1‐21.賢者の遺産の知識が語りかけます···
このダイナモの町にもあの黒い雲がやってきた!
黒魔力嵐···。雨が降りやむと、その地にスタンピードが発生して町を壊滅させてしまう···。ボクの村でも起こってしまった災厄が、まもなくこの町にも訪れようとしていたんだ!
ボクはテオに乗せてもらって、飛んで北門へ向かった。避難民の人たちも片づけをして逃げる準備をしているようだった。
ボクはその場所に降り立った!みんなドラゴンが襲ってきたと勘違いしていたけど、テオが人型に戻ったら安心していたよ。
「急にどうしたんだい!?スタンピードがやってくるって聞いたよ!」
「ええ!あの黒い雲、雨を降らした後にスタンピードが襲ってくるんです!ボクの村もそうでしたから、魔獣はこの北門から入ってくる可能性が高いです!皆さんは急いで南へ逃げてください!」
「わざわざ知らせに来てくれたんだね!ありがとう!しかし···、逃げたここにもスタンピードが押し寄せるのか···。もう、安心して住める場所は···、ないのかもね···」
「···大丈夫です。今回のスタンピードはボクたちで食い止めます!」
「無理だ!うちは大きな国だったが、軍隊があっという間にやられちまったんだぞ!?かなうわけがない!」
「そうだ!キミたちも逃げるんだ!」
「いいえ!···ボクが倒せる分だけここでやります!危なくなったらテオに乗って逃げますから!ボクのことは心配しないで、急いで南へ!」
「···死ぬんじゃないよ?無理するなって言っても聞かなさそうだしね···」
「ごめんなさい···。ボクは死にませんから!」
避難民の人たちはゆっくりながらも南へ向かっていった。あの雲、近づいて来ているものの、あんまり速くなさそうだ。その分避難の時間に余裕はありそうだ。
ボクたちがテントを張って休む準備をしていると、今度は外壁の兵士さんたちがやってきたよ。
「キミ!こんなところで何をしているんだ!?」
「あの黒い雲が雨を降らしたらスタンピードがやって来ます。ボクたちはここでテントを張って雨宿りして、止んだらスタンピードを迎え撃つんです」
「まさか···、あの雲がそうなのか!?だとしてもキミたちだけでスタンピードに立ち向かおうというのか!?」
「はい。可能な限りここで間引いて、まずくなったらすぐに逃げます。ですから、ここにいさせてください!」
「···そうか、キミたちだな?先日町長とここに来ていた子は···」
「はい、そうです」
「···テントなんて片付ける時間も惜しいだろう?外壁の休憩所を使いなさい。それと、どうせ迎え撃つなら外壁の上からの方が安全だ」
「えっ···?」
「我々としても、こちら側から来るなら応戦せねばならん。しかし、配備されている兵士は少ないから足止めすらならんと思われる。キミたちがそこまで言うのなら、共に戦ってくれ」
「···わかりました。できる限りやってみせます!」
最初は門の外でやりあうつもりだったけど、壁の上から狙えるならありがたい!できる限り倒しまくってやる!
ボクたちは外壁の上に移動した。まだ雲はここまで達していない。思ったよりも動きが遅いのかな?
『雲の位置からすると、日付が変わるころにやってきそうだね』
「えっ!?誰!?」
「どうした、ライ?」
「テオ、今、声が聞こえなかった?『あの雲、日付が変わるころにやってくる』って」
「いや?聞こえないぞ?」
『これは賢者の遺産の知識がライくんに語りかけているんだ。キミ以外は聞こえないよ』
「えっ!?遺産の知識が···?」
「賢者の遺産の力なのか!?」
「そうみたい···」
どうやらボクの頭の中だけに遺産の声が聞こえるようだ。これってアキさん···?
