7-21.黒魔力についてふと考えてみた
おなかが空いて立ち寄った町で出会った町長のブロンデルさんに農業指導をしてもらうようお願いして、了承してくれた。
これでマイカ村の農業はさらに良くなるだろうね。無限収納カバンに入っていた魔石1個が、こんな価値になっちゃうとは思わなかったよ。
あの後、さすがに1個だけってのもちょっと···、って思ったので10個渡しておいたよ。どうも肥料作成にはかなりの魔力が必要らしく、増産が厳しかったようなんだよ。ボクの魔石であっさりと問題解決したので、ブロンデルさん以外の人たちも大喜びだった。
さて、ボクたちは昼食を終えて再びテオに乗せてもらって浮遊大陸の遊覧飛行をさせてもらったよ。
「テオ?こうして見ると、浮遊大陸って不思議な場所だよね?雨はそんなに降らなくても川や湖があるし、自然が豊かだし作物もおいしいものが採れるし」
「そりゃ神が地上の人々の避難先として創った大陸だからな~」
「でもこの世界も神様が創ったのに、地上はあんなに荒れてるんだよなぁ~。同じ神様が創ったのに、どうしてここまで差が出ちゃったんだろう?」
「さあな。そもそも魔獣は黒魔力から発生するんだよ。黒魔力は魔法を使ったら、使った魔力量に応じた分だけわずかに発生するもんだ。浮遊大陸ではそこまで大規模な魔法は使わねえから黒魔力が発生しにくいのかもな。まぁ、コルメはバンバン使って怒られてたらしいけどな」
「地上だと魔獣を倒すのに大規模な魔法をバンバン使っちゃうもんね。いつもその後に発生する魔獣も倒してるからね」
「黒魔力は自然分解もできるが、その量にも限度があるからな」
浮遊大陸をこうして見た感想から、ちょっと話がそれちゃったね。でも、そう考えると魔獣被害を抑えるには新規に発生する黒魔力を減らしてしまえば少しずつ減るってことになるね。
となると、減らす方法としては
・魔法を使わない
・黒魔力の自然分解能力を高める
って事になるね。魔法を使わないってのはさすがに無理があるよ。何をするにしたって魔法を使わないといけないからね。非常に便利な反面、黒魔力発生のデメリットがどうしても生じてしまうんだよ。
一方の黒魔力の自然分解能力···。そういえば、どうやって黒魔力は自然で分解されてるのだろうか?···どうも賢者の遺産の知識にもないみたいだよ。アキさんも知らないってことか。
もしこの仕組みが解明できたんだったら、黒魔力を分解する魔道具ってのも可能になるかもしれないね。そうなれば魔獣被害を抑えることも可能なんじゃないかな?ふとそんな事を考えてしまったんだよ。
「テオ、改めて考えてみると黒魔力の事って知らない事が多いね」
「そう言われると確かにな。でも黒魔力に限らず、世の中知らない事の方が多いんじゃないか?」
「そうだね。ボクには賢者の遺産の知識があるけど、黒魔力についてはテオが言った以上の事はわからなかったよ」
「賢者って呼ばれたアキさんだってそうなんだな~。ライ?あんまり深く考えるなよ?オレたちはオレたちにできる事をやればいいんだからな」
「うん。ありがとう、テオ」
そんな話をしていたらサムの実家の近くまで戻ってきていたよ。今日の夜の居酒屋営業はするってタースさんは言ってたので、ボクたちもお付き合いすることにしたんだ。
翌日···。
ホルテのリリスさんの家にやって来たよ。···昨日とは様子が全然変わってないんだよね。本当にあったのかなぁ~?
「リリスさ~ん!おはようございます!品物を受け取りに来ました~!」
「············」
···返事がない。昨日と同じならもうしばらくすると···?
ボコォッ!!
···やっぱりね。また腕が飛び出してきて、はい出てきたよ。
「やあ、おはよう。待たせてごめんね~。はいこれ」
「おはようございます···。え~っと、これ···、ですか?」
リリスさんが出してきたのはぐるぐる巻きにされた茶色い飴色の金属線と、よくわからない小箱が16個、それとふたがついた箱が4つだったよ。これが防壁を強化するのに必要なの?
