7-15.金竜一族の移転
浮遊大陸に新婚旅行とお仕事でボクたちはやって来た。今回はレンも一緒だったので、レンのお父さんであるゴルドさんが迎えに来てくれたんだ。
そして今は町に向かっている。『本家』と呼ばれる町だね。集落じゃなくて人の世界でドラゴン族が過ごしていた町だ。
町に入ると、以前来た時よりも人が少なくなっていた。ドラゴン族の皆さんが地上に降りて、うちのマイカ村に一時滞在しているからだ。
「思っていた以上に人がいなくなっちゃいましたね」
「そうだな。そもそもここはドラゴン族の縄張り。付き合いのある人以外はそんなに来ない場所だからな。まぁ悪人が少ないとはいえ、さすがに無人の町というのも寂しいから、今は警備隊の拠点をこちらへ移す最中なのだよ」
「そうなんですね。ちょっと寂しくなってしまいましたね」
「いや、これでいいのだよ。ここはドラゴン族と神狼族の避難所が町に発展したのだ。だから、そこの人たちがいなくなるということは喜ばしいことなのだ。気に病むことはないぞ。むしろ650年もの避難生活にピリオドを打ったと誇ればいい」
「ありがとうございます。そんなに誇れるようなことじゃないですけどね」
ボクの感想にゴルドさんが答えてくれた。確かに避難することがなくなれば、それは素晴らしいことだよ。でも···、こんな感じでさびれちゃった町ってのもさみしいものだけどね。
でも、それはマイカ村もいずれそうなるだろうね。今いるのは一時避難している人たちばかりだ。ある程度情勢が落ち着いたら、また戻るだろうからね。だから、今は建設ラッシュが続いているけど、一時避難が終わったら取り壊しも考えないといけなくなっちゃうかな?
「ライ?どうしたの?何か真剣に考え事しちゃってるけど?」
「···え?あ、ごめん。ちょっとね」
アスに気を遣わせちゃったかな?すると、ボクの考えをズバリ当ててきた!
「もしかして···、マイカ村もこうなるって思ったの?」
「えっ!?な、なんで···?」
「やっぱりね~。ライ?そんなのは後回しでいいわよ。それに、今避難している人たちはよほどのことがない限り、ほとんどマイカ村に居つくと思うわよ?」
「え?どうして?」
「魔獣の脅威におびえながら生活する心配がないからよ」
「···あ」
「そりゃ、私だって結婚してなかった場合、グランドに帰れるなら帰りたいわ。でも、戻っても今の状況じゃいつ襲われてもおかしくないんだもの。だから、当面はそんな心配は無用だわ。まぁ、私はライと結婚したからずっとマイカ村にいるけどね!」
「うん···。ありがとう」
いけないいけない···。これもボクの思い込みだったよ。避難している人たちの意見を聞かずに『こうじゃないかな?』って考えてしまったよ。
···うん。ボクはマイカ村の村長なんだ。みんなに安心して暮らしてもらえるようにするのがボクの今の一番のお仕事だ。帰りたい人たちにはちゃんと支援してあげる。これでいいんじゃないかな?
今度、避難している人たちにいろいろ話を聞くことにしよう!
ボクたちは本家と呼ばれるアブルさんたちが住んでいた家にやってきた。今はゴルドさんたちが住んでいるようだね。
敷地に入ると、奥からいきなり人が飛び出てきた!
「レン!」
「母ちゃん!」
どうやらレンのお母さんのようだ。って!?抱き合うと思ったら!?
ズドドドド!!
激しい肉弾戦が始まった!?えっ!?どういう事!?
ガシッ!ガシッ!
レンの両手の拳がお母さんに掴まれた!
