7-20.ライ、農業指導をお願いする!
浮遊大陸の上空で遊覧飛行をしていた時におなかが空いたので、近くにあった町に降りて食堂に入ったんだ。
この町は農業が盛んだったので、食材が新鮮でとてもおいしかったんだ!そんな時にボクたちに話しかけてきたおじさんがいたので話をしていると、どうも肥料作りや作物の品種改良をしているとの事だったので、分けてもらえないか聞いてみたんだ。すると、町長さんに相談しろって言われてそうしようとしたら、食堂で酔っ払っているおじさんが町長さんだったんだよ···。
というわけで、ちょっと交渉してみることにしたんだ。話しかけてきたおじさんが仲介に入ってくれたよ。
「おい、ブロンデル!」
「お~?どうした~?若い子連れて~?」
町長さんはブロンデルさんというらしいね。顔を真っ赤にしてお酒を楽しんでいたよ。
「この子たち、地上から来たんだってよ。どうもうちの肥料と種が欲しいらしいんだが···、どうするよ?」
「···地上から、だと?」
「はい、初めまして。ボクはライと言います。マイカ村という村の村長をしているんです」
「ほほう?その幼さで村長とはなかなかじゃの~」
「あはは···。成り行きですけどね。うちの村はドラゴン族と神狼族の地上復帰の支援をしてるんですよ」
「ほう!?ウワサで聞いとるぞ!ついに悲願達成したとな。なるほど···。キミがその立役者ってところじゃな?」
「大したことはしてないんですけどね。それで、さっきのお願いなんですけど···」
「ふむ···。事情は承知した。···残念だがお断りさせてもらうぞ」
「え!?ど、どうしてですか!?差し支えなければ理由を聞かせてもらっても···?」
「簡単な事じゃ。渡してもいいが、おそらくはムダになってしまうじゃろうからな」
「ムダ···?どういうことですか?」
「ライ、だったか?キミは農業をしたことはあるか?」
「はい。親の手伝いで」
「どんな事をやったのじゃ?」
「草抜きと水やりですけど···」
「じゃあ、土づくりは?」
「やってないですね···」
「なら、今ライに肥料をやってもうちほど成功することはなかろうな。多少は良くなるじゃろうがな」
「もしかして···、土と肥料の相性···、ですか?」
「ほう!?気づきおったな!その通りじゃ!土にはいろんな性質や種類がある。土地によってもまったく異なるんじゃ。ここの肥料はこの場所の土の性質に特化しておる。だからキミの村で100%の性能を引き出すことはできんのじゃよ」
「なるほど···。ただいただいたとしても十分な性能がでないんですね」
「そうじゃ。それに、渡すといっても継続的に作ることはできんから一過性のものになってしまうしの。かといって作り方を伝授しても一緒じゃ。だから、渡すことはできんよ」
なるほど···。パパが生きてた時に言ってたけど、マイカ村はそこそこいい土地らしんだよね。ちょっとした肥料だけで毎回作物が採れてたらしいんだよ。賢者の遺産の知識にもあった、同じ作物を毎年作っていると年々出来栄えが悪くなる『連作障害』ってのもそんなになかったみたいなんだ。
やせすぎず、肥えすぎず···。そんな土だったみたいだ。現に今も収穫はちゃんとできているんだ。ここほどおいしくないんだけどね。食べるには問題ないんだ。
でもなぁ~。せっかくいいものがあるのに使えないってのはなぁ~。···待てよ?だったら『マイカ村オリジナルブレンド肥料』ってできないのかな?ダメもとで聞いてみるか!
