8-8.アエスさんの最大の後悔
「はあっ!はあっ!」
『ライ!もう限界だ!いったん休憩するぞ!』
「はあっ!はあっ!ま、まだだよ、テオ!まだまだ···、やれる!!」
『気持ちはわかるが、いったん退け!今の状態でベスティアなんとかってのが出てきたらやられるぞ!?』
「くっ!」
長時間戦闘した。テオとの合体変身を限界まで使い、変身が解けた後も『なりきり!伝説の神狼族セット』の力で限界まで戦い続けたんだ。
体力も魔力も底をついたその時だった!ボクの後ろにはエムスさんがいたんだ。
「よくやった!あとはおれ任せて、ゆっくり休みなさい」
「エムスさん···」
「ライくんの本当の出番はこの後にあるのだ。それまでザコは駆逐するからな」
「わ、わかりました···。よろしくお願いします」
ボクは『なりきり!伝説の神狼族セット』を外した。すると、とてつもないダルさが襲いかかってきたんだ!
「うっ···!?」
倒れようとするボクを、テオが受け止めてくれたよ···。
「おっと!?ライ!ムチャしすぎだ!合体変身してさらになりきりセット使ってなんて無茶するからだぞ!?」
「ご、ごめんね···。思ってた以上に疲れちゃってたね···」
「まったく···。オレがおぶってやる」
「ありがとう···」
そのあとすぐにボクは意識を手放しちゃったよ···。大魔法を連発して、魔石で魔力を全快にしてまた大魔法を連発して···。
魔石のおかげで通常の限界の倍以上の時間変身し続けていたんだよ。どうやらムリがあったみたいだね。
ボクをかついだテオがボクの家に着くと、アエスさんがいたんだ。
「思ってた以上に頑張ったようだね。ゆっくり休ませておやり。私はサムと交代してくるよ。弁当は食堂にたっぷり用意しておいたから、食べれそうなら食べとくんだよ」
「おう!心配かけたな」
「ははは!若いうちは何かと無茶をするものさ。自分の限界ってのがわかってないからね。でも、ちゃんとテオが止めてくれたんだね。···それでいいんだよ。止めてくれる人がいなかったら、命を落としかねないからね···」
「···ん?その言い分だと、何かあったのか?」
「まあね。私の人生の最大の後悔さ···」
アエスさんは神妙な顔になっちゃったようだ。テオは何かあると気づいてそれ以上聞かないことにしたんだけど、アエスさんは語り始めたんだ···。
「···いい機会だ。テオには話を聞いてもらおうかね。私の···、懺悔を···」
「············」
「私にはね、もう1人子どもがいたんだよ」
「···え?」
アエスさんからはとんでもない話が出たんだ···。サムには···、お兄さんがいたんだって···。
「サムが生まれる前の話さ。とてもいい子だったよ···。とても強くて···。ある日、修行ついでに一緒に地上に降りたのさ。どんなに修行して実力をつけたとしても、実戦で使えなければ意味がないからね」
アエスさんが語りだした。それを止めることはできない。テオは何も言わずにアエスさんの話を聞いたんだ。
「ある時、あの子は言ったんだ。『母さんと一緒じゃなくて、ぼく一人でやってみたい!』ってね。私は了承したのさ。けれども、この判断は誤りだったのさ」
「何があったんだ?」
「スタンピードさ」
「スタンピード?それぐらい、サムでもどうとでもしたぞ?」
「そう、サムにはそれができるように修行させたからね。でも、あの子にはそこまでやれていなかった···。自分の力を過信して無謀にも立ち向かってしまったのさ。···いつまで経っても戻ってこなかったので様子を見に行ったら···」
「············」
「知ってのとおり、神狼族はトランスという能力がある。使いこなせれば地上最強なのは間違いない。しかし···、使いこなせなければ意味がない。あの子は···、途中で力の制御ができなくなって暴走してしまい、最後に自爆してしまったのさ···」
「なっ···」
「この時、私は知ってしまったのさ···。『強さとは、生き残ろうとする意思だ』とね。どれほど優れた力を持っていても、使いこなせないのなら···、生き残れないなら···、それは強さではないって···。あの子にはそれを伝えれてなかったのさ」
「············」
「あの子は確かに強かった。けれども、それは修行における強さだったってことさ。実戦では弱かった···。それを見抜けなかった私は···、最低の親だったんだよ」
「···だからサムには厳しいのか?」
