8-10.数の暴力 その2
魔獣たちの猛攻は1昼夜続いた。
夜になってもその勢いは衰えず、ボクたちと交代したアエスさんたちも疲労困憊といった状態になってしまったんだ···。
「まさか、連中はこの大陸にいるすべての魔獣をかき集めたんじゃないだろうね?」
「その可能性もあるな···。それに、黒魔力嵐があった直後だから、突然湧いてくる魔獣までいやがる」
「加えてこちらの大魔法の反動で発生する黒魔力もかなり多いわね···。あらかじめこうなるように仕向けてたのでしょうね」
「クソー!ヒーローのようにカッコよくやっつけられねえ!数が多すぎんだよ!」
現在は白銀竜の皆さんが防衛にあたってくれている。あちらは3交代制になってるので、それなりの戦力ではあるね。
今は壁に貼り付いた魔獣に対してブレスを放ってもらってる。魔獣の亡骸処理も込みでね。
そして戻ってきたアエスさん、エムスさん、ヴィンターさん、レンが戦闘の感想を言ったんだよ。
ここまでの戦闘で倒した魔獣はすさまじい量になっていた。そのせいで夕方になって腐敗臭が強烈になってきたので、攻撃は主に火魔法で行なっているんだ。
さらに倒した魔獣で状態がいいのがゾンビ化して復活してきたんだ···。どうも亡骸に黒魔力が大量に入るとゾンビ化してしまうらしい。
どうもマイカ村周辺は、戦闘前の黒魔力嵐のせいで普段以上に黒魔力の濃度が高いみたいだ。
加えてボクたちの大魔法は黒魔力が発生するレベル以上に高火力で撃たざるを得ない状況なので、黒魔力がなかなか減らないという状況に陥っていたんだ。
魔獣が発生したら黒魔力は減るんだけどね。魔獣を倒す魔法を高火力で一気に倒すしか、今のところは手立てがないんだよ。
「とりあえず、食料はまだ相当にある。壁も世界一の強度だから、籠城戦はまだまだできるよ。ただ、魔獣の亡骸で川が汚染され始めているね。飲料水はタンクにまだあるから、とりあえずは大丈夫だよ」
「ただなぁ〜。環境がひどいぜ···。連中もおれたちが倒した魔獣を食ってやがるから、向こうも食料に困ってる様子はねえな」
「完全に持久戦ね···」
「こっちから撃って出れないのが悔しいぜ···」
アエスさんからは食料の話が出たけど、備蓄している量はかなりあった。燻製とかして保存食をたくさん作っていたし、ボクたちの無限収納カバンとかにもたくさん入ってる。ウインはアレバくんのパンが大量に入ってるようで、今もハムハムと食べてたよ···。
壁も今のところは問題ない。そこそこ流れのある掘りもあるので、魔獣の亡骸を足場にしてってのは不可能だ。下流の湖が汚れてしまうけど、こればかりは不可抗力だ。アエスさんの話によると上流も汚染が始まってるそうで、取水は当分できなくなってるけどタンクが大きいからまだ余裕はある。
そもそもオリハルコン鉄板は魔法を吸収してから反射し、物理攻撃でもほとんど傷がつかず、さらにはその傷もしばらくすると自動修復してしまってたんだよ···。
これはとんでもないものを作っちゃったなぁ〜。もちろん、こうなると考えて作っていない。『頑丈になるかな?』ってぐらいで実験してないんだよね。それまでにハイパースタンピード発生しちゃったし。
魔獣襲撃2日目···。
「おい、ライ?」
サムから声をかけられて振り向いた。
「どうしたの?」
「作戦は昨日のままでいいな?」
「そうだね。大規模殲滅魔法でとにかく数を減らす。可能な限り火魔法で攻撃ってことで!」
「わかったぜ。みんなもいいな?」
「いいわよ!」
「···ん」
「ぼくは昨日と同様で空から状況分析しますね」
トルムは昨日と同様に空から偵察だ。と言っても、昨日は鳥系魔獣の相手でそれどころじゃなかったみたいだけどね。
「よし!それじゃあ行こう!今日も頑張って退治するよ!」
「「「「おう!!」」」」
今日の戦闘場所はローテーションした。同じ場所での戦闘だと苦手な魔獣が残ってたら大変だからね。
今日はウインが戦っていた場所を担当した。···うわぁ〜。魔獣が壁に貼り付いてよじ登ろうとしてるよ。
でも、オリハルコン鉄板にツメを立ててもキズつかないから登ることができなかったよ。これ、オリハルコン鉄板巻いてなかったらマイカ村はもたなかっただろうなぁ〜。
「よし!テオ!今日もよろしくね!」
「おうよ!ただし、ムリは禁物だぞ!ムリしそうになったらすぐに止めるからな!」
「うん!ありがとう。それじゃあいくよ!せーの!」
「「インテグレーション!!」」
戦闘は昨日と同様だ。黒魔力が発生することも織り込み済みで大規模殲滅魔法をバンバン撃ちまくった!