「すいません、ブロンデルさん。誰かマイカ村に来ていただいて農業指導していただくことはできませんか?」
「農業指導···、だと?」
「はい。うちの村にはこの町ほど農業に精通している人がいないんです。誰か一人でも構わないので、来ていただいて指導していただくことってできませんか?お願いします!」
「ふ~~む···」
「············」
ブロンデルさんがちょっと考えこんじゃったよ。···これはいい回答は得られそうにないかもね。
そりゃそうだよ。いきなり見知らぬ人がこんな大きなことを聞いてきたら、誰だって拒否するよ。これは時間を置いて出直したほうがいいかもしれないね。
ボクが謝罪しようと口を開いたのとほぼ同時にブロンデルさんが顔を上げた。
「ごめんなさい」
「ん?おっ?どういうことだ?」
「え?いや、いきなりこんな事を言われて困惑されてしまったでしょうから、謝ろうと···」
「ほ~お?なかなか考えておるようじゃな?キミから依頼してきたのにもう撤回してしまうのか?」
「いえ···。いきなりこんな事を言われて、いい回答は出ないだろうなって思いまして。諦めてはいませんし、この肥料がなかったら作物が採れないという状況でもありません。これはあくまでボク自身のワガママなんです。『いい作物を作ってみんなに食べて元気いっぱいにしたい』っていう、ボクのワガママに付き合っていただくと考えたら···、ちょっとこの頼み方は悪手だったなぁと思ったんです。ごめんなさい」
「···キミは本当に少年か?かなり達観したものの考え方をしとるな。じゃあ結論を言わせてもらうぞ。条件付きでその話に乗らせてもらおう」
「···えっ!?」
「待て待て!条件付きって言っとるじゃろうが!」
「すいません···。で、条件はなんですか?可能な限りの対応はしますよ!」
「まずは住居の確保。一家4人で向かうから、そこそこな家を頼む。あとは作業場の確保じゃ。肥料を調合する機材はこちらで用意するが、それを扱う家が別に欲しい。最後に材料じゃ。これがクセモノじゃな」
「家は大丈夫ですが、材料···。どこまで用意できるかがわかりませんが···」
「まずは肥しとなる汚泥、あとは魔石じゃな。これがちとハードル高いぞ?」
「え~っと、汚泥は下水処理場でスライムくんが一括で処理してますね。その一部を分ける形で提供はできます。あとは魔石は···、これって使えます?」
ボクが無限収納カバンから取り出したアキさんの遺産である魔石を渡したんだ。大量にあるからちょっとぐらいはね。
「んなっ!?こ、これは···!?なんという高純度の魔石じゃ···!これならかなりの量が作れるぞ!」
「本当ですか!?」
「ああ!これはいくつ用意できる?」
「え~っと···、10万個ぐらいあるみたいなんですけど···?」
「···は?10万、だと!?」
「はい···。さすがに全部はちょっと···」
「広さにもよるが···、この町だったら1個で20年分は作れるぞ?」
「え!?そんなに!?」
「それ、1個この町にもらえるならいいぞ!」
「大丈夫ですよ!はい!」
「···こりゃとんでもない人物に遭遇してもうたなぁ~」
こうして交渉は成立しちゃったんだ。地上に降りるのは次に浮遊大陸がマイカ村の近くを通りがかる2か月後だ。その時に迎えに来て機材一式を無限収納カバンに納めさせてもらって期間限定で農業指導していただく事になりました。
「ライ!すごいわね~!ちゃんと村長として活躍してるじゃないのよ?」
「えへへ。まさかおなか空いて寄ったお店でこんな展開になるとは思わなかったよ」
「これもライの『縁』の力よね~。ライに関わったら、みんな幸せになってると思うわよ?」
「さすがにそれは···。偶然だよ。みんな幸せになろうと努力してるから、ボクはちょっとお手伝いするだけだよ」
アスにこう言われちゃったけど、全部みんなの力のおかげなんだ。そのお手伝いでみんなが笑顔になっていくのを見るのが楽しいんだよ。
作者は農業はしたことありません。親が家庭菜園やってましたが手伝ってませんでした(笑)。小学校で田植え体験と稲刈りやったぐらいかなぁ〜?
ですので、本職の農家の方からすればちょっとアカンところがあるとは思います。農家の小説家さんもいらっしゃいますしね。
ですが、場所によって土の特性が違うというのは知ってます。ですので、その土に合った肥料をやらないとうまく育たないみたいですね。
マイカ村はカルデラの中なので、火山灰の地質です。シラス台地みたいなかんじでしょうか?石灰はいらないんじゃないでしょうかね?
さて次回予告ですが、用事を終えたライくんたちはサムくんの家に戻ります。その道中、ライくんはとある疑問が思い浮かびます。どうも賢者の遺産にも答えはないようですよ?どんな疑問だったのでしょうか?
それではお楽しみに〜!




