2-19.ライ、高周波焼入れを実験する!
本日2話目の投稿です。朝に1話投稿していますので、先にそちらをご覧下さいね。
さらに1週間が過ぎた。
この1週間も魔獣退治や街道整備、そして門の警備を手伝った。警備って言っても立って見てるだけじゃなくて、手の空いてる人と試合したり一緒に鍛錬したりしてたんだ。
ボクの鍛錬の方法を見せたら『それムリだわ···』って呆れられちゃった···。そんなにおかしいのかな?遺産の知識にあるやり方なんだけどね。
でもやり方は教えたから、みんな上達するんじゃないかな?以前にテオが魔法を教えた人は明らかに上手になってた。テオは魔法を教えるのが上手なんだよね〜。
そして、リークさんから門の部材が完成間近って話があった。いくつかパーツに分けて、それを現地で組み立てる方法らしいね。
明日、ボクは鍛冶屋さんに行って、門の強度を高める『高周波焼入れ』という雷魔法を使う試験をすることになった。
失敗してもすぐにパーツを作り直すそうなので、やり直しはできるようだ。
そんな話を夕食の時にしてると、
「そう···。もうちょっとしたらライは旅立っちゃうのね···」
「うん···。他の町も見てみたいしね」
「そう···、よね···。ライはすごいから、いろんなところへ行けるもんね」
「すごくはないよ。できることがちょっとだけ多いだけさ。それに、もう会えなくなるわけじゃないよ」
「え···?」
「それはちょっとお楽しみにしていてね」
「···え?ええ···」
そう、ちょっとしたプレゼントをボクはアスに用意したんだ。これはお別れの時に渡す必要があるので、今は渡せないんだけどね。
翌日···。
ボクはリークさんとアスと一緒に鍛冶屋さんにやって来た。今日はアスも一緒に来たんだよ。
中に入ると···!?ものすごく暑かった!それでもみんな分厚い長袖長ズボンを着てやってるんだよ!すごくない!?
そして鉄をハンマーで打つ音が至る所で鳴り響いていた!
初めて見た鍛冶屋さんの職場は···、一言で言っても壮絶だったよ···。
「おう、リーク!来たな!」
「アト。今日はよろしく頼むぞ。ライくん、紹介しよう。コイツはアト。この鍛冶屋の工房長だ。こちらはライくんとテオくんだ」
「おう!オレはアトだ!それにしても···、ホントに幼いガキじゃないか···」
「おい、失礼だぞ?」
「おっと、いけねえいけねえ。悪かったな」
「いえ、幼いのは仕方ないです。ボクはライです。旅をしていて、偶然こちらの町に来ました」
「オレはテオだぜ!おっちゃん、よくこんな暑いのにそんな厚着してやがるなぁ〜!」
「これはヤケド対策だ。脱ぎたいのはヤマヤマなんだが、鉄をハンマーで撃てば溶けた鉄が飛び散るんでな。この服着てないと全身ヤケドだらけになっちまうんだ。水に濡らしながらやるけどな」
「へぇ~。なるほどな」
そういう意味があったんだ···。確かに周りで鉄を打ってる人を見ると、炉から出した鉄はまっ赤だし、打ち始めはちょっと溶けた鉄が飛び散っていた。
「さて、さっそくだが門を見るか?試作品ではあるがな」
「はい。お願いします!」
鍛冶屋さんの工房から離れた倉庫にそれはあった。かなり大きな鉄板だ。しかも分厚い!!
「やっと金型ができたんで取りかかれたんだ。コイツは試作品だ。元々の門を溶かして再利用している。相当な重量だから、頑丈だと思ってたんだがなぁ〜。こんな分厚い鉄板すら裂いちまうなんて、恐ろしい魔獣がいたもんだ···」
「前はどうされてたんですか?」
「簡単に焼入れ処置をしたらしい。こんな分厚い鉄板にどうやってやったのか見当もつかなかったがな」
「なるほど···。今回はボクの雷魔法でそれをやります。たぶん、前回よりも頑丈になると思いますよ」
「ほう···。じゃあさっそくやってみてくれ。オレも見学させてもらうぜ!」
「はい。ボクも知ってるだけで、やったことはありません。どうなるかはやってのお楽しみって事で···。では、いきます!」
アキさんの遺産の知識が教えてくれた。雷魔法は非常に応用が聞く魔法らしい。今回は電流の向きを行ったり来たりを周期的に繰り返す『交流』という方式の雷魔法を使うんだって。
この行ったり来たりを高速で繰り返した電流を鉄板に流すと、表面に近いほど熱くなって、中は熱くならないらしい。『表皮効果』って言うらしいね。
これを鉄板にすると、表面は硬くなり、内側は柔らかいままとなって、攻撃を受けても硬さで弾き返し、変形したとしても柔らかい部分で受け止めてしまい、壊れにくくなるんだってね。
さあ、遺産の知識のおさらいは済んだ。ボクは雷魔法を展開、交流の電気を作り出し、それを鉄板に触れて流してやった!
