7-4.ライ、戦いのむなしさを感じる···
ダイナモの町に送り込まれていた魔獣同化能力者を倒すことに成功した。
合体変身を解除して、ボクとテオは倒したヤツのそばにいた。そこにカソドさんがやって来たんだ。
「無事倒せたようだな」
「カソドさん···。来てたんですね?」
「当たり前だ。キミたちに任せてはいたが、私が全責任を負うのだ。それに···、実は知り合いでもあったのでな···」
「そうでしたか···」
カソドさんの顔が曇ったよ。やっぱり知り合いが魔獣同化能力者になってたのがショックだったんだなぁ。
「どうしてこんな事になったのか···。突然彼女が監査官として現れた時は驚いたものだ。Aランク冒険者として活躍していたというのに、なぜギルド職員になったのか理由を聞いてもはぐらかされてしまったのだよ。雰囲気も当時とはまったく変わっていた。おそらく、魔獣同化能力者となった時点で、彼女は別人になってしまったのだろうな」
「魔獣同化能力者は精神を侵食されるんだ。力を与えられた時点で、性格が変わるのは当然の結果だな」
「テオくんの言うとおりだったよ。我々はライくんたちから事前に魔獣同化能力者の話は聞いていたので、すぐに気づけた。本当に助かったよ。そして···、つらい思いをさせてしまい、申し訳ない」
「いえ···。でも、どうしてそんな活躍していた人が魔獣の力に取り込まれてしまったんでしょうか···?」
「今となってはわからんな···。いや、生きていても聞いた時点で襲われる可能性が高かった。そんな危険を冒すことはできないからな」
「それもそうですね···。力があっても、それでも力を追い求めてしまったんでしょうね···。そんなに強くなってどうしようというんでしょうか?」
「さあな···。しかし、ライくんもかなりの力を持っていることは自覚しているかな?」
「···はい。ボク自身、賢者の遺産を継承するまでは普通の子どもでした。偶然遺産を継承して、こんな事になっちゃいましたけど、ボクはこの力はみんなを守るために使おうと思ってますから、こうはならないと思います」
「そうか···。だが、人は変わる時がある。力の使い方には十分には気を付けるのだよ。テオくん、ライくんをサポートしてやってくれ」
「言われるまでもねえぜ。さっきの戦闘でもしっかりサポートはしたぜ!」
「ははは。なら大丈夫だな。では、彼女については門兵に任せておいて、我々は戻るとしようか」
「はい」
「おう!」
戦いを終えて、ボクたちは戻ろうとして歩き出したけど、ほんのちょっとだけ振り向いて彼女を見た。
Aランク冒険者といえば、ものすごく強くて信頼のおける人だったんだろうね。なのに···、どうしてこんな事になってしまったんだろうか?
魔獣同化能力者なんてならなくても活躍できていたはずなのに···。まさにアノドさんがかつて言っていた『力に溺れてしまった』んだろうか?
もちろん、倒さないという選択肢はなかったよ。ボクと話している時はちゃんと正気を保っていた。ということは···、ダイナモの人を隠れて食べていたんだろう···。
だから倒さなくちゃいけない。それはわかっているんだよ。
でも···、なんだかむなしさを感じるんだよ···。
魔獣同化能力なんて技術がなければ、こんな事は起こるはずもなかったんだよ。
どうして昔の人はこんな狂った技術を作り出してしまったんだろうか···?テオの話によると、戦争に勝つために作り出した悪魔の技術との事だけど···。
そんな力に頼らないといけないほど、悲惨な戦争だったんだろうね···。人を守るために人を捨てるなんて···。
なんとしても、こんな事は終わらせないといけない!そう改めて決意をしたんだ。
ギルドにカソドさんと一緒に戻った。もうボクたちは指名手配されてないから、もう入っても大丈夫になったよ。
そして、カソドさんがギルドに入ると、すぐに大声で宣言した!
「皆の者!本日よりここダイナモのギルド支部は前総帥の遺志により中央本部となる!レクトの国が滅び、ギルド中央本部の機能が喪失されたことに伴う緊急措置だ!皆に普段通りの業務を提供し、組織を立て直す所存だ!皆の一層の活躍に期待する!」
中にいた冒険者さんたちはびっくりしていたよ。まったく状況が飲み込めていない人ばっかりだったね。そりゃそうか。レクトの国の状況なんて、誰も知らないもんね。
「おかえり、ライくん、テオくん!」
「ポーラさん···。無事戻りました」
「おう!帰ったぜ!」
「本当に迷惑かけちゃったわね···。でも···、まさかあのちびっこ冒険者がこんなに立派になってるなんて、あの時は思いもしなかったわね~!」
「ははは···。なりゆきでこうなっちゃいましたけどね···」
「冒険者に仕立てた方がそれ言うのかよ···」
でも、そうだよね?ボクもここに最初に来た時には冒険者になるつもりは一切なかったからね!あの時はどう判断していいのかわかんなかったから、流れに流されてこうなっちゃったんだけどね。
だけど、後悔はしていないよ?冒険者になったおかげで、サムやウイン、トルムにコルメ、それに浮遊大陸の人たちと知り合うことができたんだ。そして···、全部は無理だったけど、多くの人を救うことができたんだ。
受付でポーラさんと話をしていると、2階からレートさんたちが下りてきたよ。
「カソドさんが大声出してたから何事か?と思ったら···、ライくん、テオくん。無事に戻ってくれたようだね」
「レートさん···。ご心配おかけしました」
「本当だよ!いつもいつもSランクのみんなは無茶しすぎるんだよ!おかげで胃薬を手放せなくなってるんだからね!」
「ははは···」
「少なくともオレらはサムたちよりもマシだと思うんだけどなぁ~」
「いや、テオくん?キミたちも十分無茶してるからね!」
「えっ!?そ、そうなのか···」
「ははは!ああ、そうだ!レートさん?ボクが今作っているマイカ村に来てもらえませんか?」
「え?いきなりだな···。って、ライくん?今、村を作ってるって?」
「はい。浮遊大陸に避難していたドラゴン族の人たちが地上に下りるための支援をするために作ったんですけど、いろんな町から避難してきた人たちがいっぱいいて、お仕事の紹介とかがうまくいってないんですよ。それってギルドのお仕事に似てるから、手伝っていただけないかな?と思って···」
「なるほどね···。ここのギルドはダイナモに避難してきた人たちに仕事を斡旋する業務もあるから、それに関してはできなくもないけど···。でも、カソドさんの許可が必要だけど···」
「レートが良ければ構わんぞ?」
「即答···!?わかった。今すぐはちょっと無理だから、時間をもらえるかな?」
「いいですよ!村も家を建てるのが間に合ってないですから。こっちも準備しておきますね!」
こうしてレートさんたち元Sランク担当職員は引っ越し準備と業務引継のため、マイカ村に来てもらえるのは2週間後となったよ。これでマイカ村もさらに発展してくれるだろうね!
ライくんは今まで魔獣に対して恨みと、魔獣を倒して安心して暮らせるようにという思いで戦ってきました。
しかし、今回の戦いでは知り合いの人の知り合いを倒した事で、ただの敵ではあるのに倒したことに対してむなしさを感じました。悪いのは技術を悪用した事だって思ったんですね。
さて次回予告ですが、ライくんがレクトに攻め込む前にアスちゃんから話したいことがあると言ってましたが、ついにそれが明らかに!どんなお話なんでしょうか?
それではお楽しみに〜!




