2-10.神様がライくんたちを導いてくれたのだろうな!
「あら!ライ、テオ!お帰り!」
「ただいま、アス」
「帰ったぞ~!」
領主邸に戻ると、入口でアスと出会った。たくさんの書類を持ってるね。どこかでお仕事してたのかな?
「それ、重いでしょ?ボクが持つよ」
「えっ!?じゃ、じゃあ、お言葉に甘えようかな~?」
「いいよ。こんなにたくさん持って大変だね?」
「パパのお仕事に比べたら大したことないんだけどね。みんな忙しいから、わたしも手伝ってるのよ」
「そうなんだね~」
「そういう意味ではライとテオも手伝ってくれてるわよ?」
「え?ボクたち、リークさんのお仕事を手伝ってはいないけど?」
「魔獣を退治して町を守ってくれてるじゃない!これも町のお仕事なんだから、それをやってくれてたらパパのお仕事を手伝ってくれてることになるわ!」
「···あ~、なるほどね!そういう風にも考えられるんだなぁ~」
「オレたちがやれることをやってるだけなんだけどな」
「それができる人って少ないわよ!だからわたしも自分ができることを手伝ってるのよ」
「なんかそう言ってもらえると嬉しいね!そうそう、リークさんに相談したいことがあるんだよ。お話できるかな?」
「夕食の時でいいんじゃないかしら?」
「わかったよ。じゃあ、それまで部屋でのんびりしておくね」
「夕食になったら呼びに行くわ!」
「うん!アスも頑張ってね!」
ボクたちは部屋に戻って着替えた。革製の鎧を外すと、なんだかゆったりできるね。それほど重くないんだけど···。気持ちの問題かな?
さて、無限収納カバンの中で魔獣たちは自動解体中だったけど、それもついさっき終わったようだ。たくさんのお肉と皮や素材ができたようだったよ。これの処分についても相談しないといけない。いろいろリークさんにはお世話になってしまうなぁ~。
そして夕食の時間になり、リークさんとカレンさんも一緒にいただくことになった。そして食後に話を切り出した。
「リークさん。今日は北の森でたくさん魔獣を狩ってきました。解体してたくさんのお肉や素材があるんですけど···、どうしましょうか?」
「今日は魔獣狩りに行ってくれたのか!?無事で良かったよ···。肉は量があるならうちの厨房の料理人に渡してくれたらいいぞ。素材は冒険者ギルドに持っていけばいいよ」
「え~っと···。量が多すぎるので厨房の人が困っちゃうと思うんです···」
「そんなに?今はどうしてるんだい?」
「ボクのカバンに入れています。見た目以上にたくさん入るカバンなので···」
「マジックバックを持っているのか!?あのショルダーバッグがかい!?」
「そうなんです···」
「じゃ、じゃあ、小分けにして厨房に渡してくれるかな?うちの厨房では空いてる時間に被害を受けた人達用に炊き出しの準備をしているんだ。そこで有効活用させてもらうよ。ありがとう」
「わかりました。そうさせていただきますね!」
「しかしそんなにたくさん魔獣を狩ったのか···。どこにどれぐらいいたんだい?」
「北の森の奥に池があって、そこで休んでいた集団を倒しました。あとは東の森なんですけど···、こっちは逃げられてしまいました···」
「あんな奥深くまで行ったのか···。ならば当面は安心だな。ありがとう」
「いえ···。あと、冒険者ギルドでは冒険者さんたちが戻らなくてパンクしてましたね」
「あぁ、その件の報告は聞いている。どうも先日の魔獣···、オーガファイターという特殊な魔獣らしいのだが、門を破壊してしまうほどのあの強さにビビってしまって、魔獣退治には行きたがらないらしいのだよ···」
「えっ?ケガして動けないとかじゃなかったんですか?」
「いや、ケガをしていたのは本当だし、それの回復はもう済んでるのだが、心の傷だな···。まぁ、ムリもない。ライくんとテオくんがいなかったら、そもそもこの町は滅んでいただろうからな。誰しも命の危険が目の前に起きたら、それを避けたいと思うものだよ」
「なるほど···。だから···」
「こればかりはなんともならん···。心の病に関する薬はないし、回復魔法も効かない。時間をかけてゆっくりと治していかなくてはね。その分、穴埋めをキミたちが進んでやってくれているのは本当にありがたい。ただ、ムリはしないようにしてくれ」
「わかりました。魔獣退治の依頼はまだほかにもありましたので、そっちも進めていきますね」
「ありがとう。そうそう、私からもライくんたちに聞きたかったことがあるのだが、知ってたら教えてもらえるかな?」
「はい?なんでしょうか?」
ん?なんだかリークさんの顔が真剣な顔つきになったな···。何かあったのかな?