『その通り。ライくんに原則、命の危機がやってきそうな場合は緊急としてアドバイスさせてもらうよ』
「は、はぁ···。でも、どうしてそこまでわかるんですか?」
『雲の高さがある程度わかれば、見える角度から計算できるんだよ。このままの速度なら、深夜から早朝に雨が降る。スタンピードは夜明けとみて間違いなさそうだ』
「すごいですね···」
『さすがに幼いライくんにはすべての知識は理解できないからね。わかる部分だけ少しずつ公開していく仕様だ。雲の動きは天気予報アプリで把握できるから、そっちも活用するといいよ。今日は早めに寝なさい。そして···、無理しないようにね』
「はい!ありがとうございました!」
「ライ?遺産はなんて言ってたんだ?」
「日付が変わるころから雨になって、夜明けあたりにスタンピードがやってきそうだって。早めに寝てって言ってたよ」
「すっげぇな~!なら、支度を整えてから早めに寝るか!」
「うん!明日はお寝坊厳禁だよ!」
「さすがに命がかかわるような時は起きるって!!」
その後、ボクは門番の兵士さんにも明日夜明けにスタンピードがやって来そうだって伝えておいた。半分信じてくれなかったけど、とりあえず明日に備えるようだったよ。
ボクたちには予備の部屋を用意してもらえた。ベッドとかもないけど、無限収納カバンにはふとんも入っているから問題なかった。
「テオ、おやすみ。明日はよろしくね」
「ああ。しっかり休んでおけよ、ライ」
さあ、明日は村のみんなの···、父さんと母さんのカタキを取るよ!見守っていてね···。
「来たぞーーー!!!」
翌朝、兵士さんの声でボクは目覚めた!テオも同時に目が覚めて起きたよ!
「テオ!」
「ライ!ちょっと待て!軽く朝食を食べておくぞ。戦いだしたら飲食はできないからな!」
「そんなこと言ってる場合じゃ!」
「落ち着け!まだスタンピードがやってきただけだ。壁が壊されたわけでもない。多少は時間がある。そのうちに準備万端にしておくんだ!何も道具だけじゃない!自分の体調の準備だって大事なんだぞ!」
「···わかった。すぐにカバンから出すね!」
「おう!がっつりいくやつで頼むぜ!」
「じゃあ、この前屋台で買ったお肉の串焼きで!」
「おっ!?わかってるじゃねえか!さすが相棒だぜ!」
食べ終わってから鎧を着こみ、ボクたちは壁の上に上がった!
目の前には···、足の踏み場がないほどの魔獣たちがすぐそこまで迫っていたんだ···。
「テ、テオ!これが···」
「ああ!スタンピードだ!どうやら中規模クラスっぽいな···。数は7000前後だな···」
これで中規模···。とにかく、数を減らさなきゃ!
『待った!まずは落とし穴を掘って足止めするんだ!それを乗り越えてきそうなら、遠距離魔法で大群の前方の敵を薙ぎ払うように撃つんだ!そうしたら将棋倒しが発生して進行が遅くなるし、後方の魔獣の勢いである程度が踏みつぶされるよ!』
「あ!?アキさん!」
『あと、外壁に取りつかれたら下にいる魔獣を踏みつぶして魔獣自身が山となって壁を乗り越えてくる!そうなる直前ぐらいでテオのブレスで外壁の側面から撃ってもらって!この繰り返しでいけばいいよ!』
「ありがとうございます!さすがアキさんだなぁ~。テオ!」
「おう!」
「まずは落とし穴を掘って、さらに遠距離攻撃で集団の一番前を狙って薙ぎ払うんだ!それで速度が落ちるって!」
「それ、遺産の知識だな?」
「そう!あと、壁に魔獣が張り付いたら壁ギリギリでブレスを撃って!乗り越えられる前に潰しておきたい!」
「なるほどな!任せとけ!」
アキさんのアドバイスを受けて、ボクたちはこれから攻撃開始だ!
今回は緊急ということで賢者の遺産の核であるアキくんの残留思念がライくんに語りかけてきました。
こういったアドバイス機能もあるんですが、この先では緊急じゃなくても『条件が揃えば』緊急でなくても出しゃばってくる事があります。となると、ライくんは思いっきり独り言言ってる形になってしまうんですけどね(笑)。
さて次回予告ですが、ついにスタンピード本隊が到達してしまいます!
非常に少ない戦力でどのように応戦するのでしょうか!?
それではお楽しみに〜!




