2-16.ライの覚悟
今日からゴールデンウイーク後半ですね!
お出かけの方は道中事故のないようにお気をつけください。
お出かけしない方はのんびり本作や前作をお楽しみいただけると嬉しいですね〜。
作者はもちろんお仕事です。
「···アスを、連れて行ってくれないか?」
ボクが寝た後でテオはリークさんに聞きたいことがあって訪ねていたんだ。そこで、こんな話になってしまったんだって···。
「アスを?どういう事だ?」
「先ほど言ったように、この町はもう長くはもたない。現状の戦力では通常の魔獣にはなんとか対応はできているが、先日のように特殊個体だと1体だけでも対応ができないのだ。いつ襲ってくるかも不明だ。私は···、この町の領主だ。私は逃げるわけにはいかない!しかし···、アスは···、アスだけは生き延びさせたいのだ···」
「············」
「ライくんとテオくんが非常に強いのはわかっている!どうかアスを···、連れて行ってはくれないだろうか···?」
「···オレとしてはお断りだ。ライだったらいいと言い出してしまうだろうが、こればかりはオレは譲らねえ!」
「···そうか」
「まず、大前提としてオレたちは旅をしている。道中では魔獣との戦闘は避けられない。アスは戦えないだろう?自分の身を守ることすらできないだろ?」
「············」
「いくらオレたちが強くても、守るべき人を守りながら戦うってのは非常に不利だ。全滅の可能性も出てくるんだ。そんなリスクをオレも背負いたくないし、ライにも背負わせたくない」
「············」
「それとこれが致命的だ。もしアスがライの目の前で倒れたら···、ライは自分自身が絶対に許せなくなる。そうなったら···、ライは二度と立ち上がれなくなるか、この世のすべてを恨むだろうな」
「···そうか」
「ライはまだ言ってないだろうが、あんたには先に伝えておいてやる。あいつの村は魔獣に目の前で滅ぼされたんだ。そして、『自分のような目にほかの人を遭わせたくない』という気持ちが、あいつの原動力なんだよ」
「そんなことがあったのか···」
「だから、その気持ちにつけこんでる今の状況は、オレ自身が許せねえんだ!あんまりオレたちに深く関わるな!これ以上ライを···、傷つけないでやってくれ···」
「···わかった。これまでの非礼は詫びよう。門の修復まで滞在しなくてもいい。頃合いを見て旅立ってくれ。町を守ってくれて···、本当にありがとう!」
「···邪魔したな」
···やはり見抜かれてしまったか。さすがはドラゴン族だ。
悪気はなかった。むしろ···、ライくんたちに甘えすぎてしまっていたのだ。
あの子たちに任せれば、なんとかなる!言い方は大げさだが、まさに救世主のような子だったのだ。
であれば!この町を存続させるためにはライくんの力が必要!そう考えてしまったのだ···。そう考えないといけないほど、状況が悪化していると判明してしまったのだ···。
可能であればアスと結婚してくれたら···、と考えたが、まさかライくんはまだ5歳だったとは···。アスは10歳を超えてるので結婚ができる年齢ではあるが、ライくんが想定以上に幼すぎた···。なぜあそこまで大人びているのかわからないが、それも強さの秘密の一つなのだろうか?
この策もダメだったか···。そうなると、現状打てる手は乏しい。しかし、それをすべて打って、少しでも町を維持できるようにしなければ···。
次の日の朝、ボクはテオに起こされた。あれ?いつもと逆じゃない?