「この町以外の事なのだ。先日の話ではアノド様が御存命というのはわかったのだが、ほかの町について何か知っていれば教えてほしいのだ」
「ボクが知ってるのは、まずはボクの村、マイカ村って言うんですけど、魔獣に滅ぼされました···。2か月ほど前の事です」
「なんと···、悪いことを聞いてしまったね···」
「いえ···、ありがとうございます。ボクの村の隣にカパーの町というのがありますが、そこは大丈夫でした」
「カパーは知っている。この町が属しているゲートという国に属している最西端の町だな。とりあえずは無事だったか···」
「次にダイナモの町ですね。先日スタンピードに襲われましたが、なんとか撃退できました。あと、周辺から避難してきている人たちが多すぎて困ってるようでしたね」
「さすがはアノド様が創られた町だな。国には属していないが、国に近い形態の町だ。しかし···、受け入れきれないほどの難民が押し寄せているのか···。どこの町なのだ···?まさか···?いや、ありえない···」
「あと、ボクたちが本来行こうとしていたのがボードという町だったんですけど···、道中の町や村はすべて滅ぼされてましたね···。その先でボクたちは道に迷っちゃって···。そして休んでたのがアスと出会った川岸なんですよ」
「そういう事だったのか···。アスは運がよかったとしか言いようがないな。ライくんたちが道に迷ってなかったらと思うと···」
「そうですね。···あっ!もしかしたらアスがボクたちを迷わせたのかもしれないですね!」
「ちょっとライ!?わたしはそんなことしないわよ!?」
「ああ!ごめん!そういう意味じゃなくって···」
「もう~~!!」
「本当にごめん!ボクはアスと出会えて本当に良かったって思ってるから!」
「えっ!?ちょ、ちょっと···。い、いきなりそんな事言われても···」
あれ?アスの顔が真っ赤になってこっちを向いてくれなくなっちゃった···。顔が真っ赤になるほど怒らせちゃったよ~!
「ははは!そうだな。アスがライくんたちを迷わせたのではなくて、神様がライくんたちを導いてくれたのだろうな!そういう事にしておきなさい」
「も、もう~!パパまで!」
「ははは···」
あながちリークさんの『神様が導いた』ってのは当たってるんだけどね···。神器のスマホを見て決めたことだったからなぁ~。
そんな情報交換をして、夕食会はおひらきとなった。明日も忙しくなりそうだから、今日も早く寝るとするか!おやすみ~!
···ライくんと情報交換をしてわかったことがある。
想定していた以上に、状況は悪化していたようだ···。ここ最近、魔獣の発生頻度が上がっていたのだ。
この町はゲートの国に属している。月1度は状況報告と本国からの指示をやりとりしていたのだが···、ここ3か月ほど途絶えてしまっているのだ。
町からは信頼できるBランクのベテラン冒険者パーティーにいつも依頼して書状を送ってもらっていたのだが、戻ってこないのだ···。本国で何かあったか、その道中で何か発生したのか···。
ダイナモの町で受け入れきれないほどの難民···。その数を考えれば、ゲートの国が滅ぼされた可能性が高いのだ···。
そうなると、なにかあって救援依頼をしても来ないということになってしまう···。この町は強固な防壁で耐えている間に本国から応援を送ってもらって対処する方法を採っていたからだ。
しかし、今回はその防壁の門があっさりと壊されてしまって被害が出てしまったのだ···。冒険者たちが尻込みするのは、『防壁があるから大丈夫』との考えがあったからだろうな。こればかりは仕方ない。
この町のピンチに偶然来てくれたライくんとテオくんには本当に感謝だ。だが、いつまでも頼るわけにもいかない。あの子たちの人生を、私たちの都合で縛るわけにはいかない。なんとかせねばなるまいな···。
この時代では情報伝達方法が冒険者による書簡か行商人ぐらいしかありません。
しかも魔獣の襲撃が非常に多いので、無事に届く保証がまったくないんですね。
そのためにリークさんは本国であるゲートの国とのやりとりでいろんな情報を仕入れていましたが、それが途絶えてしまったために、まったく情報が入ってこない状況だったんです。
そのためにライくんから聞いた話に驚いてしまったんですね。
ちなみにゲートの国はすで滅んでいます。第1章の最後でアノドさんが言っちゃってるんですよね。そのため、リークさんの懸念は合ってるんです。ここから先はこの町の戦力だけで自衛をせざるを得ないということなんです。
ただ、この町はかなり防壁が強固なので、そう簡単には滅ばないようになっています。ほかの町に比べれば環境はまだいいほうなんです。
さて次回予告ですが、翌朝にギルドへ魔獣討伐の報告に行くと、受付のお姉さんの様子が話していくとどんどんおかしくなっていきますよ!?いったいどういうことなの!?とライくんは戸惑ってしまいます···。
明日は祝日なので朝と夜に1話ずつ投稿します。お楽しみに~!