すると鉄板の表面が赤くなり、熱を帯びてきた!どの程度やったらいいか分かんないけど···。ドンドン赤くなってきて色が赤白っぽくなってきた!これぐらいでいいかな?
雷魔法を止めた。すると、鉄板は元の鉄の色に戻っていった。
「すごいな···。炉に入れてないのに熱くなるなんて···」
「加減が分からないので適当にやってみたんですが···。ちょっと試し斬りしたいんですけど、元の門の鉄ってあるんですか?」
「ああ。裏にあるぞ。量が多いから、一気に作れないんでな」
「じゃあ、そこまで持っていきましょう」
「待て待て!そう簡単に持って行けないぞ!?重すぎるんだからな!」
「あっ!?じゃあ、こうすれば···?」
ボクは無限収納カバンを近づけると···!スルッと入っちゃった···。
「なっ!?なんだそのカバンは!?マジックバックかよ!?」
「そうですね。これで持っていけそうです!」
「アトよ。こんな事で驚いていたら、この後はもたんぞ?」
「マジかよ···」
そうして資材置き場にやって来た。それじゃあカバンから出して···、重いから出したとたんにバックステップしたよ。潰されそうだったし···。
「それじゃあボクの本気の一撃を、まずは以前の門の鉄にやってみましょう!」
そう言ってボクは魔力剣を取り出し、思いっきり魔力を込めた!緑色の刃がドンドン輝いていく!
「きれい···」
「見たことのねえ剣じゃねえか···」
アスとアトさんが感想を言ってる間、ボクは集中していた。···よし!いくぞーー!!
「秘技!大噴火斬り!!」
ボクの剣技で最もパワーのある斬撃だ!大きく振りかぶって、思いっきり振り下ろした!
ドカーーーーン!!
ボクの斬撃は門の鉄を半分以上斬り裂いていた!
「な!?なんという威力だ···」
「これが···、ライくんの力···」
「ライ···、すごい···」
「ふぅ~。全部斬れなかったかぁ〜。ボクもまだまだだなぁ〜」
「ちょっと待て!?これでまだまだなのかよ!?」
「はい、アトさん。この技はもっと威力があるはずなんですよ。この技を創った人だと、もっと弱い威力で真っ二つにしたと思います」
「とんでもねえ剣術があるもんだ···」
「じゃあ、今度は高周波焼入れをした鉄ですね!···いきます!秘技!大噴火斬り!!」
ドカーーーーン!!
音は一緒、しかし···!
「き、斬れてねえ···」
「表にキズは入ってるけど···」
「···うん。これでボクの方法で手を加えた鉄のほうが頑丈ですね!」
「そのようだな···。わかった!じゃあ、これから毎日来て仕上げてくれるか?」
「はい!」
これで門の修理が一歩進んだね!
高周波焼入れは実際にある鉄の強度を高める方式なんです。作者も仕事でやっているところは昔に1度だけ見たことがあります。
鉄の強度を高めるには皆さんご存知の鍛冶職人が熱した鉄を叩いたり、水で急冷してまた温めたり···とかですよね?もちろん、これも正しいんですが、こういうやり方もあるんですよ。この世界ではライくんしかできないですけどね。
さて次回予告ですが、門の修理を手伝って帰る時にチンピラ冒険者に絡まれてしまいました···。特に悪い事はしてないんですけどね。襲いかかられたのでちゃんと教訓を与えますよ〜!
明日も朝と夜に1話ずつ投稿します。お楽しみに〜!