「ふふふっ!だいぶやるようになったじゃないの?動きにキレがあるわね」
「当たり前だ!たっくさんヒーロー活動して人助けしてきたんだ!」
「そのようね!こうして無事に帰ってきた!もうお母さんを超えたんじゃない?」
「冗談言うなよ!?母ちゃんのような伝説はまだ作ってないぜ!?」
「そうなの?なら、これからレンも伝説として語り継がれるような活躍をさらにするのよ!」
「今更言われるまでもねえぜ!ご先祖様のような大活躍をしてやるぜ!」
「うふふふっ!」
「あはははは!」
いや、その会話をしている間、2人から魔力が吹き荒れてるんですけど···。レンのお母さんも確かヒーロー活動?をしていたって聞いてたんだけど、かなりの実力者のようだね。
「あら?お客さん?しかも人···?珍しいわね!わたしはキャリィって言うのよ。よろしくね」
「初めまして。ライと申します。こちらは妻のアス、そして白銀竜のテオです」
「そうなのね。まぁ、ここではなんですからどうぞこちらへ」
ボクたちはキャリィさんに案内されて応接室に行った。ここでゴルドさんに近況報告をしたんだ。
「なるほど···。各種族が集落を作りに旅立ったと。そして魔獣同化能力者たちの勢力もかなり衰えて魔獣の出現も減ってると」
「はい。まだ予断を許しませんが、これまでよりも状況は好転してきました」
「いいことだ。ここ浮遊大陸に住まうドラゴン族も、我ら金竜以外はほぼ地上に降り立った。これで我らの悲願は達成された。改めてライくんに感謝するよ。ありがとう」
「そんな!?顔を上げてください。ボクはボクがやりたいことをやったまでですから!」
「ははは!それがすごいのだよ。今後も協力するので、引き続きよろしく頼むよ」
「はい!こちらこそ、よろしくお願いします」
その後もいろいろ話をして、お昼前にお暇させてもらったよ。
さて、時刻はもうお昼。せっかくだからサムの実家である『ハンティング・アイ浮遊大陸店』に行くことにしたんだ。今はタースさんが切り盛りしてるから、あいさつも兼ねてね!そうして着いてみると、すごいことになってたんだよ···。
「うわぁ~!すごく並んでるわね···」
「そうだね。ちょうどお昼時だからだと思うけど···」
「って、どこまでこの行列並んでんだよ···?」
お店に着いたんだけど、行列がめちゃ長くできていたんだよ!お店の前だけじゃなくて交差点を超えたところまで続いていたんだ!
「お~い!そこの人たち~!最後尾はこちらだよ~!今120分待ちだからね~!」
ボクたちを見つけて列の整理をしていた人が呼びかけたんだ。って、120分待ちって2時間だよね!?そんなに待ってたらお昼過ぎちゃうよ!?
とりあえず最後尾に行って整理していた人に話を聞いてみようか。
「こんにちは。ものすごく人気なんですね?」
「はい、こんにちは。人気···、って言うか、調理が追い付いてないのよね~」
「あ~、タースさん一人で切り盛りしてるから···。ぎっくり腰大丈夫なのかなぁ~?」
「おや?知ってるのかい?」
「はい。ここで泊めてもらってお手伝いもしてたんですよ」
「···ほう?」
···え?今、この人の目がキュピーン!って光ったけど?
「そんじゃあ、ちょっと手伝ってくんない?あたしも毎日ず~っと立ちっぱなしでしんどいからさぁ~!」
「あ~、まぁ今日だけなら···」
「ありがと~!さあ!一緒に来て~!お~い!タース!助っ人来たわよ~!」
というわけで、昼食を食べに来たのに手伝う事になっちゃいました···。
どうして···?どうしてこんな事に···?
町というのは目的があって成長するところがあります。誰しも住みやすい環境がいいに決まってますので、そういった場所には自然と人が集まるのですが、そうではなくて人為的に作る場合もありますし、落ち延びた先で作ったなど、いろんなドラマが人知れずあるだろうなぁ〜と思いますね。
浮遊大陸を避難先として誕生したこの町は、空き地に新規でできた町でした。しかし、地上に帰還して『避難先』としての役目を終えた町は、一気に寂れました。
しかし、それは喜ばしい寂れ方なんですね。一応金竜がすみかとすることになりましたけど、こうして役目を終えて無に還るというのも、町の成り立ちから考えると、安易に衰退と言うのではないところもあるかもしれませんね。日本だと長崎県の鉱山町であった軍艦島が有名でしょうか?
さて次回予告ですが、そんな寂れた町の中にも関わらず、サムくんの家の飲食店は大繁盛でした!しかし、切り盛りしてるのはギックリ腰持ちのタースさんだけ!そんなある意味爆弾抱えた危機的状況を見かねてライくんたちは手伝うのでした(笑)。果たして超多忙のランチタイムを乗り切れるのか!?
それではお楽しみに〜!