「これはバリアと呼ばれる魔法障壁を張る魔道具さ。使用する魔石の魔力量によって張れる障壁の強さが変わるし、使用する魔力量も変わるんだよ。結構古いから家の一番奥のほうにあったから出すのに苦労したんだよ~」
「そうなんですね。あの~、古いって事ですけどちゃんと動くんですか?」
「多分大丈夫だよ。昔の魔道具って構造が簡単で非常に頑丈にできてたし、お手入れや部品交換がしやすい作りになってるんだよ。ホント、昔の人たちってよく考えて設計して作ってたんだなぁ~!って思うよ」
「へぇ~。今だと魔道具ってそんなにないですからね」
「浮遊大陸では魔石が入手しづらいからね。なんせこの大陸を浮かせるために莫大な魔力を消費しているから、魔石が生まれる環境じゃないしね」
「···え?魔石が生まれる?」
「知らないのかい?魔石ってのは魔力が一定以上溜まると行き場を失ってしまい、ある一定以下の魔力濃度にするために凝縮したものなんだよ。この浮遊大陸は嵐をまとっているのはこの大陸を浮かせるための魔力をかき集めるために、地上から魔力を吸い上げてる際に発生する副作用で上昇気流ができるからなんだ」
「えっ!?そうなんですか!?」
「そうだよ。だから魔石が生まれるほどの魔力はすべて浮遊大陸が使っちゃってるんだ」
「ということは、魔石は魔力を集めたら作れるんですね?」
「理論上はね。でも、人がいくら魔力を超圧縮してもそこまでには至れないんだよ」
「じゃあ、そういう魔道具を作れば···?」
「可能だけどオススメはしないよ。ヘタすれば龍脈爆弾と同様の事が発生するからさ」
「なるほど···。ちなみに黒魔力でも可能ですか?」
「···キミは物騒な事を考えるなぁ~。黒魔力も元は魔力だから理論上は可能だろうね。でも、制御に失敗すれば悲惨な事になるのは間違いないと思うよ?」
「確かに。貴重な情報をありがとうございました!」
「なんの!ペンタによろしく伝えておいてね~」
ボクたちはテオに乗ってサムの実家に戻ってきた。お昼をいただいてからマイカ村に戻る予定だ。3泊しちゃったから相当マイカ村から離れた場所に来ちゃっているしね。
「タースさん。お世話になりました!」
「お食事とお酒、おいしかったです!また来る時を楽しみにしてますね!」
「世話になったな!ありがとな!」
「なんのなんの!ワシとしてもサムとアエスが世話になっとるからおあいこだよ。それに店を手伝ってもらって本当に助かったよ。礼を言うのはこっちもだね。本当にありがとう」
「いえ、お礼を言われるほどじゃないですから」
「それも込みで楽しかったわ!」
「さすがに毎日はつらいけどな~」
「地上に戻ったらサムとアエスによろしく言っといてくれ。あと···、3人とも気をつけるんだよ。アスさん、ライくんをしっかりと支えてあげてね」
「はい!もちろんです!」
「あはは!アスには世話になりっぱなしですよ。それじゃあ、さようなら~!」
「ああ!また近いうちに会おうね!」
ボクとアスはテオに乗せてもらって浮遊大陸を後にした。浮遊大陸から離れたら、テオは一路西へ高速飛行魔法を使って飛び始めた。
浮遊大陸···。またお世話になっちゃったね。新婚旅行でやってきてよかったよ。
でも、タースさんの最後の言葉が気になるな···。『また近いうちに』って···。どういう意味なのかな?
黒魔力という設定は前作のアキくんの物語の初めに設定した、魔法を使う代償です。
魔法は非常に便利なんですが、その反面として黒魔力が発生し、一定以上溜まると魔獣が発生し、さらに黒魔力が集まりすぎると黒魔力嵐となってスタンピードが発生します。
ちょうど現代科学における二酸化炭素みたいなものですね。便利さや豊かさを追求すると代償があるようにしないとバランスが取れないと考えて二酸化炭素を元ネタに創った設定ですが、なかなか奥が深い設定になりましたね。
ちなみに黒魔力を集める方法はかつてありました。前作アキくんの続編に登場してますよ~。
さて次回予告ですが、第7章ラストのお話なので天国のアキくん視点です。ライくんの結婚シーンを見て、ライくんの両親はとても嬉しそうにしてますよ~!そんな様子をお届けしますよ。
明日は第7章完結なので本編を朝に、ネタバレ集を夜に投稿します。お楽しみに〜!




