7-12.ベスティアリッターたちの動き
時は半年前のレクト奪還直後に戻る。
ライたちによって奪還され、廃墟となってしまったレクトに『ベスティアリッター』の4人が戻ってきたのだ。···多くの人を捕まえた状態で。
「何があった!?」
門の前には多数の同化して魔獣となった者たちが倒れていた。それを見た壮年の大男が叫び、駆け寄っていった。ほかの3人もあわてて駆け寄っていった。多くの亡骸を見て壮年の大男がつぶやく。
「どういうことだ···?こいつらはかなりの強さだったはずだぞ?それがこんなにたくさん···」
どうやら亡骸はかなりの強者だったらしい。にも拘わらずこれほど多くの者たちが倒れているという状況を理解しがたいようだった。そんな状況のさなか、少年が門の中の様子に気づいた。
「ちょっと!?レクトが壊されちゃってるよ!?」
「まさか!?」
「こんなことをやった連中のしわざか!?」
少年の気づきに若い女と男が反応した。そして4人はゆっくりと門の中に入っていった。連れ去ってきた人は門の外で魔法によって身動きが取れない状態にさせていた。
門の中に入ると、至る所に同化して魔獣化した人たちが倒れていた。建物は軒並み壊されていて、無事な建物を探すほうが早いぐらいだ。それすら存在しないほど壊れていたのだ···。
壮年の男がつぶやく。
「いったいここで何があったというのだ···?」
「ぼくたちが出かけて帰ってくるのに3日だよ?その間にやられちゃったってこと?」
「まるで俺たちが出かけていると知ってやりやがったっぽいぞ?」
「でも、わたしたちのことを知ってる連中なんていたかしら?」
「Sランクって連中はぼくたちを知らないはずでしょ?」
「確かにそうだが···。これは偶然だったとでもいうのだろうか···?」
「今の状況じゃわからんな~。サクスかムクスがいたらなぁ~」
「あの二人はどこにいったのかしらね?ここにいないとなると···」
「あ~!だったらあそこにいるのかな?何かあった時にアジトになるっていう···」
「そうかもしれんな···。早めに行って状況を確認せねば···」
「そんじゃあ、捕まえたエサを持って行くか。もしアジトにいたら喜ぶだろうしな~!」
ベスティアリッターの面々はそう言って廃墟となったレクトを早々に立ち去り、アジトと呼ばれる場所へ向かった。
そのアジトと呼ばれる場所は切り拓かれた森の中にあった。村と呼べるほどの規模ではなく、5軒程度の掘っ立て小屋がある程度のもので、どうも開拓を夢見たのかはたまた町をを追放された者たちの行きつく場所だったか···。
今となってはもうわからない。それは、それまで住んでいた住人たちが食べつくされてしまっていたためだ。
そんな場所にベスティアリッターの4人は到着した。
「やっと着いたよ~!ぼく、疲れちゃった~!」
「どうやらここにサクスムとムクスがいるようだな」
「そのようね。骨が増えてるし」
そう、その家のすぐ横には骨の山ができていた。それでここにいると判断したようだ。
そしてノックもせずに4人が家に入った。
「サクス、ムクス!探したぞ」
「ターグか。すまんな···。レクトから来てくれたのか?」
「ああ。いったい何があったのだ?」
「Sランクの連中がドラゴン族の大軍を引き連れて襲撃してきたのだ···」
「そんな事が···」
「なんとも間の悪いことよ。多数の連中が人狩りに出かけてる時を見計らったかのように襲い掛かってきてな。奥の手を使って住民を捨て駒にしたものの、ギルドまで到達されてしまってオレも襲撃を受けてしまってな。ボイド様のお力でここまで逃げてこれたのだよ」
「そうか···。無事でよかった。こちらも人を狩ってきてここまで連れてきている。道中でいくつかは食ったが」
「それはありがたいな。先日狩った連中も入れている食糧庫へ入れておいてくれ」
「わかった」
ターグと呼ばれる壮年の大男とサクスと呼ばれた総帥がお互いの状況を確認しあった。
その後、少年が連れ去ってきた人たちを食糧庫と呼ばれた家に押し込んでいった。中では強烈な悪臭が漂っていた。中にはもう死んでいる者すらいるようだった。
「あ~、もうダメになってるやつがいる~!じゃあいっただっきま~す!」
「こら!アクリャ!つまみ食いしたらダメだろうが!」
「え~!だって腐らせる前に食べちゃわないともったいないよ!ほら!こっちもダメだからウルススも食べちゃいなよ!」
「まったく···。サクスもムクスもちゃんと世話してやがらねえのかよ···。こんなんじゃ繁殖なんてできやしねえじゃねえかよ···。ほら、さっさと食え。死なれるとおれらが困るんだよ」
アクリャと呼ばれた少年が死体をむさぼり食ってる様子を、ウルススという若い男が呆れてみていた。
そして食糧庫に押し込められた人たち用のエサを持ってきた。しかし、押し込められた人たちは目の前で死体をむさぼり食う2人の姿を見てしまい、とても食べれるような状況ではなかった。
そこにあるのは絶望···。人外な2人の姿とサクスムとムクスと呼ばれた2人がこれまで自分たちを目の前で食べてしまっている光景を目の当たりにして、生きる気力すら失われてしまっていたのだった···。
もはや助からない···。どうしてこんな事に···?