そして、その日の昼過ぎには魔獣の最後尾が見えてきたんだ。その時点でボクはアエスさんと交代したんだ。
ボクが家に戻ると、疲労困憊のみんながぐったりしていた。そこで、ボクはみんなに温泉に入ろうと声をかけて温泉にやってきた。偵察に出ているトルムはまだ戻ってきてなかったよ。
「さすがにこれはキツイわ···」
「···うんざり」
女湯から壁越しにコルメとウインのグチが聞こえてきたよ。それにサムが返した。
「ホント、いい加減にしてほしいぜ···」
「でも、最後尾がボクのところでは見えたよ。明日には決着つくんじゃないかな?」
「おい、ライ?決着はまだだぞ?」
「え?どういう事?」
「ベスティアなんとかってのがまだいるかもしれねえぞ?出てくるなら一番最後だろうけどな」
「あ!忘れてたよ···」
サムの指摘に、今度は女湯から意見が出たよ。
「疲労困憊状態で戦いたくはないわね···」
「···それも作戦」
「でしょうね。となると、早くて明日の昼過ぎあたりを狙ってくるかしら?」
コルメの予想は明日···。確かにもう魔獣が残り少なくなってきてるから、ここらあたりを狙うかもしれないね。
「今日も早めに休もう。しっかり休んで最高の状態で挑めるようにね!」
温泉を出てからゆっくりとアエス産のお弁当をいただいて、すぐに休むことにしたよ。
···事態は思ってた以上に速く動いた!
ボクたちが寝入った直後にトルムが慌てて帰ってきたんだ!
「皆さん!大変です!」
「···ん〜〜?···トルム?···どうしたのさ?」
「魔獣の···、援軍が来ました!数は···、今と同様の50万はいるかと···」
「···えっ!?」
「マジかよ!?」
ボクもテオもびっくりだったよ···。第2陣が来ただなんて···。しかもこれまでと同数···。
「とにかく、まだ近づかれてないならしっかり休んで明日対応しようトルムもゆっくり休んで」
「はい。···かなりマズい状況ですが、頑張るしかないですからね」
こんな話を聞いた後でゆっくりは眠れなかったよ···。でも、体はゆっくりさせてもらったよ。
魔獣襲撃3日目···。
外輪山の頂上全周には第1陣と同様に魔獣たちで埋め尽くされていた。しかも、今回は武器を持った魔獣が非常に多い!昨日までよりもかなり苦戦を強いられそうだ···。
若干弱気になっていたその時!朝日の方向から何かがこっちに向かってきた!
「あれは···?赤竜のみんな!?」
「ライ!頂上にいる魔獣たちが吹き飛ばされてるわ!」
コルメがそう言ってボクが振り返ると、頂上付近の魔獣が一直線に吹き飛ばされているのが遠目に見えたんだ!その光景を見た直後に『ゴーーーーー!!』というすごい音がしたんだ!
「あれは青竜だな!超音速飛行ってやつの衝撃波で吹っ飛ばしたんだ!」
サムは知ってるようだね。ボクは青竜は浮遊大陸で見た程度で、戦ってるところは見たことなかったよ。
さらにほかの方向からもドラゴン族の集団が集結してきた!
ここから、今回の戦争の大規模な戦闘が始まる!
持久戦に持ち込まれると、体力的にはもちろんなのですが、精神的にやられていきます。終わりが見えない仕事をやってる時のように心が荒んでくるんですよね。···思い出したくもない仕事を書いてて思い出しちゃいましたが(笑)。
ですので『これで終わりだ〜!』と思わせておいてまた大量に魔獣たちが現れた時の絶望感はハンパないでしょう。ちょっといじわるしてしまいましたがご安心下さい!ちゃんと助っ人用意してましたからね!
さて次回予告ですが、次々とドラゴン族の皆さんが駆けつけてくれます!中には戦闘に向かない人もいますけど、後方支援にあたってくれます。後方支援も大事ですからね。
一方、ベスティアリッターたちは攻めきれない状況となっている事に不満を示します。作戦変更するようですよ?どうするのでしょうか?
それではお楽しみに〜!




