるっちの意見も筋が通っているように見えるし、実になるっちらしい考え方だと思う。しかし一つの可能性を見落としているのでないか?」

「ほう?それは一体?」

「テニスさんはなるっちのことを好きになった時点で、恋愛対象が広がった、または変わったという可能性だ。」

「なるほど、私きっかけで恋愛対象に男が含まれるようになった、または男のみが恋愛対象になってしまったと?」

「いかにも!!!」


二宮まいは今日一の大声をここで出した。それは彼女の変なスイッチが押されてしまったことを意味していることを高校一年生ともに過ごした私は察してしまった。


「まず!このシチュの良さは「ストップ」

「なんで!!!!聞いてよ!!!!」

「いやだよ長いもん。」

「いいじゃん先っちょだけだからさー」

「お前はもともとついてないだろ。」

「なるっちはもともとついてたけどねー」

「しばく、絶対にしばく。」

「こわ、にーげよ。」

「覚悟しとけよ。」

「え、今じゃないの?いつ来るかわからないの?」

「二宮さんを土に埋めるのはまたいつかにするとして。」

「そんな話してないけど?」

「私はテニスさんは恋愛対象は変わってないと思うんだ。」

「話の軌道修正無理やりすぎない?豪華客船だったら沈んでるよ?」

「なぜかというと、テニスさんはおそらく一目ぼれしたから。」

「会話して?泣いちゃうよ?」


二宮まいはそう言ったが、若干ニヤニヤしているので泣いてしまう心配がないことは明らかだった。むしろ少しこのやり取りを楽しんでそうである。

だから無視して話し続けた。


「男の姿に一目ぼれしたのなら好みが歪んでしまったのは明らかだ、でもテニスさんは女の姿の私に一目ぼれした。中身も込みで好きになった可能性もあるが、それを考えるには私との接点があまりにも無い。なら私の可憐な見た目を好きになって告白してきたと考えるのが妥当で、それは女の子を好きになるのと何ら変わらないと思ったんだ。」

「つまりテニスさんは何も歪んでいないと?」

「いや、そうは言っていない。」

「ん?ドユコト?」

「私は元男だということをかなりオープンにしている。つまりテニスさんもそれを理解しているはずで、それなのに私に告白してきた。つまりかなりの面食いだということだ。」

「それが歪んでいると?」

「何の接点もないのにかわいいからと告白するようなやつ、まともなわけがないだろう?」

「それはまぁ、確かに?」

「まぁそんな奴ごまんといるけどね、言いなればテニスさんは王道に歪んでいると言えるだろう。」

「あくまで趣味嗜好として他人に受け入れられる程度であり、特殊性癖には分類されないということであってる?」

「そんな感じ、そして私はその対象になり得る容姿をしている。」

「なるほど、つまりなるっちは面食いの男に結構もてて、でも内面は男だからその男どもを意図せずだましている。」

「また、私の返事一つで恋愛関係なることもできてしまう。それもはたから見たら普通のカップルに見えてしまうほどには自然にね。そして恋愛関係になれてしまうということはそこから二人の関係をより深めていくということ。」

「なるっちは、関係を深めることを沼に引きずり込むと言ってるの?それって相手は幸せなのでは?」

「そうかもね。でも、私からの愛は絶対に偽物になるだろうね。」

「残酷だなぁ。」

「まぁ、今の私が誰かと付き合ったりするなんてありえないから誰も不幸にはならないけどね。だからテニスさんの告白も断った。テニスさんは私との関係を深めたがっていたのかもしれないけれど、私は自分の手で誰かを沼に引きずり込むような真似したくないもの。」

「えー面白そうだから誰かと付き合ってみてよー。」

「無理、普通にキモイ。」

「それは何が?」

「私がに決まってるだろう?」


掃除は進まない。

なんだこれ。

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