6-21.レクト奪還に向けて
サムは無事に帰ってきてくれた!帰ってきたのは昼過ぎだったよ。
「おう、帰ったぜ···。ちょっくら寝かせてくれ···。疲れちまったぜ···」
「お疲れ様。ゆっくり休んでね」
サムは疲れ切っていたんだ···。何があったのかは後でわかるだろうけどね。
そしてその日の夜、ボクたちSランクのみんなとアエスさん、エムスさん、ヴィンターさん、それにドラゴン族代表のアルブさんで作戦会議を行った。
まずはサムからレクトの状況の説明があったよ。酷すぎる状況になってるようだね···。
「壁や門を壊す必要はねえな。だが、入ったとたんに襲われるのは確実だ。アイツら、感覚が鋭敏だから夜襲も意味がねえ。そういう意味では日中に正面から叩きつぶすのがいいかもな」
「とんでもない連中ですな···。伝説で聞いていたのとはかなり酷い···」
「アルブさん。ドラゴン族の皆さんで抑え込めそうですか?」
「おそらく問題ないでしょう。ただ、徒党を組まれると厳しいかと。複数で1人相手であれば負けないでしょう」
「わかりました。サム?どれぐらいの人がいたの?」
「見た限りで200人ってとこか?でも、外に出てる連中もいるだろうから、その倍はいるだろうな」
「···バックアタックの可能性」
「ウインのいう通りですね。となると、誰か連絡できる人を門に配置するか、門を閉めるかですね···。それは僕がやりましょう」
「トルム?いいの?」
「はい。後方の安全確保も大事ですから」
「おそらくさっき話したヤバい『ベスティアリッター』は全員出かけてるはずだ。だから、連中で強いのは総帥とキャビで出会ったあの男だな」
「だったら、その二人にはSランク全員で当たったほうがいいわ!トルム?あなたもやっぱり前線に来てもらったほうがいいわ!」
「となると、だれがバックアタックの警戒をします?」
「私がやるよ」
「母ちゃん!?」
「アエスさん?いいんですか?」
「ああ。チームワークって事ならあんたたちだけの方がよさそうだしね。退路の確保もしておくよ」
「では、アエスさんにお願いします。それじゃあボクたちSランク組は先陣を」
「待ちなさい。それはおれとヴィンターでやろう」
「···パパ?」
「エムスさん?いいんですか?危険ですが···」
「だからだよ。おれとヴィンターで道を切り拓く。ライくんたちはそのまま中央本部まで指一本触れさせないようにしておくよ」
「···ライくん、···ウインをよろしくね」
「···わかりました。ではお願いします。町中の魔獣同化能力者たちはアルブさんたちドラゴン族の皆さんで対処をお願いします」
「心得た。国の入口は4カ所だそうだな。部隊を4つに分けて、包囲網を狭める方針でいいかな?」
「はい。それでお願いします。作戦開始はいつにしますか?」
「休息も考えると3日後でどうかな?」
「そうですね···。アルブさんの意見で問題ないでしょう。皆さんはいかがですか?」
「「「「異議なし」」」」
「では···、3日後の午前9時に広場に集合して、奪還作戦を始めます!」
「「「「おーーー!!」」」」
レクト奪還は3日後に決まった。ボクたちが追い出されて約半年弱···。レクトの住民で生きているのは全員魔獣同化能力者か魔獣化してしまった人たちだ···。
何も知らずにレクトに入ってしまった人たちはみんな食べられてしまい、さらにはボクが助けに入った町の人々までさらわれてる···。こんな事は絶対に許されない。
今回の戦力は400人弱。考えうる限り最強の戦力だ。この戦力をもって、この戦いに終止符を打ってやる!
会議を終えて外に出ると、心配そうな顔をしているアスがいた。
「ライ···」
「アス···。3日後にレクト奪還に向けて出発するよ」
「そう···。帰って···、来てくれるよね···?」
「···うん。ちゃんと、帰ってくるよ」
「···うん。それが聞きたかった」
「そう?でも···、激しい戦いになるのは間違いないんだ。『絶対に帰る』って言えないけど、ボクは帰ってくるつもりだからね」
「え···?」
「あはは。ちょっと難しいけどね。精一杯頑張るよ」
「···うん。本当は話しておきたいことがあるんだけど···、帰ったら話すね」
「帰ったら···?よくわかんないけど、楽しみにしてるね!」
···やっぱり心配だよね?そりゃ、魔獣よりも強い相手だからね。
さっき『絶対に』をつけなかったのは、遺産の知識によると『死亡フラグ』というものらしい。それを事前に約束してしまったために、戦場で死んでしまうんだってさ。
だからボクは『帰ってくる』だけに止めておいた。そのつもりなのは間違いないからね。
そして3日後···。
広場にはドラゴン族の皆さんとボクたちが集まった。
なんとレンも付き合ってくれるとのことだ!
『敵の本拠地に乗り込むんだろ?こんな熱い展開は、ヒーローなら参加するに決まってるからな!』
との事で、ドラゴン族の皆さんの指揮をアルブさんと一緒にやってくれるそうだ。
みんな集まったところで、トルムからこんな提案があったんだ。
「ライさん。ここでみんなを勇気づける事を言っておきましょうか!」
「···えっ?ボクが?」
「そうですよ、村長」
「···わかったよ」
村長だからってのは勘弁してほしいんだけど···。気合い入れるためにやっておくか!
ボクは広場に置いてあった木箱に乗った。
「皆さん!」
ボクが呼びかけると、みんなこっちを見て静かになったね。
「これから、魔獣同化能力者に乗っ取られてしまったレクトへ出撃します!町の中には人はもう···、いません!悲しいことですが、これが現実なんです!そして、魔獣と魔獣同化能力者による被害をこれ以上拡大させないためにも!ここで潰しておきます!建物の被害は考えなくていいです!ボクから皆さんにお願いするのは、『生きて帰る』事です!ムリと判断したら躊躇なく撤退して下さい!生きていればチャンスはありますから!それでは···、行くぞーーーー!!」
「「「「おーーーー!!」」」」
こうして、後の世の中で『レクト奪還大作戦』と呼ばれるほどの壮絶な戦いが今、始まろうとしていたんだ···!
レクト奪還大作戦の前日譚をお届けしました。
前回はSランクだけという少数で向かい、敗北しましたが、今回は400人規模で立ち向かいます。
敵も全員魔獣同化能力者になってしまいました。一部は魔獣化して町中を徘徊している状況です。
目的は全撃破!凄まじい戦闘がこのあと4話連続でお届けしますよ~!
さて次回予告ですが、ライくんたちはレクトに突入します。立ちはだかる敵を次々に倒していきますが、思ったよりも強くありません。疑問に思っていたところ、ライくんの耳には聞こえない音が国中に響き渡り、その直後から魔獣同化能力者たちが凶暴化します!どう対処するのでしょうか!?
それではお楽しみに〜!