「そう···、だね。サムが生まれてからはあの子のようにならないように、厳し目に修行をしてしまったと思うよ···。サムは···、私が思っていた以上に才能があった。強さがあったのさ。結構サボり癖があるけども、裏返せばサボっても問題ないってことさ」
「なるほどな。サムは兄貴を知ってるのか?」
「いいや。話してすらいないよ。でないと、サムはあの子の代わりって思われかねないからね。そう思われた時点で親子関係は崩壊してしまう。愛情は2人とも同じだけど、これについては言葉を間違えると取り返しがつかないしね」
「確かにな···。でも、この戦いが終わってからだったら、真実を打ち明けてもいいんじゃねえか?」
「···そうかい?」
「ああ。サムだって、もう一人前だと思うぜ?それに···、サムを好きな娘もいるみたいだしな!」
「そうかい。じゃあ、私に結婚の報告をしに来た時にでも話すとしようかね」
「それでいいんじゃねえか?」
「ははは!···テオ、ありがとう。私のモヤモヤがスッキリしたよ。そんじゃあ、サムと交代してくるよ」
「おう!」
そう言ってアエスさんは出ていったよ···。その姿は晴れ晴れとしたそうだよ。
「はぁっ!はぁっ!クッソ!お前ら、しつけぇんだよーー!!」
まったく!数の暴力とはよく言ったもんだぜ!大魔法を連発してるってのに、次から次へと襲いかかってきやがるぜ···。
まぁ、壁に到達したとしても破壊することはほぼできねえけどな。でも、だからといって近づけさせるわけにはいかねえからな!
それでも相当な数をやった!始祖様はこれと似た状況をたった一人で殲滅したって話らしいが、とんでもねえバケモンだぞ!?母ちゃんでもさすがにキツイと思う量だと思うけどな。
「はぁっ!はぁっ!や、やべぇな···。もう···、限界だぜ···」
魔力は龍脈と共有状態だから問題ないが、オレ自身の体力が···、もう···、限界だぜ···。
そう思った瞬間、真のトランス状態が解けてしまった···!マジでヤベエ!倒れてしまう···。
バランスを崩して倒れ込もうとしたその時、誰かが背中を支えてくれた···。
「よくやったね!まさかここまで根性見せるとは思ってなかったよ!よくここまで真のトランスを使いこなしたじゃないか?」
「か、母ちゃん!?」
「ライもさっき交代してきたばかりさ。あんたもしっかり休みな。私が転送魔法で送ってやるよ」
「あ、ああ···。そうさせてもらうぜ···。悪いな、母ちゃん」
「ははは!今日は素直じゃないかい?いつもそうだといいんだけどねぇ〜。ほら!」
そう言ってオレは母ちゃんに転送させてもらった。食堂には母ちゃんの弁当が山のようにあったので、それを食ってから寝させてもらったぜ···。
「ふふふ···。サムがここまでできるようになったなんてねぇ〜。親として嬉しいやら寂しいやら···。さあて···、これまた相手さんは奮発してきたねぇ〜。でも···、数の暴力程度で神狼族を倒せるなんて、100万年早いよっ!!」
アエスさんはこの後大暴れしちゃって、サムが交代しようとした時にはもう魔獣がほとんどいなくなっちゃってたそうだよ。
アエスさんがサムくんに厳しい理由が明らかになりました。
アエスさんも言っていますが、神狼族は最強の戦闘種族です。ですが、最強と一言で言っても全戦全勝とはいきません。力でゴリ押しが効かない相手もいます。
しかも強大な力の制御、そして龍脈の莫大な魔力の制御が必要です。力があっても使いこなせなければ意味がないのです。
サムくんのお兄さんは使いこなすことができなかったんですね。ですので暴走してしまったんです。
いかに制御するか、そしてあらゆる戦況に応じて分析して手持ちの手段から最適なものを選択する。これができて初めて最強と言われる力を手にした事になるんですね。
そういう意味ではサムくんのほうが強いです。バカでドジっ子ですが、押さえるべき点はちゃんと押さえてます。要領がいいんですよね〜。
だからサボれる余裕ができるんです。余裕があるからピンチでも対処可能なんですね〜。作者も仕事ではこうありたいですが、現実は残酷です···orz
さて次回予告ですが、魔獣の数の暴力が徐々に優位に立ちはじめます。頑張って追い払ってるウインちゃんとコルメちゃんに交代要員が来てくれますよ〜!
そしてオリハルコン鉄板付き防壁がついに活躍します!
壁の活躍ってどういう事だよ!?と思われるでしょうね。どんな活躍かはお楽しみに〜!