「ライ、朝早くから悪いが、話がある」
「テオ?もしかして、昨日の続き?」
「そうだ。ライが寝てから、リークさんに問いただした。オレが思ってた通りだったよ」
「···そう、なんだ」
「門を修復できたとしても、ライがいなかったらこの町はもたない。でも、だからといってライをこの町に縛り付けるのだけはダメだ!ライはこの町の人間じゃない。これ以上利用されるのはまっぴらごめんだから、すぐにここから出るぞ」
「待って!···今度はボクがリークさんに聞いてみる。それまで待ってくれない?」
「···ライは甘すぎるぞ?」
「それでも!お話を聞いて、ボク自身が判断したいんだ。わがままでごめんね?」
「···ホンット、いっつもいっつもワガママ言いたい放題だな!まぁいいぜ。気の済むようにしろ」
「ありがとう、テオ」
テオはボクを心配して聞いてくれたんだね···。リークさんの考えも分からなくはないよ。ボクだって、頼れる人がいたら甘えちゃうと思うしね。
食堂に行くと、アスが待ってた。リークさんは···、今はいないようだ。
「おはよう、ライ!テオ!今日はよろしくね!」
「うん。おはよう、アス」
「おう!おはよう!」
「···今日のライって、ちょっと元気ないけど?何かあったの?」
「えっ···!?そんな事はないけど!?」
「そう?なんか悩んでそうな顔してたわよ?」
「き、気のせいじゃないかなぁ〜?あはは···」
「そう。じゃあ、いただきましょう!」
「うん!いただきま〜す!」
危ない危ない···。ボクって顔に出ちゃうのかなぁ〜?アスって結構鋭いのかもね。
朝食をいただいたあと、アスと一緒に出かけるつもりだったんだけど、その前にボクはリークさんの話を聞く事にした。
アスは特に何も言わず、『じゃあ、ここで待ってるわ!』って言って食堂で待ってくれることになったよ。
そして、ボクは1人でリークさんと話をすることにした。テオは廊下で待ってもらうよ。
「おはよう、ライくん。···テオくんから話は聞いたようだね?」
「おはようございます。はい。聞きました」
「ライくん1人で来たということは、テオくんには聞いてほしくない事なんだね?」
「そう···、ですね。たぶん、テオはボクの意見に反対するでしょうから···」
「···どういう事かな?」
「リークさんの考えを聞いたボクの結論を、お伝えします。ボクは···、最初の約束だった門の修理完了まで、ここにいるつもりです」
「···ありがとう」
「そして、その間の魔獣退治もお手伝いさせていただきます。ただし、兵士さんや冒険者さんたちの手に負えない魔獣のみにして下さい」
「···いいのかい?」
「はい···。ボクの村は、目の前で魔獣に襲われて滅ぼされました。ボクみたいな目に遭う人を···、もう見たくないんです···」
「············」
「ですが、いつまでもここにいるわけにはいきません。ボクが旅に出たのは、世界を見て回るためなんです。いろんな場所へ行って、いろんな事を知って、いろんな人と出会って···。まだ、旅は始めたばかりなんです。納得するまで旅をしたら···、滅ぼされてしまいましたが村に帰るつもりです」
「···すまなかった。ライくんたちの事情も確認しないまま、こちらの事情を押し付けてしまってた。アスの事も···。本当に申し訳なかった。そして···、ありがとう。門の修理については今は製作中だ。ただ、大きいのであと2週間はかかる見込みとのことだ。もうしばらく、よろしくお願いする」
「はい。ボク自身がやりたくてやるんです。もう、気にしないでください。アスは···、大好きですよ。村では友達はいましたが、ボクたちみんな貧しくて遊ぶ事なんてなかったんです。アスはボクの事も心配してくれました。いい友達ができて···、良かったです!」
「そうか···。アスも領主の娘ということで友達がいないのだ···。大人たちと一緒に私の手伝いばかりで···。アスとも仲良くしてくれ」
「はい。お話、ありがとうございました。失礼します」
ボクの覚悟をリークさんに伝えた。
リークさんはいい人だよ。ちゃんとボクの意見を尊重してくれたよ。悪い人なら問答無用でやってきそうだしね。
当初の予定通り、ボクが去るのは門が修理完了した翌日だ。
「ライは本当に甘いな〜」
「テオ···、聞こえてたよね?」
「当たり前だろ?まぁ、とりあえず釘は刺せたからいいとするか」
「うん。ずっといるとたぶん···」
「そうだな···。危険が増すだろうからな」
「よし!これはもうここまで!今日はアスと遊ぶよ〜!」
「おう!」
ライくんの覚悟をリークさんに伝えましたね。
ここで引き下がってくれるリークさんもすごいですよね。前回も書きましたけど、こういう判断はなかなかできません。
まぁ、ライくんも事情は察しています。ですので、こういう提案をしたんですね。ただ、見捨てるつもりはライくんにはありません。この章の最後にある仕掛けをしますので、ご期待ください。伏線はもう仕込んでおりますよ〜。
さて次回予告ですが、ライくんはアスちゃんと一緒に遊びに町に出かけます。これってデート!?ライくんはそう思ってませんけどね。テオくんも一緒にいますから2人きりではないですけどね。
次回は本日夜に投稿します。お楽しみに〜!