そんな絶望感の状況で、目の前に食料を出されたとしても、とても食べたいとは思わないだろう。
家の中では今後の話が出た。6人がテーブルを囲みながら話し始めた。
「レクトが落とされたって事は、魔獣同化能力者のほとんどがいなくなっちまったって事か」
ウルススがサクスとムクスに話しかけた。ムクスと呼ばれた男が話始める。
「そうなるな。レクトにあった魔獣同化能力者を生み出す装置も破壊されてしまったからな。あれは遺跡からの掘り出し物だから、一から作り出すことができん···。ほかにあるとして探し出したとしても、動くかどうかもわからんからな···」
「ふーん···。じゃあ、実質ぼくたちだけってことになっちゃったの?」
「そういう事だ、アクリャ。まぁ、オレたちが子孫を生み出せたら殖えることは可能だろうがな」
「でも、それってエサと交われって事?わたしはごめんだわ!」
「ペンスの言うとおりだ。だが、人を食い続ければ寿命は延びる。それについては今は考えなくてもいいだろう」
「では、今後はどうするのだ?人狩りを続けるのか?繁殖を進めるのか?」
ターグがサクスに問うた。
「しばらくは現状維持だな。どうもSランクの連中やドラゴン族の連中が活発に動き出したようだ。ヘタに尻尾を見せたらすぐにでも襲い掛かってくるだろう。こちらとしては人数が少なくなった事で動きやすくはなっているが、もう少し落ち着いてからでも問題なかろう」
「では、しばらくここで滞在ということか?」
「そうなるな。そして今後は大規模にさらうのではなくて、少しずつでいこう。多少味は落ちるが、貧困な連中の方が町のエサどもは気づきにくかろう。一人や二人減ったところでエサの連中も気にもしないだろうしな」
「まぁ、順当だな。ここ最近、ワシたちも動きすぎて疲れていたからな。しばしのんびりするとするか」
彼らはこのあとのんびりと過ごした。結局食糧庫にいた人々はすべて食べつくされてしまった。そしてこの半年後、ボードで人をさらった事をテオに突き止められてしまい、このアジトはライたちの襲撃を受けることになるのだった。
しかしその襲撃の直前に彼らは人の繁殖を諦め、とある作戦のために動き出していたために、ライたちの襲撃は不発に終わってしまう···。
今回のお話でベスティアリッターの6人の名前が明らかになりましたね。ネタバレ集で名前の元ネタは公開しますので、もうしばらくお待ちくださいね。
彼らの行動は基本的には『人を食べる』事です。
ですので、一気に町を滅ぼしたりむやみやたらと人を殺すことはしません。人を食べる期間が開いてしまうと一気に食べてしまいますけどね。
だから人を養殖なんて考えに至ってしまうんですね。これ自体は人も同じです。ただ、人の養殖にはあまりにも時間と食料がかかりすぎてしまうために断念してしまう結果になります。一言で養殖と言いますが、私たちの食べ物の養殖物もものすごい労力がかかってるんです。作者はバカ舌なので天然だろうが養殖だろうが気にせずに食べちゃいますけどね。
さて次回予告ですが、ライくんたちはベスティアリッターたちのアジトを突き止めて襲撃しようとしますが、今回のお話のとおり不発に終わってしまいます。そこで見た惨状はとんでもないものでした···。
それではお楽しみに~!




