8-22.アエスVSムクス 後編
「当たり前だ。溶かしたのは私じゃないからだよ」
『なにっ!?』
「この通りちゃんと生きてるよ。さすがにマズいと思ったのは本当に久しぶりだったよ。ここ最近はここまでピンチになった事がなかったから思いっきり焦ったね」
『ばかな!?なぜ生きている!?確かに溶かした感触はあったぞ!?』
「確かに溶かしていたねぇ~。でも、それは本当に私だったかい?」
『なんだと!?間違いないはずだ!確かに貴様を溶かした!入れ替わる余裕などなかったはずだぞ!?』
「確かにあの攻撃はそんな余裕なかったね。私自身も本当にびっくりだ。上には上がいる。どんなに強くなったと言っても、相性というのが必ずあるものさ。相性が悪ければ、どんなに強くても負ける時は負ける。だからこそ、『驕りを持たずに常に真剣に相手をしなければならない』。ご先祖様が遺した言葉だよ」
『ならばなぜ!?』
「答える義理も義務もないね。なぜならあんたはもう死んでるからね」
『なっ!?ははは!でたらめを言いおって!それとも狂ったか!?』
「いいや?でたらめでも狂ってもないさ。事実だよ。そろそろかな···?」
『なに!?うっ!?がぁあああーーーー!!』
ヤツの体が崩壊を始めたね。ベスティアリッターなんて名乗ってるだけあって、非常に強敵だった。私が相手だったから良かったものの、サムだったらおそらく勝てなかっただろうね。
とは言っても、私にとっても相性は最悪だった。たまたま運が良かったとしか言えなかったね。
『なぜだぁ!?オレの体が崩れていくーーー!!貴様ぁ!何をしたぁーー!!』
「何って、コレを取っただけだよ」
『それはオレの核!?いつの間に!?』
「アンタが私を取り込もうと囲んだ後だよ。ずっとこれの場所を探していたんだけど、あの時にアンタ自身か囲んだ分体のどちらかに核があると思ってたんだよ。予想通り私を取り込む分体に隠していたんだね?」
『ばかな!?無数ある分体から核を見つけ出しただと!?』
「暗殺者をなめるんじゃないよ?対象を見定めるのは得意分野さ。なんせ、私らは分身を使うからね。ただ、あまりにも数が多すぎて探し出すのに本当に苦労したよ」
『溶かした感触すらあったのに···』
「ははは!核が私の手元にある以上、視覚とかの感覚はすべて狂わせることが可能さ。今こうやって話ができるのも、私が核に魔力を加えて『死んでるにも関わらず生きてるように思わせる』ようにしているからだよ」
『すべては貴様の手のひらの上だったということか···』
「そうでもないさ。あくまで結果論だよ。もうちょっと巧妙に核を隠して見つけられないようにしていれば、私は死んでたさ。少しだけ運が良かったっていう事さ。確かに強敵だったよ」
『無念···。この能力さえあれば···、永遠に生きながらえれると思っていたのに···』
「永遠だって?バカ言っちゃいけないね。永遠の命だなんて、それは魂の牢獄だよ。いつまで経っても終わらないという地獄のね」
『貴様にはわかるまい···。オレがこれまでどのように生きてきたのか···。そして、人生にどれだけ絶望したのか···。この力を得て···、人々に復讐し···、やっと幸せになれると思っていたのに···』
「他人の人生なんてわかるわけないよ。ただ、これだけは逝く前に知っておきな。他人の人生を踏みにじってまで生きた人生なんて、本当の幸せになれるわけないってね」
『ああ···。こんな結末になるとは···』
私は核を握りつぶした。ヤツの体は液体となって周辺の土を溶かしながら消えていったよ。
本当に間一髪だった。核を見つけ出せたのは運が良かったとしか言いようがなかったんだ。
あの時、核を奪い取ってすぐに土遁の術で地中へ逃げ延びれた。そしてそのままヤツの背後の地下に潜ったままで待っていたのさ。
その間に核をいじってやった。だから視覚などの感覚が狂わされて、私がヤツの体に取り込まれたと見せかけてやったのさ。
だから取り込んでも何にもないのさ。スライムは溶かした養分で生きている魔獣だ。さすがに消化器系はいじれなかったから気づかれちまったけどね。体全体をいじるのにはさすがに無理があったんでね。
これが種明かしさ。ちょいとサムでは無理だっただろうね。私が相手で良かった。
しかし、バカなヤツだ。話からすれば相当の地獄を体験していたようだね。だからこそ、魔獣同化能力なんて力に魅入られてしまったんだ。
ただ自分が幸せになりたいという思いだけで多数の人生を不幸においやってしまった。そんなヤツが幸せになりたかっただって?自分勝手にもほどがあるというもんだよ。
さてと···。どうやら戦いは終わりが近いようだ。あれだけたくさんいた魔獣たちは、ドラゴン族によって殲滅間近といったところか。
それじゃあ私は仕込みに戻るとするかね。戦勝お祝いパーティーは相当に派手になりそうだ。今から準備しないと間に合わないかもね。
ムクスが見ていた景色、そして感覚は、途中からニセモノでした。核を発見したアエスさんが狂わせて見せていたんですね。
アエスさんが言ってた通り、どんなに強くても相性が悪ければ負けてしまいます。魔法だったら誰にも負けないぐらい強いって人が魔法反射や無効化できる相手に当たった時点でほぼ負け確定ですからね。
ここで物を言うのが経験なんですよ。どうやって切り抜けるか?を知ってるか知らないかで生き残る確率がぐっと上がるんです。
アエスさんの言う通り、ムクス相手にサムくんだったらまず勝てませんでした。そんなアエスさんが負けかけたのですから、今回は運が良かったとしか言えません。
昔あった某史上最大のクイズ番組でのキャッチフレーズは『知力・体力・時の運』でした。戦闘においても同じ事が言えるなぁ〜と、書いてて思いましたね(笑)。
さて次回予告ですが、ベスティアリッター最終戦です!
合体変身したライくんとサクス総帥の激闘です。
最大威力の魔法と剣技で戦うライくんですが、攻撃すればするほどサクスの防御は固くなる一方で、打つ手がどんどんなくなっていきます。
もはや打つ手がない!そんな時、賢者の遺産が『こんなこともあろうかと』と考えていた策をライくんに伝えます。果たしてこの策は通用するのでしょうか!?
明日でラストバトルは終了です。読んでて疲れたかもしれませんが、それも明日で終わりますよ。
明後日の日曜からはエピローグに入ります。16日の最終回まで1週間切りました!最後までお付き合いいただければ幸いです。
それではお楽しみに〜!




